12 新しい魔法を覚えました

 最近、変身魔法を学ぶために、ロックイーグルをずっと観察していた。岩の上のロックイーグルの巣には、大きな卵が複数並んでいる。

 美味しそうだな……。

 あれだけ大きければ、茹で卵、卵焼き……いろいろな料理で楽しめそうだな。じゅるり。


 食欲を我慢できなくなった俺は、練習中の魔法でロックイーグルもどきに変身すると、奴が留守の間に巣に忍び込んで、卵を二つ盗み出した。

 

「にんげんの村にいって、料理してもらおうかな」


 フェンリルの手足だと料理できない。村の人間に頼んで茹でてもらおうか。人間の姿に変身して、ティオの家の台所を借りて料理してもいい。


 せっかくなので兄狼にも食べさせてあげたい。

 だが、クロス兄は先日の一件でヘソを曲げたのか別行動中で、ウォルト兄は一匹で大物を狩りに行ってしまったので、珍しく俺はひとりだった。


 雪の上に転がした卵を前に考えていると、空から影が落ちた。


「……美味しそうな卵だ」


 見上げると、青い翼を広げて神獣ヨルムンガンドが、俺を見下ろしていた。

 ヨルムンガンドは海に棲む、竜によく似た神獣だ。


「あげないからね!」


 これは俺と兄たんたちのご飯なのだ。

 

「とらないよ。ゼフィ、私は君に魔法を教えに来たんだ」


 そういえば、ヨルムンガンドの弟子になったんだ。

 弟子になってからずっと放置プレイだったから、忘れられたのかと思ってたよ。

 いよいよ本格的に魔法を習えるのか。


「まほう! かっこいいファイアーボール、教えて!」

「君は雪と氷のフェンリルだろう」


 前世の戦場で、魔術師たちがバンバン飛ばしてた火球が格好よくて威力もすごかった。あんな風な攻撃力のある魔法を覚えたいな。

 戦いは飽きたんじゃないかって?

 ゆっくりのんびり暮らしたいけど、それとは別に、格好いい派手な魔法は覚えたいんだよ。


「だが断る……君には時の魔法を教えよう」

「えー……とき?」


 俺はがっかりした。

 何の魔法だか知らないが、雰囲気で分かる。

 きっと地味な効果の魔法だ。


「私たち神獣は、長い時間を生きるから時間の感覚がにぶい。しかし、もともと人間の君なら、時間という概念をすぐに理解できるだろう。人間は短い時間を懸命に生きるものだから」

「ときのまほう……きいたことない」

「残念ながら、人間の魔力では時を操るのに足りないのだ。人間の知識を持ち、神獣の魔力を持つ君には、時の魔法はぴったりだと思うよ」


 火や水の魔法を使うのが一般的だというのに、ヨルムンガンドは時の魔法を薦めてきた。

 仕方ないな。後でちゃんと火球の魔法も教えてもらおう。

 ひとまず、俺は大人しく魔法の使い方についてレクチャーを受けた。


「……さあ、せっかくだから、さっき説明したことを卵で試してみようか」


 ヨルムンガンドにそう言われて、俺は、頭の中で時計をイメージして、針をくるくる右回しに進めた。

 ロックイーグルの卵が一瞬、まばゆく光る。


「ピヨ!」


 卵が割れてロックイーグルのひなが生まれた!


「ああああっ、ゆで卵にするつもりだったのに!」


 雛は俺を見て親だと思ったのか、ピヨピヨ寄ってくる。

 うう、可哀想で今さら卵に戻せないよう。


「続けて、そのヒヨコを成長させて大人の姿に……」

「かわいくなくなるからヤだ!」

「もう一個の卵で復習を……」

「これはご飯にするの!」


 時の魔法、なんて役に立たない魔法なんだ。

 ハッ、そうだ牛乳を発酵させてチーズにするのはどうだ。


「ごはん……」

「君はとても食い意地が張っているな」


 ヨルムンガンドは呆れたようだった。


「ときのまほうはマスターしたから、ほかのまほう教えて」

「無理だ」

「はい?」

「変身、つまり無の属性と、今回は時の属性の魔法を覚えて、君の能力保管スキルスロットは限界になった」


 ぬわにいぃーーっ?!


「フェンリルは普通、氷の魔法と、反属性の耐性を付けるために火の魔法を覚えるものだが。君は変わっているな。ははは」

「ははは、じゃ、なーいっ!」


 まるで他人事のように笑うヨルムンガンドに俺は憤慨した。

 道理で兄たんたちは、雪崩なだれと小さな火を起こす魔法以外、使わない訳だよ。


「神獣は、時間をかけて鍛練することで能力保管スキルスロットを増やせる。そうだな、百年くらい修行を積めば、他の属性の魔法も覚えられるようになる」


 百年って結構長い。

 ヨルムンガンドは俺に魔法を教えて満足したのか「また機会を見つけて来るよ」と翼を広げて舞い上がった。そして、そのまま東の海へ帰ってしまった。


「まほう、ははうえに教われば良かったなあー」


 俺は卵を抱えてうなだれる。

 母上なら、ちゃんと最初から説明の上、俺に魔法を選ばせてくれただろう。

 ロックイーグルの雛がピヨピヨと俺をなぐさめてくれる。


「……とりあえず、にんげんのむら、いこう」


 魔法でロックイーグルもどきに変身する。

 何回か練習を重ねたからか、変身できる時間は段々長くなっていた。

 卵と、先日借りた人間の服をえいしょっと掴み、背中に雛を乗せて空へ飛び立つ。服は村に着いたら、変身して着替える用だ。


 高いところから低いところに降りるだけだから、ふもとにある人間の村は、すぐに着きそうだ。


「ん? なんだかさわいでる?」


 小さな村の真ん中で、見覚えのある太った山猫がシャーシャー言っている。

 そして、その周囲をくわや斧を持った村人が、騒ぎながら取り囲んでいた。


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