6話ー4章 心なき戦略の結末






----------------------《5ターン目》----------------------


  〈玉希 望美〉●   〈須王 ヤイチ〉

  ドロシー Lv1     鬼火 Lv0


   Lp 200       Lp 200

   魔力0→4      魔力0→5

   手札2→3      手札3

 

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---------------------《フィールド》-----------------------

〈玉希 望美〉 

ドロシー Lv1/100/100


〈須王 ヤイチ〉

鬼火 Lv0/50/0

《機動大砲塔 マキシマム》Lv7/攻0/防600


《指名手配書》(《オズ》宣言)永続アイテム

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「わたしのターン!!」


望美は決意と共にカードをドローする。


状況は絶体絶命。


だが、望美には逆転の手があった。


(キタッ!!)


そのドローカードを見た瞬間、望美は歓喜した。


この布陣を突破できる、数少ないカードだったからだ。


「さあ、これで逆転です!!吹けよ嵐っ、《アシッド・ストーム》!!」


「……っ!?」


まさかのカードの登場にヤイチだけでなく、観客も騒めく。


それはタイプ機械にとっての天敵的カードだった。



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《アシッド・ストーム》

Lv3 通常スペル

タイプ:風、水、雷

●:フィールドに存在するアイテム、および

タイプ「機械」ユニットを全て破壊する。

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「《機動大砲塔 マキシマム》のタイプは機械。これで終わりです!!」


酸性の雨が暴風と共にフィールドに降り注ぐ。


激しい嵐が《マキシマム》をつつみ、その装甲を侵食しんしょくしていく。


だが、―――。


「させないよぉ、《マジックコート》!!」



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《マジック・コート》

Lv0 通常スペル

●:手札1枚を捨て札にする。

「機械」カード1枚は、このターン効果では破壊されない。

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スペルカードの詠唱と共に、《マキシマム》の装甲が銀色に輝き出し風雨を弾く。


やがて雨足も弱まり、風もやむ。


暴風雨が消えてもなお、その巨大な砲塔は変わらずそこにあった。


「機械カードの弱点、対策してないとでも思ったかい?」


バカにしたようなヤイチの笑い。


逆転の切り札は容易くかわされ、望美は悔しそうに奥歯を噛みしめる。


「わたしは《月夜のルーナ》 を召喚して、ターン終了です」


望美は次のターンの守りとして、精霊の少女を召喚した。


月をイメージしたデザインの和装に身をつつんだその少女は、望美たちを守るように前に出て巨大砲塔を睨む。



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《月夜のルーナ》

Lv1/攻撃0/防御100

タイプ:闇、精霊

●:???

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「ふん、たった1体の壁で何ができる。次で終わりさっ」


ヤイチは頼りない精霊少女の姿を鼻で笑いながら、カードをドローした。






----------------------《7ターン目》----------------------


  〈玉希 望美〉   〈須王 ヤイチ〉●

  ドロシー Lv1     鬼火 Lv0


   Lp  200     Lp 200

   魔力4→1→0    魔力0→5

   手札3→2→1    手札3→1→2

 

-----------------------------------------------------------------


---------------------《フィールド》-----------------------

〈玉希 望美〉 

ドロシーLv1/100/100

《月夜のルーナ》Lv1/攻0/防100


〈須王 ヤイチ〉

鬼火Lv0/50/0

《機動大砲塔 マキシマム》Lv7/攻0/防600


《指名手配書》(《オズ》宣言)永続アイテム

-----------------------------------------------------------------



「《廃品回収》詠唱!!その効果で《写し身の鏡》と《再生の炎》を回収する」


次の攻撃の準備として、捨て山からキーカードを手札に加えるヤイチ。


「さぁ、"弾"を確保だぁ。《写し身の鏡》!!」


再び、フィールドに鏡が出現して鬼火たちが召喚される。


しかし、今回は少し様子が違った。


「……3体だけ?」


そう、前まではユニットを出せる限界である4体が召喚されていた。


だが、今回はそれに満たない3体だけ。


「残念だけど、弾切れみたいでね。でも、君を倒すには十分さ」


そう言って笑うヤイチ。


それを聞きながら、望美は何かを考えるように顎に手を当てる。


《鬼火》はデッキに何枚でも入れられる。


なのに、もういない?


それが意味することは、――。


『マスター、今です!!』


ドロシーの呼びかけで確信する。


これはチャンスなのだ!!


望美は手札に残された最後の1枚を掴み宣言した。




「これが逆転の一手ですっ!!《アンコール》詠唱!!」




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《アンコール》

Lv0 通常スペル

●:相手の捨て山に存在する通常スペル1枚を選ぶ。

それを相手に強制詠唱させる。

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「ア、《アンコール》…。だとぉ!?」


予想外のカードの登場に、ヤイチは戸惑う。


そんな彼の前に捨て山から1枚のカードが舞い戻る。


望美が選んだそのスペルカードは、《炎精の祝福》!!


「さあ、あなたのフィールドの炎ユニットはパートナーを入れて4体。デッキを4枚まで可能なだけ捨ててもらいます!!」


「し、しまっ…!?」



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《炎精の祝福》

Lv2 通常スペル

タイプ:炎

●:自分の「炎」ユニットの数だけデッキを上から可能な限り捨てる。

その中に「炎」カードがあれば、1枚を手札に加えることができる。

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--------------------------------------------

〈須王 ヤイチ〉魔力2→0

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ヤイチはこの試合中、沢山のカードをデッキから手札に加え、そして捨ててきた。


ただ、勝利のために。


《写し身の鏡》で、《灼熱の報酬》で、《炎精の祝福》で。


その度に彼の手札や場は補充され、強力な連続攻撃を可能にしてきた。


だが当然、そこには限界があった。




―――山札の枚数という限界が。





《炎精の祝福》で捨てるカードは4枚。


ヤイチの残りデッキ枚数は、……たったの2枚。


その中に炎カードはなく、全てがそのまま捨て札となった。


次の瞬間、ピー、とヤイチの端末から危険を知らせる音が鳴る。


それは"デッキ切れ"を知らせる合図だった。



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〈須王 ヤイチ〉デッキ2→0

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【クロス・ユニバース】では、デッキが0枚で"ドローができなければ"敗北となる。


つまり、このターンを耐えれば望美の勝利となるのだ。


「ちぃぃ!!……だが、一撃でも通せば僕の勝ちだ!!」


望美のLpは僅か200。


《マキシマム》の攻撃力900を一度でも通せば敗北だった。


そして、望美の場には頼りない精霊の少女が1人だけ。


「3体の弾を装填し、連続砲撃ぃ!!」


《鬼火》達を吸収し、大砲が火を噴く。


巨大な燃える砲弾3発が《ルーナ》に迫る。


「そんなザコ、これで粉砕だっ!!」


1発目の砲弾が《ルーナ》の眼前に迫る。


「させないっ!!【大地の守護壁】」


地面が隆起し、《ルーナ》を守る盾となる。


砲弾が着弾して大地の壁は砕け散るが、《ルーナ》は無傷で場に残った。


『ふぅ、まずは一撃目』


そういって汗を拭くしぐさをするドロシー。


彼女の服装は、いつの間にか土色のコートに変っていた。


【力の継承】により捨て山の《砂塵のノーマ》の力を借り、攻撃を防いだのだ。




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《見習い魔女 ドロシー》

Lv1/攻撃力100/防御力100

タイプ:精霊,魔術師

●:1ターンに1度、自分・相手ターン中に発動できる。

自分の捨て山にある同じタイプのユニット1体を選ぶ。

その効果とタイプをターン終了時まで得る。

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《砂塵のノーマ》

Lv1/攻撃力0/防御力100

タイプ:地,精霊

●:1度だけ、同じタイプのユニット1体の破壊を無効にできる。

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「だが、その効果は1度だけだ!!2撃目は防げないっ!!」


息をつく間もなく、2発目の砲弾が《ルーナ》に迫る。


3発目がパートナーのドロシーに直撃すれば、残りわずかな望美のライフは消し飛んでしまう。


この攻撃を通すわけにはいかないのだ。


「だが、君にはもう手札もない。さぁ、観念しなぁ」


手札も魔力もないこの状況で、望美は動く。


「わたしは《月夜のルーナ》の効果発動!!【まどいの朧月おぼろづき】」


《ルーナ》を覆うように薄い霧が何処からともなく現れ、その姿を隠す。


「なっ!!」


予想外の現象に戸惑うヤイチ。


「これが《ルーナ》の効果。デッキの1番上を確認し、それが闇か精霊を持っていれば攻撃を回避できます」



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《月夜のルーナ》

Lv1/攻撃0/防御100

タイプ:闇,精霊

●:1ターンに1度、相手の攻撃時に発動できる。

デッキの1番上のカードが自身と同じタイプのユニットなら、

その攻撃を無効にする。

-------------------------------------------------------------------



「こ、この期に及んで、運まかせの効果だぁ?」


そう、ヤイチの言う通り、これはこれはただ博打ばくちだ。


だけど、これが望美に最後に残された一手。


迫る砲弾を眼前に、望美は自分のデッキに運命を託す。


思いを込めて、宙より勢いよくカードを引いた。


おそるおそる、望美はそのカードを確認する。


掴みとった運命、それは―――。




《至高の魔術師 オズ》




《オズ》は闇タイプも持つユニット。効果は、成功だった。


次の瞬間、砲弾が着弾し爆風が周囲の霧を吹き飛ばす。


しかし、その着弾点は大きくずれ、《ルーナ》は無傷だった。


周囲の観客から歓声が上がる。




この瞬間、望美の勝利が決まったのだ。




「くそぉぉ、目障りだぁ消え去れぇ!!」


ヤイチの咆哮と共に爆発した3発目は《ルーナ》に直撃。


精霊の少女は消し飛ばされてしまう。


だが、それで終わりだった。


そびえ立つ巨大砲塔には、もう撃ちだす弾が残されていなかった。


ヤイチはギリギリと奥歯を噛みしめる。


彼は認めたくなかった。


圧倒的優位にあった自分が、こんな負け方をするという事実を。


でも、いくら心の中で否定しても現実は変らない。


しばしの間を空けて、ヤイチは口を開き絞り出すように言った。


「…………ターンエンド…」


それは実質、敗北宣言だった。


当然、望美はドローだけでそのままターンを流す。


続くヤイチのターン、デッキのない彼はゲームを続けることができなかった。






――――――――― 〈クロス・ユニバース〉「決着」 ―――――――――



―――――――――――― 勝者 「玉希 望美」 ――――――――――――







● ● ● ● ● ●





レアカードを持ってるヤツが…、羨ましかった。


僕には運もなければ金もない。


手にできるのは、どこにでもあるようなノーマルカードばかり。


そんな僕もまた、どこにでもいるような人間だった。


運動もできなければ頭もよくない。


人並み以上にできたと感じたことがなかった。


カードだって、特別強かったわけじゃない。


弱くもないが強くもない、ただの有象無象うぞうむぞう


それが僕だ。


……だから、運に恵まれた"選ばれた人間"が大嫌いだった。





● ● ● ● ● ●





「やりましたわね、望美さん!!」


興奮した様子の巻宮は、望美に勢いよく抱き着く。


「あそこから逆転の可能性に気づくなんて!!さすがは望美さんですわっ!!」


「あ、ありがとう…」


友人に全力で褒めちぎられ、照れたように笑う望美。


周囲を見れば、見事な逆転劇に沸く観客たち。


1試合目の時も見かけた人もいれば、新たに増えた人もいる。


共通することは1つ。


その誰もが、望美の試合に魅せられた人だということだった。


『マスターも、"憧れ"にまた一歩近づいたんじゃないですか?』


そう言って、ニヤニヤと笑うドロシー。


…そんなことないよ、と言いながらも望美は思う。


あの駅前広場の戦い、その中心で凛として立つ"天糸さん"。




その場所に、自分も立てる日がいつか―――




楽しそうに話している観客たちを見ながら、望美はそう夢想した。


「………あれ?」


そうやって周囲を眺めていたその時、望美は不意に気がついた。


いつの間にか、須王ヤイチの姿が消えている、ということに。


「ああ、あの人なら悔しそうな顔でさっさと何処かへ行きましてよ」


いい気味ですわ、と続ける巻宮。


彼の試合中の態度、望美との応対、どれもが巻宮の神経を逆なでしていたのだ。


望美も正直なところ、彼にいい印象はない。


だが、彼が黙ってその場を離れたことが、少しだけ悲しかった。


ココロちゃんの時の様に、お互いに楽しく終われたら――。


そう思ってしまう。





戦いに勝者と敗者がいる以上、それは難しいとは分かっていても。









【第6話 2回戦 勝利のための犠牲  ―――終―――  】 







次回、【第7話 つながれた少女】 to be cotinued


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