第8話 答えはいつもその手の中に

8話ー1章 姉の異変





珍しいこともあるものだ、未菜はそう思った。





大会の翌朝。


朝食を作ろうと台所に入ると、すでに姉の望美が起きて支度を始めていたのだ。


このところ、夜遅くまでカードをやってるためか朝寝坊が多くなっていたので、それは珍しいことだった。


姉が当番の日でも未菜が作る羽目になることも多かったくらいだ。


「………起きてたんだ、早いね」


やや嫌味を込めてそう言う。


「今日の当番、わたしだからね~」


当然だよ、といった感じだ。


嫌味が通じないのはいつものことなので、未菜は無視して準備を手伝うことにした。


「…………」


「…………」


冷蔵庫を空けながら、横目で姉の様子をうかがう。


鼻歌のリズムにのって食材を切る姉の姿に、いつも通りにも見えるその姿に不安を覚える。


昨日の夜、クロユニの大会から帰ってきた後は目に見えて落ち込んでいた。


大会で負けたことは話してくれたが、それだけとは思えなかった。


時々遠くを見ながら、何かに悩んでいるようだったから……。




● ● ● ●




「…………」


ブォォォ。


応接間に掃除機をかけ始めた姉の姿に、未菜はまた驚く。


「今日は私がやるよー。最近さぼりがちだったし」


確かに引っ越以降、姉は出かけているか部屋にいるかで、当番以外の家事をやることがほとんどなくなっていた。


だから、これは嬉しいことのはずだ。


だけど、喜ぶ気にはとてもならなかった。


………姉の性格を知り尽くした未菜には分かったのだ。


この行動は別の何かを考えないようにするためのものだ、ということが。


「………なにか、あったの?」


意を決して、聞く。


姉の心の内を知りたかった。


だが、―――。




「んー?何のこと?」




そう言って、未菜の真剣な問いを望美ははぐらかす。


それは一見無邪気にも見える、ハリボテの笑顔だった。




● ● ● ●




和室。


未菜は1人、その部屋にいた。


仏壇に飾られた母の写真。


それに手を合わせながら、未菜は思う。


母のこと、自分のこと、そして姉のこと。


顔を上げると、視界の端に1台のピアノが映る。


ホコリを被った古びたピアノだ。


思い出すのは、それに向かい、ともに泣き、ともに笑った、かつての自分たちの姿。


自分のやるべきことは、最初から決まっていた。


未菜は振り返ると、意を決して"彼女"に聞いた。




「お姉ちゃんに何があったのっ!?……教えてよっ、ドロシー!!」




そこには"全て"を見ていたはずの、不思議な存在の少女の姿があった。




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