8話ー4章 あの人の理由






扉を開いたその先で、天使が舞っていた。




「…………えっ……」


望美は目を見開いて驚く。


あの日、あの駅前広場で見た"純白の天使"が目の前にいた。


歓声が院内体育館に響き渡る。


その中心にいるのは黒髪の美しい女性、"天糸あまいと 玖々理くくり"。


あの望美の"憧れの人"がそこにいた。


「《戦天使いくさてんしキリア》 の攻撃よ!!さあ、君はこれをどう受けるかな?」


彼女の攻撃宣言に合わせ、"純白の天使"は飛びその剣を振り下ろす。


対峙する病衣を着た小さな少年は、焦りながら手札を見る。


「………………っ!!な、なら、《アース・シールド》だぁ!!」


彼と彼のユニットの周りに岩石のシールドが現れ、天使の剣撃を弾く。


「そう、ここはそれが正解よ!!」


そう言って、彼女は喜ぶ。





「…………これはいったい?」


「病院のもよおしでクロユニのトッププレイヤーとの交流会をやってるんです。………入院中の子供たちのために」


予想外の状況にとまどう望美に影野が答える。


そう、目の前で病衣の子供たちとクロユニを遊ぶ"天糸 玖々理"こそが、最後の相手だった。





● ● ● ● ● ●




「待たせちゃってごめんなさいね。………望美ちゃん、……だったよね?」


「は、はい!!」


交流会も終わり、望美は玖々理さんと2人で病院の中庭に来ていた。


その木陰にあるベンチに座りながら、話をすることになった。


影野さんは気を効かせ、少し離れた所で待ってくれている。


「………………」


「………………」


お互いにしばし沈黙し、少し気まずい空気が流れる。


(………どぉしよぉ!!あの、天糸さんとお話だなんてぇぇぇ!!)


予想もしていなかった展開に、望美の頭の中は軽いパニックになっていた。


緊張と喜びで心は満杯、その上で今回は話題が話題なだけになんと言えばいいのか分からなくなっていた。


そんな望美の様子に気づき、玖々理は意を決して話を切り出す。


「………………巻宮さんに事情は聞いたわ。………うちの妹が迷惑かけて、ごめんなさい」


手を合わせて謝る玖々理。


いきなり謝られてしまった望美は慌てる。


「そ、そんな迷惑だなんて………」


実際のところ、美命にはただ質問されただけだ。


それに明確な答えが返せずに、自分で勝手に思い悩んでるだけで……。


「思いこんじゃったら頑固なのよねぇ、あの子………」


そう言って、困ったようにため息をつく玖々理。


………やっぱり、やさしい人なんだ。


憧れの人が想像通りの人であったことに、望美は少しうれしくなった。


「………あ、あのっ!!…………今日みたいなイベント、結構参加されてるんですか?」


先程から一番聞いてみたかったことを思い切って聞いてみる。


「え?……ええ、こういった会にはできるだけボランティアで参加するようにしてるの」


急な質問に、玖々理は一瞬戸惑とまどったがすぐにそう答える。


「最初は私から提案してお願いしてたんだけど、最近は向こうからお誘いが来るようになってね」


ありがたいことにね、と玖々理。


「外で体を動かせなくてもニューロビジョンでの対戦ならそこそこ運動になるし、ゲームは頭の体操にもいいしね」


そう言って嬉しそうに笑う玖々理。


「それが玖々理さんの"クロユニをやる理由"、ですか?」


だとすれば、確かにそこには"意味"や"価値"もある、そう思った。


でも、――――


「えっ?……ああ、それはちょっと違うかな?」


そう言って、彼女は否定した。


「違うんですか?」


「せっかくだから好きな事で人の役に立ちたい、って思って始めた活動なのは確かだけど。やっぱり"クロユニが好き"って気持ちありきだからね。……ああ、でも美命は"好き"って答えでは納得しなかったんだっけ?」


そう言って、玖々理はあごに手をやり考える。


自身の思考をまとめ、彼女は答える。


「…………そうだね、私がクロユニが好きな理由。それは"自分が好きな自分になれるから"、かな?」


「自分が好きな自分、ですか?」


望美には、いまいちその言葉が意味するところが分からない。


「だって、カードゲームやってると、自分が物語の主人公みたいでしょ?」


………それは望美にも理解できた。


あの日、あの駅前広場で憧れたのは"物語の主人公みたいにカッコイイ"玖々理さんの姿だったから。


わたしもあんな風に、そう思えるほどに輝いていた。


「そう、しかもどんな主人公にも成れるんだよ?」


玖々理さんの言葉に熱がこもる。


「ドラゴンを操る勇者、天使と共に戦う戦士、精霊を操る魔法使い、弱き者たちを指揮して戦果を挙げる軍師、それこそどんな存在にも、ね」


「…………」


………わたしは、どんな主人公になりたいんだろう?……いや、どんな主人公だったんだろう?


自分の姿は自分ではわからない。


「…………うん、これが私なりの答えかな」


そう玖々理はうなずく。


お礼を言うと、望美は名残惜しそうにベンチから立ち上がる。


近くで待っている巻宮たちの元へ戻ろうとする途中、玖々理が呼び止める。


「そうそう。このカード、受け取ってもらえると嬉しいな」


彼女は1枚のカードを望美に手渡す。


「え、えっ!?」


突然のプレゼントに驚く望美。


「巻宮さんに望美ちゃんの試合を見せてもらったわ。きっと、望美ちゃんのデッキに合うと思う」


そう言って柔らかく笑った。





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《創作者 アリス》

Lv1/攻撃 0/防御 0

タイプ:幻想,精霊,魔術師

●:???

●:???

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