8話ー5章 妹
車の窓に映る夕日に染まる街並みと自分の姿を眺めながら、望美は考える。
"クロユニをやる理由"、それは人の数だけ答えがあった。
誇りだから、今を楽しむため、見る者を楽しませるため、絆のため、対話のため。
そして、自分が望む自分になるため。
でも、わたし自身の答えは見つからないままだった………。
「……あれ?」
望美は気づく。
車の進路が、自分の家に向かう道とは少し違った。
「実は先程の電話でもう1人から連絡がありましたの」
「え、それってもしかして……」
最後の相手、その詳細を聞こうと望美が質問したその時、車が止まる。
「到着いたしました」
そこは、望美が初めてクロユニで対戦をしたあの公園だった。
● ● ● ● ● ●
その公園の中央、大きな芝生の広場の片隅。
望美の初めての試合、佐神と戦った場所に望美たちは来た。
そこには1人、先客がいた。
「……えっ!?」
その先客は想像と違っていた。
大きな赤いリボンを頭に付けた少女がそこにいた。
「…………み、未菜…?」
そこにいたのは妹の
『私を置いて行くなんて酷いよ、マスター!!』
そして、未菜の横には宙に浮くドロシーの姿。
「なんで、2人が……?」
佐神がいると思っていた望美は予想外の展開に戸惑った。
「全部ドロシーさんと巻宮さんに聞いたよ。何で相談してくれないのっ!!」
「そ、そんなこと言われても……」
未菜の剣幕に、望美はたじろぐ。
そんな望美を無視して、未菜はこう続けた。
「お姉ちゃん、……わたし達とクロユニで勝負してっ!!」
―――――――― ニューロビジョン「接続完了」 ――――――――
――――――――― 〈クロス・ユニバース〉「起動準備」 ―――――――――
未菜の宣言と同時に端末が起動する。
「ちょ、ちょっとまってよ!?なんで、未菜とわたしが戦うの!?」
望美には何が何だか分からなかった。
「ドロシーさんから提案されたの。頭で考えているだけじゃ答えは出ないって」
『みんなに協力してもらって、わたしだけ仲間外れなんて許さないよっ、マスター!!』
そう言って、ドロシーは頬を膨らます。
「置いて行ったのはごめん!!……でも、―――」
『「貴方みたいな存在がそばにいたら、クロユニの価値を公平に考えられない」って?……マスターらしいね』
そう言ってドロシーは笑う――――わけではなかった。
『ふざけんなっ!!』
出会って初めて見せる、ドロシーの怒りの表情。
『私がカードから生まれた存在だとか、そんなことは関係ないっ!!……仲間でしょ?、私だって』
「!?」
ドロシーの両目が
ようやく気付く。
自分が彼女を唯のキャラクターとしてしか見ていなかったことに。
彼女にも心があるという当たり前のことを無視していたことに。
そんな最低な自分に。
『私には、クロユニしかない……』
だからっ!!、とドロシーは拳を握る。
『私はカードで語るっ!!そして、マスターもこの戦いで見つけてっ!!……あなた自身の気持ちを』
ドロシーにしてみれば、望美がクロユニをやめるなんて絶対に止めたいはずだ。
だって、彼女はクロユニ"そのもの"なのだから。
でも、直接は言わない。
続けるかどうか、それは望美自身が決めることだから。
思いは全てこの戦いにぶつける。
それがドロシーの決意だ。
望美にもそれは分かった。
だから、彼女もまた決意する。
自分の本当の気持ちを、答えを、この勝負で見つける、と。
● ● ● ● ● ●
これまで望美のパートナーだったドロシーは未菜のもとにいる。
そのため、望美は新しいパートナーを決める必要があった。
目の前にデッキ内のユニットカード達が浮かぶ。
望美のデッキは【精霊デッキ】だ。
精霊たちの誰かをパートナーにするのが1番無難だろうか。
(………このカードって……)
1枚のカードが目にとまる。
少し悩んで、望美はそのカードを選んだ。
選択したユニットが、望美の傍らに出現する。
現れたのは、青いエプロンドレスの少女。
その手には羽ペンと白紙の本。
それは先程、天糸玖々理さんに貰ったユニットだった。
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《創作者 アリス》
Lv1/攻撃 0/防御 0
タイプ:幻想,精霊,魔術師
●:???
●:???
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----------------------《1ターン目》----------------------
〈玉希 望美〉 〈玉希 未菜〉●
アリス Lv1 ドロシー Lv1
Lp 1000 Lp 1000
魔力0 魔力0→4
手札5 手札5
-----------------------------------------------------------------
『未菜ちゃん、いくよ!!』
「はい!!」
ドロシーの声に合わせ、未菜がカードを掴む。
「まずは《サラマンドラ》を召喚」
『さらに、《シェイド》もその効果で召喚するよ!!』
炎の精霊と影の精霊がフィールドに現われる。
「………やっぱり、未菜のデッキって……」
間違いない、望美はすぐに確信する。
未菜のデッキ、それは望美と同じ【精霊デッキ】だ。
予想はしていた、でも実際に見せつけられると少しショックでもあった。
カードゲームである以上、自分のデッキが自分専用でないことくらいは分かっていた。
それでも……。
そんな望美の戸惑いとは関係なく、戦いは進む。
「ここで《サラマンドラ》の効果が発動、だよね?ドロシーさん!!」
『その通り!!2回の召喚で2回分のダメージだよ、【炎の飛礫】!!』
炎の精霊が放つ2つの火球が望美を襲う。
-------------------------------------------------------------------
《炎渦のサラマンドラ》
Lv1/攻撃力100/防御力0
タイプ:炎,精霊
●:自身や同じタイプのユニットの召喚時に50ダメージを相手に与える。
-------------------------------------------------------------------
-------------------------------------------------------------------
〈玉希 望美〉Lp1000→950→900
-------------------------------------------------------------------
「………すごい」
初めての戦いとは思えない動きを
「これでわたしのターンは終了……」
『さあ、次はマスターのターンですよ!!』
----------------------《2ターン目》----------------------
〈玉希 望美〉● 〈玉希 未菜〉
アリス Lv1 ドロシー Lv1
Lp 1000 Lp 1000
魔力0→4 魔力2
手札5 手札3
-----------------------------------------------------------------
---------------------《フィールド》-----------------------
〈玉希 望美〉
アリス Lv1/ 0/ 0
〈玉希 未菜〉
ドロシー Lv1/100/100
《炎渦のサラマンドラ》Lv1/攻100/防0
《追影のシェイド》Lv1/攻0/防100
-------------------------------------------------------------------
ドロシーが未菜をサポートしている以上、半端な攻撃は危険だ。
そう思った望美は、初手から全力でいくことに決める。
決意を込めて手札を1枚掴む。
「《創作者 アリス》の効果!!手札のスペルをコストにデッキからレベル1の精霊を召喚、【創作の具現化】!!」
《アリス》が羽ペンでユニットの絵を描くと、その絵が実体化し召喚される。
「わたしが召喚するのは《
《アリス》の効果で実体化したのは、白いローブに身を包んだ太陽の精霊だった。
太陽の輝きを持つ大きな装飾を背負う、美しき精霊がフィールドに降り立つ。
「続けて、《ソール》の効果を発動!!」
『相手ユニットの数までデッキをめくり、その中にある同じタイプのユニットの数だけ攻撃できる効果…。賭けに出たね、マスター!!』
-------------------------------------------------------------------
《天日のソール》
Lv1/攻撃100/防御0
タイプ:光,精霊
●:相手ユニットの数までデッキを上から確認する。
同じタイプのユニットを全て捨て札にして、その数まで攻撃する。
他のユニットは攻撃できない。
-------------------------------------------------------------------
そう、これは賭けだ。
たとえ成功したとしても、あの子風に言うなら唯の運だ。
それでも今はっ!!
願いを込めて、デッキのカードを上から3枚表示させる。
そのカード達は―――。
1枚目:《白氷のフラウ》
2枚目:《巨塔の崩落》
3枚目:《砂塵のノーマ》
精霊は2枚、それらを捨て札にすることで2回の攻撃が可能となる。
「《ソール》を《エレメンタル・ブースト》で強化して攻撃、【拡散の陽光】!!」
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《天日のソール》攻撃力100→200
VS
《炎渦のサラマンドラ》 防御力0
《追影のシェイド》防御力100
-------------------------------------------------------------------
《ソール》の体から放たれた2本の光線は未菜のフィールドの精霊たちをつらぬき消滅させる。
(もう1回攻撃できていれば……)
望美としては、パートナーへの攻撃で僅かでもライフを削っておきたかった。
とは言え、運がなかった以上はしょうがない。すぐに諦めて切り替える。
ここは次のターンの備えを考えるべき場面だった。
「わたしは《月夜のルーナ》を召喚して、ターンエンド」
望美は月の精霊を召喚してターンを渡す。
攻撃無効能力を持つカードで、次の未菜のターンを凌ぐ1手だ。
「わたしたちのターン!!」
未菜が手をかざすと、そこにドローカードが現れる。
----------------------《3ターン目》----------------------
〈玉希 望美〉 〈玉希 未菜〉●
アリス Lv1 ドロシー Lv1
Lp 900 Lp 1000
魔力0 魔力2→5
手札3 手札3→4
-----------------------------------------------------------------
---------------------《フィールド》-----------------------
〈玉希 望美〉
アリス Lv1/ 0/ 0
《月夜のルーナ》Lv1/攻0/防100
《天日のソール》Lv3/攻200/防100
(+《エレメンタルブースト》)
〈玉希 未菜〉
ドロシー Lv1/100/100
-------------------------------------------------------------------
「《ドロシー》さんの効果発動!!」
『破壊された《サラマンドラ》の効果を得るよ!!』
宣言と共に、ドロシーのローブが炎のような真紅に染まる。
「さらに、《水面のウンディーネ》を召喚して効果を発動。捨て山のユニット1体を召喚する!!」
『復活だよっ、《サラマンドラ》!!』
白いドレスをまとった水の精霊がフィールドに召喚される。
足元に現れた水たまりに《ウンディーネ》がその右手入れて引き抜くと、その手に掴まった《サラマンドラ》が水の中から姿を現す。
『さらに、私と《サラマンドラ》で合計3回分のダメージだよ、マスター!!』
ドロシーと《サラマンドラ》が合計3発の火球を放ち、望美を襲う。
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〈玉希 望美〉Lp900→850→800→750
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「まだ終わりじゃないよ、お姉ちゃん!!」
『《
激しい風と共に、巫女装束の雷の精霊がフィールドに降り立つ。
「これにより《ドロシー》さんと《サラマンドラ》の追加ダメージ!!、ですよね?」
『その通り!!』
未菜の宣言に合わせて、《ドロシー》と《サラマンドラ》が1発ずつ火球を放つ。
--------------------------------------------
〈玉希 望美〉Lp750→700→650
--------------------------------------------
「……………強い」
怒涛の連続効果ダメージを受け、望美はふらつき驚愕する。
ドロシーの指示のおかげというだけではない、未菜自身もデッキを完全に使いこなしている。
今日1日。たった1日でここまで出来るようになったというのだろうか……。
(やっぱり、未菜はすごいなぁ……)
昔からいつもそうだ、と望美は思う。
習い事も、家事も、あらゆることで未菜は
同じ年の頃の望美にはできなかったことを、妹は易々とやってみせるのだ。
同じ時期に始めたことで勝てたことがなかった。
きっと、今回も……。
そんな望美の思考とは関係なく、試合は進む。
「《ボルテ》の効果【雷の矢】!!対象は《ルーナ》!!」
『そしてそのまま《ボルテ》で攻撃ぃ!!』
雷の矢が月の精霊の体をつらぬき電流が動きを止めたところへ2発目の矢が迫る。
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《迅雷のボルテ》攻撃力100
VS
《月夜のルーナ》防御力100→0
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「《ルーナ》の効果、【
『デッキの1番上が闇か精霊のユニットの場合、攻撃は無効……。マスターのデッキなら確率は五分五分!!』
ドロシーの指摘する通り、これも賭けだ。
でも、だからこそ、わたしでも……!!
願いを込めて、望美はカードを掴む。
デッキの1番上:《至高の魔術師 オズ》
「……やった!!」
《オズ》は闇タイプも併せ持つ。
霧が《ルーナ》を覆ってその姿を隠し、2発目の雷の矢は外れて空を切る。
「なら、次は《ウンディーネ》で攻撃っ!!」
水の精霊が起こした大波が、月の精霊を襲う。
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《水面のウンディーネ》攻撃力100
VS
《月夜のルーナ》防御力0
-------------------------------------------------------------------
《ルーナ》は大きな波にのまれて破壊される。
「さらに、《ドロシー》さんと《サラマンドラ》で一緒に攻撃!!」
『そう!!同時攻撃によって、攻撃力の合計で攻撃できる!!』
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《見習い魔女ドロシー》 攻撃力100
《炎渦のサラマンドラ》 攻撃力100
合計攻撃力200
VS
《天日のソール》防御力100
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炎の力を得た魔術師と炎の精霊、2体が放つ火球が上空で1つに合わさり巨大な炎となる。
落下した巨大な炎が、太陽の精霊をつつんで焼却する。
「………これで、わたしのユニットは全滅……、でもっ!!」
未菜たちの攻撃はこれで終わり、何とか守りきることには成功した。
"運よく"デッキの1番上が《オズ》だったおかげだ。
しかも、次のターンに《アリス》で《シルフィード》を出して《オズ》につなげれば、一気に巻き返せる。
『って、思ってますよねぇ?、マスター?』
「えっ!?」
心の声をドロシーに言い当てられ、望美は動揺する。
『"運"なんて、良いも悪いも紙一重だよっ!!』
「ライフの半分を代償にレベル0スペル《強制召喚》を詠唱!!」
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〈玉希 未菜〉Lp 1000→500
--------------------------------------------
『相手デッキの1番上のユニットの名前を当てれば奪えるカードだよっ』
「宣言するのは当然、《至高の魔術師 オズ》 っ!!」
望美の《オズ》が宙を飛び、未菜の手に渡る。
「そ、そんな……」
望美の顔が絶望に染まる。
未菜のフィールドに出現した魔方陣から《オズ》が現われる。
七色の杖を正面に構えた老魔術師の姿に、望美は恐怖する。
"あの"《オズ》の強さを誰よりも知っていたから。
「………な、なんと…」
「………まさか、こんな展開に……!?」
離れて見守っていた影野や巻宮も、まさかの展開に驚く。
未菜たちに容赦は一切ない。
答えを出すための戦いにも関わらず、まるで望美を全力で潰すかの様だった。
この戦いの行方はもう誰にも分らなかった。
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