マリン・スノウはどこまでも
猿烏帽子
出会い
ぼくが気がついた時、体はすでに海に飲み込まれていた。
音は無い。あるのは体を包み込むように広がる冷たい青と、ゆらゆらと波間に揺れているという僅かな感覚だけ。
なぜここにいるのだろう。
なぜここでこうしているのだろう。
思い出そうにも、何も思い出せないまま、ぼくは漂い続けていた。
しばらく漂い続けたまま、ぼくは暗い海の底の方を見つめていた。この光が届かない場所。頭上から指すその光を見ようと仰向けになったその時、ぼくはめまいに襲われた。燃えるような光の中に、ぼんやりと誰かが見えた気がして、無意識に手を伸ばしていた。何かを言おうとした、言わなければいけない気がして開いた口からはしばらく忘れていた空気がさっさと逃げ出していって、ぼくの体は深く深く落ちていく。もがけばもがくほど、光は遠のいて、体は暗闇へと溶けていく。徐々に視界は暗くなっていく。そんな時、ぼくの体は急に、何か大きなものにふわりと持ち上げられた。ぼくの体と同じくらいの大きさの泡が光の下へと飛んでいく。恐る恐る下を見てみると、そこには真っ白な体をした大きなくじらが泳いでいた。
「君は?」
ぼくはそのくじらに惹かれ、その大きな背中をなでながら聞いてみた。
体がぶるぶると振動する。気がつけば、あの苦しさは無くなっていて、口から逃げ出していく空気なんてもともと無かったかのようにぼくは彼に問いかけ続けていた。
「助けてくれたの?」
再び体がぶるぶると振動する。なぜだろうと、彼が泳いでいる方向へと目を見やると、彼が大きく口を開けているのに気がついた。
「ありがとう」
何も聞こえないけど、とりあえずそれだけは伝えたくて、ぼくはまた、彼の背中をなでた。
これがぼくと彼の出会い。
雪のように白い、大きなくじらのスノウとの出会いだった。
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