僕は君に

 どんどんとスノウとぼくは暗闇へと進んでいく。もう光が無くなってからはどれくらいの時間が経っただろう。潜行していくさなか、ぼくの体は少しずつ変異し始めていた。

 始めはただ単に目が暗闇に慣れただけだった。最初は何も見えなくて、少し怖かったのが、今ではスノウの姿をはっきりと視認することが出来るようになった。

 それから、僕の腕の皮膚が固くなっていった。普通はこれだけ水の中にいるのだからふやけていくものだと思っていたのだが、どんどんと固くなっていって、まるで魚の鱗のようになっていった。今の所自分で分かっているのはこれくらいだったけど、もしかしたら自分では見えないところはもっと変わっていっているのかもしれない。けれど、そんなことは気にならないくらい、最近はとにかく眠い。眠って、起きてを緩慢に繰り返しているような気もするし、数十秒おきに現実と夢を行き来しているような気分にもなる。

 

 あぁ、それと。あともう一つあった。一つだけ、分かったことがあった。

 僕たちはどうやら記録を潜行しているようだということだ。

 潜行していくにつれて、水面を目指し旅立つ水泡が目立つようになってきた。それに触れたり、もしくは僕の近くをそれが通ったりすると、たまに何かが聞こえるのだ。初めはそれこそ、何か聞こえるような気がする程度の感覚だったが、何度もそれに触れている間に、やはり何かが水泡に包まれていることに気がついた。その中身が何であるかを理解したのは最近のことだった。

 

 親友への恨みを持って死んでいった人。

 人知れず、報われない最期を迎えた人。

 何もかもが嫌になって自分の命さえ投げ捨ててしまった人。

 

 経緯に差はあれど、そこに溢れていたのはどれも暗い死を迎えた人々の記録だった。

 嗚呼、悲しい。自分の事ではないけれど、自分の事のように虚しい気持ちになる。

 嗚呼、苦しい。自分の事ではないけれど、自分の事のようにやるせない気持ちになる。

 嗚呼、恨めしい。自分の事ではないけれど、自分の事のようにすべてを嬲り殺したい気持ちになった。

 

 失って、喪って。僕たちはその最期に、僕たちの最期に報いるべきだ。

 

 そこでまた、目が覚めた眠りに落ちた

 

 この怒りは誰のものだったか。僕は胸に浮かんだその気持ちに疑問を抱きながら君と共に落ちていく。

 

 彼岸の果はすぐそこだ。すぐ。すぐに、すぐそこに……?

 

 いったい、誰が、そこにいるのだったか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る