10話ー2章 再戦




モール1階、その中央にある大広場。


"あの日"と同じように、そこで望美と美命は対峙していた。


「ひ、久しぶりだね…、美命ちゃん」


頬をかきながら、望美は目の前の少女にそう声をかける。


ショップにいた望美は、いつの間にか美命と対戦することになったことを妹から聞かされた。


そしてそのまま、ここに来た。


望美は正直、早すぎる展開についていけていない。


でも、この対戦自体は望むところだった。


先日の敗北、不燃焼感ふねんしょうかん、その時の会話から得たモヤモヤ、そしてそれへの答え。


それらをこの子に見せたいとずっと思っていたのだ。


望美はそんな思いを込めて、デッキホルダーを装着する。




……しかし、そんな望美の思いとは対照的に、美命の態度は冷めたものだった。


望美の方を見るでもなく、彼女はただ淡々と端末を操作する。


「……やっぱり、美命ちゃんはカードゲーム嫌い?」


少しためらいつつも、望美はその疑問を口にする。



―――最善手をとり続けるだけの退屈なお遊び



先日の彼女のそんな言葉を思い出す。


「ええ。正直、この試合もあまり気乗りしません。」


当然といった感じで、そう切り捨てる。


「ですが、先日は望美さんの気持ちも考えず、……少し言い過ぎました」


これはそのお詫びです。


そう、美命は言葉を続ける。


「でも、ただ戦うのも勿体ないですし、公式戦でいいですか?」


特に断る理由もなく、美命のその提案を望美は了承する。


先日の佐神との対戦で、望美のランクはブロンズ2位になっていた。


美命は現在ブロンズ3位。


シルバーを目指すなら、ここで勝っておきたい所だろう。


それは望美も同じだ。


お互いに戦いの準備を終え、〈クロス・ユニバース〉を起動する。






 ―――――――― ニューロビジョン「接続完了」 ――――――――


―――――――― 〈クロス・ユニバース〉「起動開始」――――――――






2人の視界にシステムメッセージが流れ、その隣にパートナーが出現する。


望美のパートナーは、当然 《見習い魔女ドロシー》。


美命の隣には鎖をたらした鉄仮面、《献聖機天けんせいきてんミデン》。


「………」


再び目にしたその不気味な姿に、望美はあの時のことを思い出す。


倒しても倒しても消えない機械天使たちの恐怖。


………でも、大丈夫。


自分もあの時のままじゃない。


"対抗策"はすでに用意してあるのだから。


そう自分へ言い聞かせ、望美はカードを構えた。




----------------------《1ターン目》----------------------


  〈玉希 望美〉     〈天糸 美命〉●

  ドロシー Lv1      ミデン Lv0


   Lp 1000        Lp 1000

   魔力0          魔力0→5

   手札5          手札5

  

-----------------------------------------------------------------




「私のターン。まずはレベル2《ディオ》を召喚」


まばゆき光と共に、白銀色の金属柱のようなユニットがフィールドに出現する。


「その効果で《トリア》を手札に加え、永続スペル《連鎖召喚》で召喚します」


続けて、スペルの放つ光の中から白銀色の機械天使が現われる。


「さらに効果で《エナ》を手札に加えます」



-------------------------------------------------------------------

《エンジェル・マキナ・ディオ》

Lv2/攻撃0/防御200

タイプ:光,天使,機械

●:手札から召喚された時、発動する。

『エンジェル・マキナ・トリア』1枚をデッキから手札に加える。

-------------------------------------------------------------------

《エンジェル・マキナ・トリア》

Lv3/攻撃100/防御200

タイプ:光,天使,機械

●:手札から召喚された時、発動する。

『エンジェル・マキナ・エナ』1枚をデッキから手札に加える。

-------------------------------------------------------------------

《連鎖召喚》

Lv0 永続スペル

タイプ:

●:1ターンに1度、発動できる。

召喚された自分ユニット1体と同じタイプを持つユニット1体を手札から召喚する。

-------------------------------------------------------------------


-----------------------------------------------------

〈天糸 美命〉

魔力5→3→0

手札5→4→5→4→3→4

-----------------------------------------------------



連鎖的に発動するカード効果の連続。


美命の手札はほとんど減らず、フィールドの機械天使は増え続ける。


これはまるで"あの時"の再現。


『やはり、来ましたね……』


「……うん」


でも、もうあの時とは違う。


彼女の戦術の弱点を、望美は理解していた。




----------------------《2ターン目》----------------------


  〈玉希 望美〉●    〈天糸 美命〉

  ドロシー Lv1     ミデン Lv0


   Lp 1000        Lp 1000

   魔力0→4       魔力0

   手札5→6       手札4

  

-----------------------------------------------------------------


---------------------《フィールド》-----------------------

〈玉希 望美〉 

ドロシー Lv1/100/100


〈天糸 美命〉

ミデン Lv0/0/0

《ディオ》 Lv2/攻0/防200

《トリア》 Lv3/攻100/防200


《連鎖召喚》 永続スペル

-------------------------------------------------------------------


「わたしのターン!!」


望美はドローカードを見ると、それをつかみ召喚する。


「出てきて、《天日てんじつのソール》 !!」


美しき太陽の精霊が、フィールドに降り立つ。


「続けて、手札の《追影のシェイド》を自身の効果で召喚!! 」


《ソール》の影の中から、影の精霊が姿を現す。


「これで、わたしはターン終了です!!」


そう言って、望美はエンド宣言をした。




「え、これで終わり?」


観戦していた未菜は、望美のその行動に驚く。


ユニットを召喚しただけで、ターン終了。


未菜のフィールドには2体のユニットがそのまま残っている。


次のターン、それらをリターンされれば高レベルのユニットを召喚されかねない。


攻撃して1体でもユニットを減らすべきなのでは?


未菜はそう思った。


「―――いいえ、これでいいの」


その時、そんな言葉が聞こえてきた。


声が聞こえた方を見ると、そこには1人の黒髪の女性がいた。


強い意志を秘めた瞳の凛々りりしい女性。


未菜はその姿に見覚えがあった。


彼女は―――


「………天糸あまいと玖々理くくりさん!?」


そこにいたのは美命の姉、望美の憧れ、その人だった。





----------------------《3ターン目》----------------------


  〈玉希 望美〉    〈天糸 美命〉●

  ドロシー Lv1    ミデン Lv0


  Lp 1000        Lp 1000

  魔力4→3→2      魔力0→5

  手札6→5→4      手札4→5


-----------------------------------------------------------------


---------------------《フィールド》-----------------------

〈玉希 望美〉 

ドロシー Lv1/100/100

《ソール》 Lv1/攻100/防0

《シェイド》 Lv1/攻0/防100


〈天糸 美命〉

ミデン Lv0/0/0

《ディオ》 Lv2/攻0/防200

《トリア》 Lv3/攻100/防200


《連鎖召喚》 永続スペル

-------------------------------------------------------------------




攻める気を見せない望美。


その姿に、美命は少しだけその表情を緩ませる。


「……なるほど、考えましたね」


美命の戦術。


それは機械天使をフィールドに並べ、それらをリターンして大型ユニットを出すというもの。


そして相手がそれを防ごうと機械天使を破壊しても、パートナーの《ミデン》の効果で復活してしまう。


もちろん、その代償として美命のライフは失われるがそれすらも彼女の狙い。


召喚される大型ユニット《テミス・エクス・マキナ》はライフが少ないほど攻撃力が上がるユニット。


機械天使たちが破壊されればされるだけ、切り札の威力は上がる。


完璧に計算された、完全な戦術。



だが、どんな戦術にも穴はある。



この場合の穴。


それは、"相手が攻撃してこなければ、切り札が切り札にならない"ということだった。


《テミス・エクス・マキナ》が切り札たる攻撃力になるのは美命のライフが減ってこそ。


そのためには、機械天使たちの破壊が必須。


"なら、攻撃しなければいい。"


考えてみれば、それは当然の戦略だった。




もちろん、その"当然の戦略"を美命が知らないはずがなかった。




「なら、私は《エナ》を召喚し、続けて《連鎖召喚》で"このカード"を召喚します」


美命は白銀の玉を召喚し、続けて1枚のカードを掴んでかざす。


「望美さん、貴方の作戦はこのカードで瓦解します。私が召喚するのは、《エンジェル・マキナ・テッタラ》!!」


光と共に、新たな機械天使がフィールドに召喚される。


ツインテールの女性にも見えるシルエット。


白銀の金属でできたその体は光を反射し、美しく輝く。


その両手に双剣を構え、その機械天使はフィールドに舞い降りた。


そして同時に、その双剣で"他の機械天使を全て切り裂いた"。


「なっ!?」


『しまった、そうきたか!!』


突然の出来事に、望美もドロシーも驚愕する。


「《テッタラ》の効果発動。自分のユニット破壊して、その数だけ攻撃回数を増やします」



-------------------------------------------------------------------

《エンジェル・マキナ・テッタラ》

Lv4/攻撃200/防御200

タイプ:光,天使,機械,戦士

●:手札から召喚された時、発動する。

自分の他ユニットを破壊する。

このターン、その数だけ追加攻撃できる。

-------------------------------------------------------------------



これにより、《テッタラ》 はこのターン4回攻撃の権利を得た。


が、それだけではなかった。


そう、これにより"機械天使たちは破壊された"。


これは、攻撃しないことで破壊しない、その望美の戦術が崩れたことを意味していた。


「さあ、《テッタラ》 の攻撃です!!」


「なら、レベル2スペル《小さな献身》!!」


《テッタラ》の剣の一撃を、デッキから飛び出した《ウンディーネ》が身を呈して防ぐ。



-------------------------------------------------------------------

《小さな献身》

Lv2 通常スペル

●:デッキからLv1以下のユニット1体を捨て札にし、

相手ユニット1体の攻撃を無効にする。

-------------------------------------------------------------------



「ですが、それで防げる攻撃はたった1度。残り3回の攻撃は防げませんよ」


続けて行われる双剣の2連撃が《シルフィード》と《シェイド》を襲う。



-------------------------------------------------------------------

《テッタラ》攻撃力200 ×2


   VS 


《ソール》防御力0


《シェイド》防御力100

-------------------------------------------------------------------



その連続攻撃で、2人の精霊の体はあっけなく切り裂かれてしまう。


そして、《テッタラ》にはもう1回の攻撃が残された。


望美はその1撃に耐えるべく身構える。


「……!?」


が、いつまでたっても最後の攻撃は来ない。


不思議に思ったその時だった。


「これで、私はターン終了です」


美命はそう宣言した。




「な、なんで攻撃しないの!?」


「望美さんのライフを減らさないためよ」


未菜の疑問に、玖々理さんが答える。


美命の切り札、《テミス・エクス・マキナ》は"お互いのライフ差が攻撃力になる"能力を持つ。


つまり、自分のライフを減らし、相手のライフを減らさないようするほどに強くなる。


攻撃しなかったのは、切り札の威力を維持するため。


「美命の戦術はどこまでも効率的で、どこまでも合理的」


そう言う玖々理さんの横顔が、少し悲しそうに未菜には見えた。




「ターン終了、ということは」


『くるよ、マスター』


望美とドロシーのそんな声を合図にしたかのように、美命のパートナー《ミデン》が動く。


5本の鎖が動き、美命の手足と首を拘束する。


「《ミデン》の効果。Lvに応じたLpを代償に、機械天使たちを蘇らせます」


鎖を通して美命の体に電流が流れ、同時に3体の機械天使がフィールドに舞い戻る。


《エナ》《ディオ》《トリア》。3体のLvの合計は6。



-------------------------------------------------------------------

《献聖機天 ミデン》

Lv0/攻撃0/防御0

タイプ:光,天使,機械,呪い

●:「機械」「天使」の自分ユニットが破壊

されたターンのエンドステップに発動する。

その全てを戻し、その合計Lvx100のLpを自分は失う。

-------------------------------------------------------------------


--------------------------------------------

〈天糸 美命〉

Lp1000→400

--------------------------------------------




「……くぅぅっ…!!」


その体から煙を立ち昇らせながら、美命のターンは終了した。




----------------------《4ターン目》----------------------


  〈玉希 望美〉●   〈天糸 美命〉

  ドロシー Lv1     ミデン Lv0


  Lp 1000       Lp 1000→400

  魔力0→4       魔力5→4→0

  手札4→3        手札5→4→5→4


-----------------------------------------------------------------


---------------------《フィールド》-----------------------

〈玉希 望美〉 

ドロシーLv1/100/100



〈天糸 美命〉

ミデン Lv0/0/0

《エナ》Lv1/攻0/防100

《ディオ》Lv2/攻0/防200

《トリア》Lv3/攻100/防200

《テッタラ》Lv4/攻200/防200


《連鎖召喚》 永続スペル

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