最終話 交差する思い

10話ー1章 妹と妹




休日のお昼過ぎ。


ショッピングモール"エオン"。


望美とその妹の未菜は、そこに2人で買い物に来ていた。


日用品や食材など、目的の物は買い終わり、買い物袋はイッパイだった。


でも、スグには帰らない。


2人はイロイロなお店を見て回り、カワイイ小物や気になる洋服などを見ては楽しく談笑する。


この街に引っ越してくる前から変わらない、2人にとっての休日の光景だった。


しかし、変わったこともある。


その1つは、厳密げんみつには"2人"ではないということだ。


そう、今の姉妹の隣には"ドロシー"がいた。


宙に浮かびながら、色とりどりの商品を興味シンシンな様子で眺めている。


そして変わったことの2つ目は、―――


「……え、……えっと。ちょっと……いいかな、行っても?」


小物屋さんを出たところで、恐る恐るといった様子でそう切り出す姉。


その視線の先には"カードショップ"があった。


しょうがないなぁ、という表情で未菜は「いいよ」と答える。


その答えを聞くや否や、さっきまで以上の笑顔を見せて望美はカードショップへ向かう。


よほど嬉しいのか、その足取りはスキップに近い。


姉のこの趣味も、以前にはなかったものだ。


そして、その目の輝きも……。


そんな姉の背中をまぶしそうに見つめながら、未菜はゆっくりと後を追った。




「―――!?」


が、カードショップ前のベンチに座った"ある少女"に気づき、未菜はその足を止める。


未菜と同い年くらいの小さな少女。


その姿は以前、ネットで見たことがあった。


姉を倒し、その言葉で姉を悩ませた少女。




"天糸あまいと美命みこと"がそこにいた。




しきりに時計を気にしながらベンチに座る美命。


未菜は彼女に声をかけることにした。


「だれかと待ち合わせですか?」


「……、どなたです?」


不審そうな目でニラミながらそう返す美命。


見覚えのない相手に急に声をかけられたのだ、当然の反応だろう。


しかし、未菜はひるむ様子もなく続ける。


「私は玉希未菜。アナタは、天糸美命ちゃん……ですよね?」


「……玉希?」


記憶に引っかかるものがあったのか、美命はあごに手を当て考える。


彼女がその答えを思い出す前に、未菜は続ける。


「先日の大会では、姉がお世話になりました」



そう言って、未菜はニコリと笑った。




● ● ● ●




美命は思い出す。


エオンでの大会の日、その直前。


画面の中でカードゲームのことを嬉しそうに語る、そんな姉の姿。


こんなのは違う!!


そう思った。


そこに映っているのは私の知る、私の憧れた、そんな姉の姿じゃなかった。


にもかかわらず、それを憧れるように見つめる1人の女の子がいた。


その姿を見た時に感じた、不快な感情。


これは悲しみ?


それとも怒り?


その答えは、何処にもない。


大会でその子と戦うことになった時、湧き上がる感情をそのまま吐き出すことしか、私にはできなかった。




● ● ● ●




「お姉さん、調子が戻ったなら良かったです……」


"あの日"からの望美の様子を未菜から聞き、美命はそう言った。


望美が落ち込んでいたという話は、姉から聞いて美命も知っていた。


少し気にしていたのだ。


さすがに言い過ぎた、そう思っていたから。


「あなたのお姉さんにもお礼を言いたかったから、ちょうど良かったよ」


そう言って笑う未菜。


美命が今日、ここにいる理由。


それは姉との約束だった。


姉のカード遊びに今日1日つき合う、そういう約束だ。


"カードの楽しさを教えてあげる"、と姉は言った。


そのキッカケとなった人の妹に会うことになるとは思ってなかったけど……。


「ねえ、ちょっと美命ちゃんにお願いしたいことがあるんだけど……いいかな?」


唐突に未菜はそう言った。


その目は、笑っていなかった。


そして美命の返事を待たずに、こう続けた。




「お姉ちゃん、玉希望美ともう1度戦ってくれない?」



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