1. 飛行機械のこと

巨大な飛行機械が音もなく空を遊弋していた。その動きは鈍重そのものだった。


子供の頃、軽々と飛び回る飛行機械を見た。父親に連れられていった科学展覧会。観衆の上をパイロットが手を振りつつ駆け抜けていった、人一人が乗るのがやっとの軽飛行機。それはまるで大空を自在に飛び回る燕にも似ていて。あれに乗ることができたらさぞかし楽しいだろう。そう思っていた子供時代の幻想と眼前に膨らむ飛行機械はまったく相容れない。僕にとって飛行機械は未来そのものだった。


それに対してたくさんの砲を据え付けたこの飛行機械は不格好だと思った。美しさを何も感じさせない。手当たり次第に砲があちこちを向いている。私は軍用の大きな飛行機械は嫌いだった。もちろん、好き好む人の方が多い。大きさと重量感だけは見るものに圧迫感を与える効果があったから。しかし、巨大だから偉い、巨大だから良いというのは幼稚だと思う。


尾翼からの信号灯が何度か発火し、今度は中くらいの飛行機械がぞろぞろと列をなして集まってきた。


夕焼けを反射した飛行機械の群れが警笛を鳴らしながらゆっくりと過ぎ去っていく。あいつらが向かうのはオグラード連邦との国境。理由は単純だ。僕たちははこんなに巨大な飛行機械をいくつも持っているんだぞ――――子供が自慢しあって張り合うのとなにも変わらない。最近では工学科を卒業した学生たちが卒業式で科学の夜明けだのと叫んでいるが、私には馬鹿だとしか思えなかった。自分たちが一番賢しいと思い込んでいる。自分の屁を嗅いで悦に浸っているカマ野郎だ。


この丘からは坑道のすべてが見渡せる。坑夫たちは慎重に遺物を坑道から引っ張り上げ、貨物列車への積み込みを続けている。遺物――僕たちがそう呼んでいるのは、言葉通り、紛れもない、ただの遺物だった。前時代の文明が残した飛行機関。我々はそれを原理もわからぬまま、試行錯誤で使っているに過ぎない。もし遺物の抗脈がオグラード連邦にあったら、カマ野郎たちが科学の夜明けだのと叫ぶ場所がオグラードだったことだろう。それ以外の違いなんて無い。


冷たい風が草木をゆらして駆け抜けていった。しかし飛行機械はびくともしなかった。もうすぐ冬が来るのはわかっていた。風が冬の匂いを運んで聞いていたから。


フィラメントが切れかかっている街灯が点滅していた。妙に寂しさを感じながら、家路についた。ポケットに手を入れて、白金懐炉を握った。

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