第9話 勝利に飢えた男

9話ー1章 求めるもの




夕暮れの路地裏。


煉獄の剣士が振り下ろした剣が、凶暴な大鬼を切り裂く。


「ぐぁぁぁぁっ!!」


流れる電流がプレイヤーを襲い、ライフを奪った。





――――――――――― 〈クロス・ユニバース〉「決着」―――――――――――



――――――――――― 勝者 「佐神 魁」  ―――――――――――





システムメッセージが戦いの決着を告げる。


「くっそ、何が今なら勝てるだ……。話が違う。全然弱くなってないじゃねーかっ……」


敗北した男は、そういって毒づく。


そんな敗者に目もくれず、勝者"佐神さがみ かい"は心底つまらなそうにその場をあとにした。


「…………」


佐神は奥歯を強くかみしめる。


勝利したにもかかわらず、喜びや満足感は一切ない。


彼の心を支配するのは、消えぬ焦燥感しょうそうかん


それは、魂の"渇き"だった。


"あの日"からデッキを練り直し、新たな戦法も生み出した。


勝利を重ね、ゴールド1位にも返り咲いた。


だが、いつまでたってもこの"かわき"はなくならない。


この"かわき"をやす方法、それは―――、



「"あいつらに勝つしかない"、かな?」



「!?」


路地裏の暗がりから声の主が現れる。


それは、黒い学生服を着た無個性な少年だった。


「久しぶりだね、佐神君」


「……不和染ふわぞめさん」


不和染ふわぞめはじめ、マスターランク1位で『満場一致の化け物』の異名を持つ男だ。


そして、かつて佐神が所属していた"チーム・ペンタグラム"のリーダーでもあった。


「最近は調子いいらしいね、連戦連勝だって聞いたよ」


「………」


佐神は答えない。


不和染も気にせず言葉を続ける。


「でも、君は満足できない。………ただの初心者、見下していたマスター最下位、この2人に負けたという事実が君の心をしばり続けているからね。………間違ってたかな?」


「…………」


彼は沈黙で答えた。


そうだ。あの2人に負けたままでは、いつまでたっても自分は弱者のままなのだ、と。


不和染はニコリと笑うと、こう言った。


「なら、戦おう。そして勝とう。その気があるなら、勝つための方法を教えてもいいし」


「……どういうつもりです?」


意図が読めず、佐神は不可解そうに聞く。


すると、不和染はわざとらしく困ったように頭をかいた。


「実は新しい幹部選びに難航なんこうしててねぇ。……佐神君の調子が良いみたいだし、なら再任しようかって話になってさ」


「……で、"あの2人に勝てたら"が条件って訳か」


佐神はそう言って、呆れたように笑う。


負けた時はあっさり捨てておいて、………ムシのいい話だ。


「まあ、じっくり考えといてよ」


佐神の返事を待たずに不破染はそう言うと、路地の闇へ姿を消した。


「…………」


残された佐神は1人、ただ夕闇の中に立ち尽くす。


勝つために教えを乞うつもりも、チームに戻るつもりも、ない。


だが、彼の言葉にも聞くべきところがあった。


"戦って勝つ"。


それは単純明快な答え。


………………………。


……長い長い時間の後、佐神は端末を取り出す。


彼はその中に入った1つの連絡先を探した。


それは、"忍者の様なメイド"から教えられた番号だった。





● ● ● ● ● ●





「ノゾミンに、あの佐神から挑戦が来たってホント!?」


お昼休み。


いつも通りの屋上でのお弁当中、晴香が興味しんしんな様子でそう聞いてきた。


「ええ。昨日、影野に連絡が来たそうですわ。望美さんと戦いたい、と」


先日のお願いには応じなかったのに勝手な人です、と巻宮は呆れたように言う。


「……それで、望美さんはどうするんだい?受けるのかい?」


話を静かに聞いていた新地が、少しためらってから聞く。


皆の視線は、自然と望美に向いた。


「…………うん、受けようかなって」


少し悩みながらも、望美はハッキリとそう答える。


さすが望美さんだね、と新地。


木場も晴香も、そんな前向きな望美に応援の言葉をかける。


しかしただ1人、巻宮だけはそんな望美を心配そうに見ていた。


「色々あった後ですし、今回は先延ばしにしてもよいのでは……?」


そっと、そうささやく。


そんな彼女の心づかいが、望美は嬉しかった。


でも、その決意は揺るがなかった。


「ありがとう雅美ちゃん。……でも、わたし戦うよ。色々あった今だからこそ、逃げちゃいけないと思うから」


出会ってきた人たちのカードにかける思いを知った。


考えたこともないような考え方があった。


気づけなかった、自分へ向けられた感情があった。


自分の中にあった答えも見つけた。


そんな今だからこそ、戦って、そして知りたいのだ。


彼、"佐神 魁"がカードにどんな思いを託しているのかを。


それがきっと、あの子のことを理解することにもつながると思えたから―――。


「………まあ、望美さんがそう言うのであればいいですが」


でも無理はしないでくださいね、と巻宮は言った。




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