9話ー2章 逆襲の煉獄剣士




夕方の公園。


初めて対戦をしたあの場所で、あの時と同じように望美と佐神は再び向かい合っていた。


「…………」


「…………」


対峙する2人の間で、しばし無言の時間が流れる。


「………見てるこっちが緊張してきますわね」


「………大丈夫かな、玉希さん」


その重い空気は、後ろで観戦する巻宮と新地の2人も感じていた。


家の都合で来れなかった木場と晴香は逆に良かったのかも、とも新地は思う。


そんな空気を最初に破ったのは、佐神だった。


「……まずは挑戦を受けてくれたこと、礼を言う」


「わたしも、あなたとはもう1度ちゃんと戦いたいと思っていましたから……」


望美のその返答に、佐神はやや怪訝そうな顔をする。


そう、これは望美自身にしかわからないこと。


前の対戦は、望美の力だけで戦いぬいたわけではなかった。


途中からは、横にいる"ドロシー"の力を借りていたから。


自分の実力で、この少年と戦ってみたかったのだ。


だから、これが本当の意味での望美と佐神の2人の初対戦。


もちろん、佐神はそのことを知る由もなかったが……。


「………そういえば、"なぜクロユニをやっているのか"だったか?」


佐神が思い出した言う。


それは、彼がメイドの黒野から聞いた言葉だった。


1度は断った件だが、自分から呼び出した以上、佐神はそれに答えることにした。





「"勝ちたい"……ただ、それだけだ!!」





 ―――――――― ニューロビジョン「接続完了」 ――――――――


―――――――― 〈クロス・ユニバース〉「起動開始」――――――――





「勝ちたい?、それって……」


「問答は勝ってからにしな!!」


彼の回答に対する望美の質問は遮られ、強制的に試合が開始される。


視界にシステムメッセージが流れ、魔力の腕輪が出現する。


望美の横にはドロシー、佐神の横には翼の生えた1つ目の悪魔が姿を現す。


「今回の俺のパートナーは、レベル1《ゲートデビル》だ!!」


「………《闇の召喚者》じゃない!?」


彼の横に現われた"それ"は、以前のパートナーである骸骨の魔術師とは全く違うユニットだった。


小さく頼りなさそうな、1つ目の空飛ぶ悪魔。


だが、その存在感の無さが逆に不気味だった。


『気を付けて、以前の彼のデッキとは別物だよ』


ドロシーの言う通り、いつも以上に慎重に行かなくちゃ、と望美は思う。


「先攻はくれてやる。さあ、かかってこい!!」


「わたしのターン!!」




----------------------《1ターン目》----------------------


  〈玉希 望美〉●   〈佐神 魁〉

  ドロシーLv1    ゲートデビルLv1


   Lp 1000      Lp 1000

   魔力  4       魔力  0

   手札  5       手札  5


-----------------------------------------------------------------




「《疾風のシルフィード》を召喚。さらに《精霊の守護結界》を詠唱して、ターン終了です!!」


風の精霊をフィールドに現われ、その周囲を淡く光る結界がつつむ。


その効果により、佐神の攻撃を2回防ぐことが可能となる。


これで、望美のターンは終了だった。


「なら、俺のターン!!」




----------------------《2ターン目》----------------------


  〈玉希 望美〉    〈佐神 魁〉●

  ドロシーLv1    ゲートデビルLv1


   Lp 1000      Lp 1000

   魔力2        魔力0→4

   手札3        手札5→6


-----------------------------------------------------------------




「さあ、地獄につき合ってもらおうか!!レベル3スペル《地獄への道づれ》」


『なっ、そのカードは!?』


佐神が詠唱したそのスペルカードにドロシーは戦慄し、望美はその未知の効果に身構えた。


「《地獄への道づれ》。その効果で200のライフと引き換えに、俺はデッキのユニット1体を捨てる」


「………えっ?」


だが、語られるその効果に望美は拍子抜けしてしまう。


3の魔力と200のライフを払って、自分のデッキのユニットを捨てるだけ?


そんな望美の疑問をよそに、佐神はデッキから1枚のカードを選ぶ。



-------------------------------------------------------------------

《地獄への道づれ》

Lv3 通常スペル

タイプ:闇

●:Lpを200払って詠唱する。

デッキからLv6以下のユニット1体を捨て札にする。

相手はよりLvが高いユニット1体をデッキから捨て札にする。

-------------------------------------------------------------------


--------------------------------------------

〈佐神 魁〉

Lp 1000→800

魔力4→1


捨て札:《煉獄剣士ボルグ》

--------------------------------------------




「《地獄への道づれ》の更なる効果だ。捨て札にしたユニット《煉獄剣士ボルグ》以上のレベルを持つユニットを、お前はデッキから捨てなければならない!!」


「……なっ!!」


《煉獄剣士ボルグ》 のレベルは6。


望美はレベル7以上のユニットを捨てなければならない。



それはつまり、《至高の魔術師オズ》を捨てることを意味していた。



望美はしかたなく、デッキから《オズ》を捨てる。


「そんな、望美さんの切り札が……」


いきなりデッキの切り札を奪われてしまった望美を心配する巻宮。


だが、その横にいる新地の心配はそこにはなかった。


新地は気が付いていた、佐神の真の狙いに………。


「さて、かわいそうだからプレゼントだ!!レベル1《仕組まれた再会》。この効果で、相手は魔力を払うことなく1番強いユニットを復活できる」


佐神がスペルを唱えると、《オズ》が"望美のフィールド"に現われる。


「「????」」


望美、そして巻宮もまさかの展開に戸惑う。


手間をかけ、わざわざ相手の切り札を召喚させることに何の意味があるというのか。


佐神の行動がまるで理解できなかった。


「という事は、やはり…」


『まさか、これは!?』


新地、そして少し遅れてドロシーも佐神の狙いに気づく。


そして、"それ"を防ぐ手段がないことにも。


「《仕組まれた再会》の効果で、俺は魔力補充とドローをさせてもらうぞ」



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《仕組まれた再会》

Lv1 通常スペル

●:捨て山から最もLvの高い相手ユニット1体を魔力を無視して復活させる。

そのLvの半分(小数点以下は切り上げ)の魔力を得る。

その後、1枚ドローする。

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--------------------------------------------

〈佐神 魁〉

魔力 1→0→4

手札 4→5

--------------------------------------------



「さあ、ここからだ。レベル3アイテム《地獄門》!!」


佐神がカードをかざすと共に、大地が揺れて大きな門が姿を現す。


「お、大きい……」


重々しいその外観からはなたれる威圧感は、望美の身をすくませるのには十分なものだった。


「地獄門の効果は、闇ユニットの復活に必要な魔力をライフで肩代わりできるというものだ。そして、―――」


『彼のパートナー《ゲートデビル》は、闇ユニット復活の効果を持っている!!』


それが意味すること、それは………。


「我が命をカテによみがえれ!!そして憎き相手に復讐を、レベル6《煉獄剣士ボルグ》 !!」


禍々しく大きな門が開き、その中から1つの影が現われる。


それは、大剣を担いだ黒い甲冑の戦士だった。




-------------------------------------------------------------------

《ゲートデビル》

Lv1/攻撃0/防御0

タイプ:闇,悪鬼

●:1ターンに1度、手札から「闇」カード1枚を捨てる。

捨て山からそれよりLvの高い「闇」ユニット1体を復活する。

-------------------------------------------------------------------

-------------------------------------------------------------------

《地獄門》

Lv3 永続アイテム

タイプ:闇,建造物

●:Lv6以下の「闇」ユニットを復活する場合に適用。

魔力を払う代わりにLpを300払うことができる。

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--------------------------------------------

〈佐神 魁〉

Lp 800→500

魔力4→1

手札5→4→3

--------------------------------------------



---------------------《フィールド》-----------------------

〈玉希 望美〉 

ドロシー Lv1/100/100

《至高の魔術師オズ》Lv7/攻700/防600

《疾風のシルフィード》Lv1/攻0/防100

《精霊の守護結界》永続スペル


〈佐神 魁〉

ゲートデビル Lv1/0/0

《煉獄剣士ボルグ》Lv6/攻600/防400

《地獄門》永続アイテム

-------------------------------------------------------------------




「これで仕上げだ!!今、手札から捨てた《復讐の亡霊》の効果、《オズ》の防御力を100下げる!! 」


地面よりわき出た亡霊が、その手に持ったナイフで《オズ》を切りつける。



-------------------------------------------------------------------

《復讐の亡霊》

Lv2/攻撃200/防御0

タイプ:闇,死霊,呪い

●:捨て山から自身を隔離して発動する。

相手ユニット1体の防御力を100下げる。

-------------------------------------------------------------------



《オズ》の防御力500となり《ボルグ》の攻撃力を下まわった。


「目障りだ。消えろ、伝説のレアカードッ!!」



-------------------------------------------------------------------

《煉獄剣士 ボルグ》攻撃力600 


         VS 


《至高の魔術師 オズ》防御力600→500

-------------------------------------------------------------------



《ボルグ》が地を駆け、大剣を振り下ろす。


が、その刃はとどく直前の空中で不可視の壁にぶつかる。


「でも、《精霊の守護結界》の効果で攻撃は無効です!!」


そう、《結界》により《ボルグ》の効果は無効となる。


つまり、《オズ》はこのターン破壊されることはない。


「と、思ったかぁ!!!レベル1スペル《解呪》だっ!! 」



-------------------------------------------------------------------

《解呪 -ディスペル- 》

Lv1 通常スペル

●:フィールドの永続・付与スペルを全て破壊する。

-------------------------------------------------------------------



佐神の宣言と共に、《オズ》を包んでいた結界が砕けて消える。


勢いを取り戻した大剣に《オズ》の体は切り裂さかれる。


「そ、そんな……」


「さて、《ボルグ》の効果は知ってたよなぁ?」


そうだ、この煉獄の剣士には強力な効果がある。


破壊したユニットのレベルの100倍のダメージを相手に与えるという効果だ。


《オズ》のレベルは7。つまり、700のダメージが発生する。


大剣から流れる放電が地面を走り、望美の全身を襲う!!


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」


『マスターッッ!!』



--------------------------------------------

〈玉希 望美〉Lp 1000→300

--------------------------------------------



以前の威力を遥かに超える強力な電撃。


体から煙を立ち昇らせながら、望美は膝をつく。


「これで、俺のターンは終了だ。さあ、お前のアガキを見せてみろ!!」


佐神はそう言ってターン終了を宣言する。


『…………』


「………大丈夫っ」


心配そうにのぞき込むドロシーを安心させるように、望美は笑顔を作る。


そして、足に力を入れてゆっくりと立ち上がった。


まだ、勝負は始まったばかりなのだ。


こんなところで、諦めるわけにはいかなかった。


「わたしのターン!!」


望美は渾身の力を込めて、カードをドローした。





----------------------《3ターン目》----------------------


  〈玉希 望美〉●  〈佐神 魁〉

  ドロシー Lv1   ゲートデビルLv1


   Lp 300      Lp 500

   魔力2→5     魔力0

   手札3→4     手札2


-----------------------------------------------------------------



---------------------《フィールド》-----------------------

〈玉希 望美〉 

ドロシー Lv1/100/100

《疾風のシルフィード》Lv1/攻0/防100


〈佐神 魁〉

ゲートデビル Lv1/0/0

《煉獄剣士ボルグ》Lv6/攻600/防400

《地獄門》永続アイテム

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