34 魔法の勝負をしました

 いや、それよりもクロス兄とティオを救い出すのが先だろ。

 太陽の精霊の味は気になるが、ご飯は仕事の後に食べるものだ。


 意気投合したウォルト兄と父上の会話に割って入ろうとした時。

 軽い足音と共に、子狼が樹の幹の後ろから駆け寄ってきた。


「……おじさーん、僕の魔法を見てー!」

「おお、シルバ」


 白い毛並みで俺の二倍くらいの大きさの狼だ。

 名前はシルバと言うらしい。

 父上をおじさんと呼ぶからには、もしかして俺の親戚なんだろうか。


「ゼフィリア、こっちは私の妹の子供シルバだ。年はお前と同じか少し上だな。仲良くするように」


 推測は当たりだった。

 父上はシルバを俺の前に導いて、引き合わせる。

 同じフェンリルの子供に会うのは初めてだぜ。


「よろしく、シルバ」


 挨拶をすると、なぜかシルバは上から目線で俺を見下してきた。


「お前、ちっちゃいな!」


 むかっ。


「ウサギ狩りはできるのか? その分じゃ、魔法もまだだろ!」


 むかむか。


「まほう、つかえるし!」


 腹が立ってつい言い返してしまう。

 いかん、俺は大人、大人……。


「へー。兄ちゃんが見てやろうか?」


 俺の兄たんはクロス兄とウォルト兄だけなんだぞ。

 なんだこの小生意気な僕ちゃんは!


「……」

「ぜ、ゼフィ、落ち着け……」


 肉親の勘か、俺がキレかけているのに気付いたウォルト兄はおろおろする。

 父上は、俺とシルバを興味深そうに見比べた。


「ちょうどいい機会だ。シルバ、ゼフィリア。お前たちの魔法を見てやろう。フェンリルの基礎である氷魔法で、何か面白いものを作って見せよ」


 いきなりお題が出た。

 これって魔法勝負?

 俺はまだ受けるって言ってないけど。


「やった! 僕の魔法を見せてあげるよ、ゼフィリア!」


 シルバは得意満々に胸を張る。

 ほー。お手並み拝見だな。

 俺はむかついてはいたが、これも魔法を学ぶ良い機会だと気持ちを切り替えた。


「氷の花よ、咲け!」


 先行で魔法を使うシルバ。

 集中する子狼の目の前の雪が盛り上がり、パキパキと音を立てて氷柱つららが立ち上がる。氷柱の先が割れて枝葉が伸びていく。

 数分の内に氷柱は子狼の頭の高さまで育って、ギザギザの氷の花が出来上がる。


「へー」

「どうだ?!」

「うむ、シルバよ、中々の物だな。魔法の操作技術の高さが反映された、細やかな造形だ」


 品評会の審査員みたいな感じで、父上はシルバを褒めた。


「えへへ」

「うむ。お前の年でここまでできれば、才能があると言ってよいだろう」


 氷の花が作れるのって、そんな凄いことなのか。

 俺、魔法が使えるって言っちゃったけど、氷の魔法は練習したことないや。これは勝てないかな。


「ゼフィ君」


 黙って様子を見ていたヨルムンガンドが、話しかけてくる。


「氷の魔法で物を作るのは、君がいつもやってる変身魔法を、他のものにかけるようなものだ」

「そうなの?」

「ふふ……ゼフィ君、この間はローリエ王国の都に遊びに行ったんだって? 私は人間の都市で飼われている馬という生き物が好きでね。見せてくれないか」


 ヨルムンガンドは俺にリクエストする。

 馬か。

 前世で乗っていたこともあるから、よく知っている。

 あいつら可愛いよな。肉はうまいし。

 よーし、やる気が沸いてきたぞ!


「おうまさーん、かもん!」


 俺はノリノリで魔法を使った。

 付近の雪が俺の気分に反応したように、軽やかに舞い上がり、キラキラ光って氷の粒が現れる。

 氷の粒は一点に集中して合体し、見る間に体積を増やしていく。

 滑らかな透明の氷の馬が実物サイズで空中に登場した。

 この間、数十秒ほど。


「うごかしていい?」

「?!」

「勿論だとも」


 俺の台詞になぜか父上はぎょっとし、ヨルムンガンドは楽しそうに頷いている。ウォルト兄は悟りの境地みたいな顔をしていた。

 やっぱり馬は走らないと馬じゃないよね。

 ということで俺は、氷を溶かしたり風を吹かせたりしながら工夫して、馬の動きを再現してみた。

 ぱっかぱっか。

 魔法って楽しいなー。


「……(呆然)……」


 シルバは阿呆みたいに口を開けて、氷の馬を凝視している。

 父上も遠い目をしていた。

 あれ? 皆の反応が思ってたのと違う。

 この氷の魔法じゃ駄目なのかな。


「父上……?」

「う、うむ。高度過ぎて私にも真似できんというか、飛び抜けているというか、ぶっちゃけ規格外だが、素晴らしい魔法だ!」


 父上は首をこくこく縦に振った。

 高度過ぎるって、謙遜だよな。

 きっと父上はもっと凄い魔法を使えるに決まってる。子供の俺を褒めて育てようとしているのだろう。前世の記憶もあって大人な俺は、建前と本音を知っているのだ。言葉通りに受け取っちゃいけない。

 これからも精進あるのみだ、うん。


「くくく……」


 ヨルムンガンドは腹を抱えて笑っている。

 何がそんなに面白いのかな。


「……ずるいぞ! どうせ手伝ってもらってるんだろ!」

「ふえっ?」


 シルバは我に返ると俺を責めた。


「僕は一人の力で魔法を使ってるのに!」


 いや、俺も一人だけど。


「シルバよ。負けたのを他人のせいにしてはならんぞ……しかしゼフィと比べるのは酷か」

「ひどいよ、おじさん!」


 シルバは父上が味方になってくれないので、すねてどこかに走って行ってしまった。子供か。あ、そうか子供だった。


「……それにしてもフェンリル殿。ご子息のゼフィリアはもしかして」

「気付いたかヨルムンガンド殿。非常に珍しいことだが、おそらく貴公あなたの推測通りだ」


 ヨルムンガンドは父上と意味が分からない話をすると、俺を振り返った。


「ゼフィ、君はフェンリルだから生まれ持った属性は氷だろうと思っていたが、実は違ったようだ」

「どゆこと?」

「君の生まれ持った属性は、珍しい月という属性だよ。この属性の魔法は存在しないが、代わりに他のあらゆる属性の魔法が使い放題になるのだ」


 使い放題?!

 それって肉食べ放題と同じくらいお得ってことだよね。

 やったね!


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