10話ー6章 笑顔





「お姉ちゃん、笑ってる……」


この絶体絶命な状況で、姉は笑っていた。


理由は分からない。


でも、それを見てるとなんだか未菜も嬉しくなってきた。


だって、笑っているお姉ちゃんは"輝いている"から。


"輝いている"お姉ちゃんが、私は大好きなのだから―――。





望美は笑顔でドローカードを手にした。


それは希望か、はたまた絶望か。


それは分からない。


分からないけれど、どちらであるかは重要ではないのだ。


きっと。


…………。


『まったく、マスターはスゴイですね……』


ドローカードを見たドロシーは呆れたようにそう言った。


望美も全く同感だった。


ここで"このカード"を引くなんて、あまりにも出来すぎだった。


それはこの戦い、美命ちゃんとの戦いを締めくくるに相応しい1枚だった。


それを掴んだまま、望美はフィールドに出現させる。


「レベル1スペル《ミラーマジック》!!」



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《ミラーマジック》

Lv1 通常スペル

タイプ:光

●:フィールド・捨て山の相手ユニット1体を選ぶ。

このターン、そのタイプと効果を自分ユニット1体に与える。

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「なっ!!ここで、《ミラーマジック》!?」


驚愕する美命。


「コピーするのは《クロノ・アルク》!!」


《ドロシー》の前に巨大な鏡が出現し、そこに機械天使の姿が映し出される。


鏡が消えると、そこには大鎌とマントを構えた《ドロシー》の姿があった。


また髪型も変わり、長く美しい黒髪になっていた。


「…………」


美命はその姿に目を奪われ、息をのむ。


機械天使のそれとは違う、生きた体のドロシーだからこそ、その姿はより彼女の理想形に近かった。


そう、彼女の姉、天糸玖々理の姿に……


「さあ、《ドロシー》で《クロノ・アルク》に攻撃です!!」


「《クロノ・アルク》の【時の逆転】」


美命の宣言と共に、時空が歪む。


だが、時の支配者の力を得た《ドロシー》は、それを無視して進む。


「今の《ドロシー》は、他のカードの効果を受けません!!」


振るわれるその鎌の一撃を防ぐ手段は、美命には残されていなかった。


《クロノ・アルク》の体は切られ、消滅する。


「……ターンエンド」


そして告げる、最後の時を。


この瞬間、美命のパートナー《ミデン》の効果が"強制発動"する。


美しき機械天使が再びフィールドに舞い戻り、美命のライフを奪い去る。


しかし、彼女の顔はどこか満足げだった……。




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〈天糸 美命〉

Lp200→0

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――――――――― 〈クロス・ユニバース〉「決着」 ―――――――――



―――――――――――― 勝者 「玉希 望美」 ――――――――――――







● ● ● ● ● ●





「ま、まさか、玖々理さんにも見て貰えてたなんて……」


試合後、未菜と一緒にいる憧れの人の姿に気が付いた望美は、またしても軽くパニックになった。


しばらく時間がたち、ようやく少し落ち着いたところだ。


「望美ちゃん、ホンっとにありがとう!!」


玖々理さんはそう言いながら、頭を下げる。


「うちの妹が迷惑をかけたばっかりなのに、クロユニの相手までしてもらっちゃって」


「いえいえ、好きでしたことですし。というか、それなら強引に誘ったうちの妹の方が……」


そんな感じで、しばらくはお互いに妹のことでお礼を言い合った。




「また、いつでも連絡ちょうだいねぇ~」


しばらくの後。


ひとしきり話した後、そう言って天糸姉妹はモールの人ごみの中へ消えていった。


「玖々理さんの連絡先をもらってしまったぁ!!」


まさかの棚ぼた収穫に、望美は舞いあがる。


そんな、先ほどのカッコいい姿がどこに行ったのかも分からぬ姉の姿に、未菜はため息をつく。


「ねぇ、お姉ちゃん」


「ん?」


ふと思い出したように、未菜は言う。


「美命ちゃんが別れ際に笑って言ってたよ。……"またクロユニしましょう"、だってさ」


「…………」


望美は笑う、嬉しそうに。


それは、さっきまでとはまた違う意味を含んだ微笑みだった。


未菜も当然、そのことは分かっていた。




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