第5話 大会開始 初戦の相手はアイドル!?

5話ー1章 わたしのデッキ




「このカードを入れるかどうか…、悩むなぁ~」


金曜日の夜中、望美は自分の部屋でカードを並べてデッキ構築をしていた。


明日は初めてのクロユニ大会だ。


それに備えるべく、望美は夕食後からずっとデッキをいじっている。


『そのカードは少し使いにくいし、やっぱり確実に仕事をするカードの方が…』


後ろから覗き込むドロシーが、そう助言をする。


こんな風に、望美がカードの選択に悩む度、ドロシーが意見を入れるのがお決まりの流れになっていた。


「そうかもしれないけど…。上手く使えた時は、こっちの方が絶対カッコいいよ」


そう言って、望美は《アンコール》を手にしながら反論する。




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《アンコール》

Lv0 通常スペル

●:相手の捨て山に存在する通常スペル1枚を選ぶ。

それを相手に強制詠唱させる。

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『まあ、悪いカードではないし…。マスターが入れたいならいいんじゃない?』


ドロシーは諦めたようにそう言った。


効率を重視した彼女の意見が、ロマンを重視する望美に反発されて不採用となるのもまた、本日何度も繰り返されたお決まりの流れだった。


「あっ…」


デッキのカードを1枚ずつ検討していた望美は、1枚のカードに目を留めた。


それは、巻宮に貰った《ファイヤーウォール・ゴーレム》だった。


思い出すのは、賭け勝負の翌日、学校での出来事だ。


望美は預かったままになっていた《ファイヤーウォール・ゴーレム》を巻宮に返そうとした。


しかし、彼女はそれを受取ろうとはしなかった。


「初めて協力して戦った記念にあげますわ」とソッポを向き、彼女は頬を少し赤らめる。


パックから当てた時、丁度欲しかったカードだと巻宮が言っていたのを望美は覚えていた。


にも関わらず、このカードを望美にくれるという。


絶対大事に使う、望美はそう誓った。


彼女の気持ちに応えたい、そう思ったから。


そんな記憶を思い返しながら、そのカードをデッキの束に重ねる。


『…………』


ドロシーも、これには特に何も言わなかった。


望美は次のカードを手に取り、デッキ構築作業を続ける。


夢中になった望美が日付が変っていることに気づくのは、数時間後の話だった。




● ● ● ●




「ち、ち、遅刻するぅっ!!」


翌日の朝。


目覚めて直ぐに時計を確認した望美は、その針が示している時間に驚愕した。


それは、大会開始の1時間前。


準備や移動時間も考えれば、かなりギリギリの時間だった。


眠るのが遅かったがゆえの、完全なる寝坊である。


急いで身支度を整えて1階に下りた望美は、居間に入ると朝食を食べる未菜と目が合った。


「先に言っておくけど、何度も起こしたからね…」


姉が口を開くより早く、未菜が言った。


先手を打たれた望美は妹を非難することも出来ず、その視線を僅かにさ迷わせる。


そこでようやく、居間にはドロシーの姿もあることに気付く。


宙に浮いたドロシーは、テレビ画面をかぶりつくように見ていた。


その画面に映っているのは、超人気アイドルの"星見ほしみココロ"。


クロユニもできるという、ドロシーの一押しアイドルだ。


なるほど…。


ドロシーの姿が見えなかったことに合点がいく望美だった。


望美は急いで朝食を食べると、ドロシーを画面から引きはがすようにして家を出たのであった。



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