10話ー5章 あの子の理由




「れ、レベル12!?!?」


『クロスユニバースにおける最高レベルのユニット、一筋縄ひとすじなわではいかないわ!!』


その神々しくも驚愕的な存在の出現。


望美もドロシーも、そしてその場にいる全ての人が戦慄する。


いったい、どれだけ恐ろしい力を秘めたカードなのか。


「教えてあげましょう」


そう言ったのは、美命だった。


「《クロノ・アルク》第1の効果。それは過去を統べる力。捨て山のユニットの数がその攻撃力となる!!」



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《刻天機 クロノ・アルク》

Lv12/攻撃0/防御0

タイプ:幻想,天使,機械,神話

●:攻撃力が自分の捨て山のユニット数x100アップする。

●:???

●:???

●:???

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---------------------------------------------------------

《クロノ・アルク》 攻撃力0→500

---------------------------------------------------------



「攻撃力500……」


望美は少しだけ安心する。


確かに、どこまでも攻撃力が上がる可能性があるのは恐ろしい。


だが、レベル12と聞いてもっととんでもない効果を想像していただけに、少し拍子抜けだった。


「あと、第2の能力により他のカード効果の影響を一切受けません」


「なっ!?」


ついでのように聞かされる効果に驚く。


つまり、《テミス》以上に対処法が少ないカードだということだった。


「《クロノ・アルク》の攻撃、【時空断層斬じくうだんそうざん】!!」


機械天使の鎌により、《ノーマ》が一刀両断される。


だが、《オズ》は無事だ。


まだまだ、勝負は分からない。


「では《クロノ・アルク》第3の効果【運命を告げる者】。その時計の針を1つ進めます」


美命の宣言と共に、《クロノ・アルク》の背後の時計板が時を進める。


当初、12時を指していたそれは4時ごろをさす。


つまり、文字盤の3分の1を一気に進んだことになる。


「で、時計が進んだからって、何なんなの?」


未菜のもっともな疑問。


それに玖々理さんが答える。


「あれは試合の最後を告げる時計。つまり、もう1度あの時計が12時をさした時、未菜の勝利が決定する……」


「えっ!?それって……」


その説明を聞いた未菜は、そして周囲の観客がざわめく。


それは、つまり――――




『カードの効果による、特殊勝利……』




その時点でライフがどれだけあろうと、望美の敗北が決定する。




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《刻天機 クロノ・アルク》

Lv12/攻撃0/防御0

タイプ:幻想,天使,機械,神話

●:攻撃力が自分の捨て山のユニット数x100アップする。

●:他のカードの効果を受けない。

●:1ターンに1度、発動できる。

「時刻カウンター」を1つ乗せる。

カウンターが3つ乗った時、自分は試合に勝利する。

●:???

-------------------------------------------------------------------




----------------------《8ターン目》----------------------


  〈玉希 望美〉●   〈天糸 美命〉

  ドロシー Lv1     ミデン Lv0


   Lp 500       Lp 200

   魔力0→4       魔力3

   手札1→2       手札0

  

-----------------------------------------------------------------


---------------------《フィールド》-----------------------

〈玉希 望美〉 

ドロシーLv1/100/100

《オズ》 Lv7/攻700/防600



〈天糸 美命〉

ミデン Lv0/0/0

《クロノ・アルク》Lv12/攻500/防0


《連鎖召喚》 永続スペル

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今、望美が打つべき手は1つ。


一刻も早く、《クロノ・アルク》を戦闘で破壊すること。


「《ボルテ》を召喚し、全てのユニットでそれぞれ攻撃!!」


雷の精霊が、至高の魔術師が、ドロシーが攻撃を放つ。


1つでも成功すれば、それですべてが終わる。


「もちろん、通りませんよ。《クロノ・アルク》最後の効果【時の逆転】!!」


全ての時が逆回しになったかのように、放たれた攻撃は戻って消滅。


それどころか、《ボルテ》と《オズ》はカードの姿に戻ってしまう。


「捨て山のユニットを代償に、攻撃を無効にしてそのユニットをデッキに戻します」


「そ、そんなっ!!」


《ボルテ》と《オズ》のカードはデッキの中へと消えていく。


残ったのはパートナーの《ドロシー》だけ。


「……ターン……エンド」


最後の希望も断たれ、望美はそう宣言することしかできなかった。



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《刻天機 クロノ・アルク》

Lv12/攻撃0/防御0

タイプ:幻想,天使,機械,神話

●:攻撃力が自分の捨て山のユニット数x100アップする。

●:他のカードの効果を受けない。

●:1ターンに1度、発動できる。

「時刻カウンター」を1つ乗せる。

カウンターが3つ乗った時、自分は試合に勝利する。

●:相手の攻撃宣言時に発動できる。

捨て山からタイプ「機械」・「天使」ユニット1体をデッキに戻す。

攻撃を無効にし、攻撃ユニットをデッキに戻す。

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---------------------------------------------------------

《クロノ・アルク》 攻撃力500→200

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【時の逆転】のコストで捨て山のユニットが減ったことで、《クロノ・アルク》の攻撃力が減少する。


だが、今更その程度は何のなぐさめにもならないことは明白だった。


「私は時計の針を進めて、ターンエンド」


美命は攻撃をすることもせず、ターンを流す。


時計の針は進み、8時を告げる。


美命に次のターンを許せば、確実に敗北する。


望美に残されたのはこの1ターンだけだった。




「………」


周囲の観客たちに、あきらめムードが広がり始める。


未菜もまた、姉の勝利を願いつつも不安で一杯になっていた。


「お姉ちゃんに勝ち目はあるのでしょうか?」


そんな彼女の疑問に、玖々理さんは答える。


「美命の捨て山のユニットはあと2体。パートナーを含めて攻撃できるユニットが3体いれば……」


だが、難しいだろうともわかっていた。


ここまでギリギリの戦いをしてきたのだ。


望美に、それほど手が残されているとも思えなかった。


それだけ、あの《クロノ・アルク》は強力なカードなのだ。





「…………っ」


『大丈夫、マスター?』


実際、望美にはもう手はほとんどなかった。


手札にあるのは、今は使えないスペルカード。


次でユニットをドローしても、ドロシーと合わせて2体。


《クロノ・アルク》には届かない。


勝ち目は、ほとんど無かった。


それだけ、あの《クロノ・アルク》は強力なカードなのだ。


見た目も美しくもカッコよく、それでいて強い。


理想的なほど完璧な、そんなカードだ。


……


………


…………?


少しだけ、望美は違和感を感じた。


それが何かはわからない。


でも、あのユニットを見ていると何か気づきそうな、そんな気がしたのだ。


美しい黒髪。


完璧で強い。


たった1体でも凛と立ち、この場を支配し人々の注目の的。


ああ、そうか。


望美は気が付いた。




似てるんだ、あのカード。


あの、"天糸玖々理"さんに。




● ● ● ● ● ●




どれだけの時間がたったのか、望美には分からない。


ほんの一瞬のことだったのか。


数分間かけていたのか。


それは分からないが、望美は1つのことに気が付いた。


それは、もっと早くに気が付くべきものだった。


美命ちゃんはカードゲームが好きじゃないと言っていた。



なら、"なんでカードゲームをやっているのか?"



気づいてみれば簡単な話だ。


答えは1つしか思いつかなかった。


きっとそれは、"カードゲームが好きになりたかったから"だ。


何故そう思っているのかは、聞くまでもなかった。


目の前にいる、彼女が全信頼をおいている切り札が、その姿が、答えなのだから。


応えよう。


この子の気持ちに、わたしの気持ちで。




――――カードは心の鏡




ふと、そんな言葉を思い出す。


ホントに、そうですね。


望美は全ての思いを込めて、カードをドローした。




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