第11話 暗殺1
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雨は夜になり本降りとなった。
「行くぞ」
土方の小声に、四人の人間が頷いた。
敵は八木邸にあり。今晩の芹沢は離れに戻ることもなく、母屋の方へと入っていった。
全員、黒ずくめの服を着て、顔も見えぬようほっかむりをしている。
――土方さん、緊張しすぎですよ。と沖田の目が笑いかけている。
こいつはこの大仕事を目前にしてもいたって平常だ。まったく底知れぬ男女だった。
屋敷に入り、二手に別れる。土方、山南、原田。そしてもう一方は沖田と藤堂である。
土方たちは芹沢を、沖田たちは平山を狙った。平間はこのさい無視した。この時のために斎藤と永倉には林の足止めをさせた。あれは近藤が欲しがっているから、殺す訳にはいかないのだ。
沖田は平山の寝た部屋に入ると、一瞬でその首を切り落とした。それなのに、藤堂がぶすぶすと刀を突き刺した。まるで狂ったように。
「やめなよ、下品だ。もう死んでる」
そして土方は芹沢の部屋へ。芹沢は酔って寝ていたくせに、物音に気がついたのか飛び起きた。「なにやつ!」刀を手に取ろうとしたところ、原田の槍がその肩を突いた。それでも芹沢は必至の思いで刀をとり、抜刀した。
「わたくしを新撰組筆頭局長、芹沢鴨と知っての狼藉ですか!」
もちろん土方は何も喋らない。芹沢は肩で息をしている。このまま全員でかかれば殺せる、とそう確信した。
「あなたたち……大兄様に命令されてわたくしを殺しに来たのね」
何か勘違いしているようだ。
ふっ、と芹沢は刀を下ろした。その瞬間、土方は斬りつけた。芹沢は無抵抗なまま斬られた。
芹沢は斬られて、笑った。それが不気味で、土方は後ずさった。
「これで……やっと死ねるのね」
倒れ込んだ芹沢は、しかしくわっと目を大開きにした。
「じいや! じいや! 子供たちを連れて逃げて、じいや……」
奥の部屋で物音がした。隣の部屋では八木邸の子供たちが寝ていたのだ。それも斬り殺そうと、原田と山南が動いた。
だが、それを芹沢が脚を掴んで止めた。止めたまま、死んでいた。
「やめておけ」と、土方は声を出した。もう芹沢は死んでいるのだ。
外の雨は激しく振り続けている。常闇が広がっている。土方は自分が化物になったのだと確信した。
こうして、新撰組は近藤勇のものとなった。
雨は血を洗い流す。だがしかし、土方の心には空虚な達成感だけが残ったのだった。
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