ここにいる意味
スノウはゆっくりと泳ぎ続けている。ぼくはその白い背中にしがみついている。
ひたすら泳ぎ続けるスノウだが、実は非常にゆっくりと下降しているのに気づいたのは、どんどんと青白い色彩が視界から褪せていくのに気づいたからだった。
スノウはどうして泳いでいるのだろうか。何かから逃げるためのような気もするし、どこかを目指してひたすらに泳ぎ続けているような気もする。ぼくたちの旅路は決して振り返ることのない、一方通行の旅だった。
ゆっくりと下降していき、ついに光が届かない場所までたどり着いた。スノウはそれでも泳ぎ続けている。それともこれは長い長い墜落か。それでもぼくたちは振り返ることができない旅路。そうしようとすれば、再びあの青を目指そうと手を伸ばせば、訪れるのはどうしようもない息苦しさと焦燥感だった。苦しさのあまり空気を漏らせば、その泡に追従するように、より深く、暗いところから白い泡が追いかけていっては消えていく。
ぼくたちは時々、他の生き物の姿を見るようになった。スノウみたいに白い泡の体をした小さな魚がぼくの頬をかすめて落ちていく。スノウみたいに白い泡の体をした誰かが僕の頭上を超えて落ちていく。無数の白い流れ星のように、ひとつ、ふたつと次々に飛んできては彼方へ消えていく。ぼくはその光景を見るとどうしようもなく悲しい気持ちになる。何かを失ってしまったような気持ちになってしまう。だからせめてその散りゆく星々のかけらでもつかめないかと手を伸ばしてみるけど、泡は指の隙間を通り抜けていく。どうしようもなく目の前で落ちていくのをただ見ることしか出来ない。彼らが何かを叫んでいるように見えたって、ぼくには決して届かない。
そもそもぼくたちはなぜここにいるのか。それすらも分からない。ここにはなにもぼくたちを邪魔するようなものはなにもないのに、何をするのも許されない。ただただ、深く落ちていくことだけがぼくたちに許された選択肢。でも、そのおかげでぼくはスノウの背中で度々自分が何だったのかを思い出していた。
ぼくがここに落ちた理由。ぼくは一体、何をしていただろうか。
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