4話ー5章 大切な友人
● ● ● ● ● ●
巻宮雅美は思い出す。
これは、一瞬の間に脳内に流れる走馬灯のような過去の記憶たち。
―――雅美ちゃんばっかりズルい!!わたしも、そのオモチャ欲しいっ!!
「で、でも、これは……お気に入りの…」
―――おかねもちなんだから1つくらいいいじゃない!!ケチーッ!!
「い、いいですわ!!また、おとうさまに買ってもらいますからあげますわ!!」
―――ありがとう!!大好き!!わたしたち、ずっと友達だよっ!!
彼女と最後に遊んだのはいつのことだったか…。
―――ダルセニーランドで30周年記念のイベントやるんだって!!
「へぇ、楽しそうですわね」
―――限定チケットが中々手に入らなくて困ってて、巻宮さんなら何とかなるんじゃないかって聞いたんだけど…
「え、もう販売は閉め切ってるみたいですけれど…」
―――巻宮さんのお父さんの会社も関わってるイベントだし何とかならないかな?
「そ、そういわれても…。な、なんとかならないか聞いてみますわっ」
―――ありがとう!!さすが、お嬢様っ!!
ムチャなお願いをして、お父様に珍しく怒られたことを思い出す。
何とか手に入れたチケットに、彼女たちはとても喜んでくれた。
彼女たちと遊んだのは、それが最初で最後だった。
―――巻宮さんってズルいよね。親の力で何でも思い通りになっちゃってさ。
教室の中から聞こえる声に、わたしは足を止める。
―――制服だって着てないし。なにあのドレス?何であんなこと許されてるのか信じられない!?
同意の声が上がり、盛り上がる様子が壁越しでも分かった。
―――いっつも1人でいるし。お高くとまっちゃってる感じで私も嫌いだなぁ。
ワタクシも嫌いですわ、そう心の中でつぶやく。
だってワタクシは"おかねもち"で、"良い家に生まれ"て、"何でも思い通りにできるお嬢様"ですもの!!
だったら、そう振舞ってもいいじゃないっ!!
"アナタたち"が、ワタクシにそうであることを望んだのでしょうっ!?
そう叫びだしてしまいたかった。心の底から。
ワタクシに、…友人はいなかった。
周囲にとってのワタクシは、羨ましくも役に立つ存在、それ以上でもそれ以下でもなかった。
巻宮家の、ワタクシのお父様の力を利用するための、ただのスイッチに過ぎなかった。
これまでも、そしてこれからも、きっと――――。
「わ、わたしの………カード友達になってください!!」
その純粋で小さな願いが、どれだけ"わたし"を救ったのか彼女は知らない。
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----------------------《7ターン目》----------------------
〈巻宮 雅美〉● 〈玉希 望美〉
大地の魔女 Lv2 ドロシー Lv1
Lp 200 Lp 200
魔力 4 魔力 0
手札2→3 手札 2
〈影野 穂村〉
くノ一女給 Lv1
Lp 500
魔力 4
手札 1
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---------------------《フィールド》-----------------------
〈巻宮 雅美〉
大地の魔女 Lv2/100/100
〈玉希 望美〉
ドロシー Lv1/100/100
《至高の魔術師 オズ》 Lv7/攻700/防600
〈影野 穂村〉
くノ一女給 Lv1/200/100
(《忍びクナイ》 装備)
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巻宮のドローカード:《ファイヤーウォール・ゴーレム》
ドローしたカードを見た巻宮は小さく微笑む。
それは勝利のための最後の1ピースとなるカード。
「わたくしは《はにわ騎兵》を召喚!!《大地の魔女》の効果で攻撃力をアップさせますわっ!!」
馬に騎乗したハニワがフィールドに現れ、その体を魔力が包む。
「さぁ、《シズカ》 を攻撃ですわ!!」
《はにわ騎兵》はその手綱を引くと、《シズカ》へ向かって突進を行った。
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《はにわ騎兵》攻撃力200→300
VS
《くノ一女給 シズカ》 防御力100
〈影野 穂村〉Lp500→300
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その攻撃は《シズカ》と影野のライフに傷を負わせるが、直後の反撃で《はにわ騎兵》も真っ二つにされてしまう。
そして、破壊された《はにわ騎兵》の体は爆発するべく光を放ち始める。
「今の攻撃は失敗ですね…。これではライフが200以下しかないお嬢様たちは《はにわ騎兵》の効果で敗北ですよ!!」
呆気ない決着に拍子抜けしたような表情の影野。
しかし、巻宮はニヤリと笑って手札から更なるカードを場に出した。
「ここで、《代行召喚》を詠唱しますわ!!この効果により、わたくしの手札のユニット1体を相手のフィールドに召喚できます。さあ、おいでなさい、偉大なる壁よ!!《ファイヤーウォール・ゴーレム》!!」
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《代行召喚》
Lv0 通常スペル
●:手札のユニットを相手フィールドに召喚する。
その後、自分はカードを1枚ドロー。
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赤いレンガで出来た壁の様なゴーレムが望美のフィールドに現れる。
「えぇっ!?相手って、望美でもいいの!?」
変則ルールがいまいち理解できていない晴香が驚く。
「多人数戦ルールにおける相手とは、自分を除く全てのプレイヤーを指す。で、いいんだよね?」
『大正解です、マスター♪』
最近勉強した内容を確認するように暗唱する望美にドロシーは嬉しそうに答える。
「そして、《ファイヤーウォール・ゴーレム》の効果【防御壁】!!そのプレイヤーをダメージ効果から守る!!さあ、望美さんを守りさない!!」
巻宮の宣言と同時に《はにわ騎兵》の体が爆ぜる。
その爆炎が影野を、巻宮を襲う。
だが、それが望美の元に届くことはない。
彼女の前に召喚された《ゴーレム》がその手で爆風を全て遮っていた。
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《ファイヤーウォール・ゴーレム》
Lv2/攻撃0/防御200
タイプ:炎,地,岩石,人形
●:1ターンに1度、自分が受ける効果ダメージは0になる。
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--------------------------------------------
〈巻宮 雅美〉Lp200→0
〈玉希 望美〉Lp200
〈影野 穂村〉Lp300→100
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爆炎が晴れた後、ゴーレムの手越しに見る視界の中、そこには膝をつく巻宮と涼し気に立つ影野の姿があった。
「雅美ちゃんっ!!」
「心配いりませんわ…。これも、わたくしたちの勝利のため。さあ、望美さん…あなたのターンですわ。あなたの勝利を、わたくしに見せてください…」
そう言って、微笑む巻宮。
その言葉に望美は戸惑った。
巻宮の口調は完全に勝利を確信したものだったからだ。
望美は考える。彼女が確信する理由を。
確かに、望美の場には圧倒的攻撃力を誇る《オズ》がいるため、1度でも《シズカ》への攻撃が通れば勝つことが可能だ。
しかし、《シズカ》にはデッキの忍具を使用する効果がある。
前のターンにも使われた《煙玉》で攻撃がかわされることは確実だった。
つまり、もう1つ攻撃手段がなければ勝利にはつながらない。
自分の場で他にいるのは《ドロシー》とたった今貰った《ゴーレム》の2体のみ。
《ドロシー》の攻撃力では《シズカ》の防御力を超えられず、《ゴーレム》に至ってはたったの0だ。
だから、ダメージは与えようがない…?
いや、違う。
望美は気づいた。
手は、あった。
「わたしのターン!!」
望美はその確信に賭け、カードをドローした。
----------------------《8ターン目》----------------------
〈玉希 望美〉● 〈影野 穂村〉
ドロシー Lv1 くノ一女給 Lv1
Lp 200 Lp 100
魔力 0→4 魔力 4
手札 2→3 手札 1
-------------------------------------------------------------------
---------------------《フィールド》-----------------------
〈玉希 望美〉
ドロシー Lv1/100/100
《至高の魔術師 オズ》 Lv7/攻700/防600
《ファイヤーウォール・ゴーレム》 Lv2/攻0/防200
〈影野 穂村〉
くノ一女給 Lv1/200/100
(《忍びクナイ》 装備)
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「わたしは《オズ》の効果発動、【魔法の支配者】!!魔力を2払い、デッキからレベル2スペルを手札に加えます!!」
選択すべき答えは、すでに出ていた。
巻宮が勝利を確信できた以上、望美が持っていることを彼女が知っているカードで勝てるはずなのだ。
前の彼女との闘い、その中で見せたカードは限られている。
それを思い返せば、答えは1つだった。
望美は迷いなく1枚のカードを選ぶと、それを手に取り手札に加えた。
「そして、《オズ》で《シズカ》を攻撃、【究・極・呪・文】!!」
「その攻撃は当然通しませんよ!!《シズカ》の効果【忍びの暗器】により《逃遁の煙玉》 を使用します」
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〈影野 穂村〉手札1→0
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煙が《オズ》の視界を奪い、その間に攻撃の射線上から《シズカ》の姿は消える。
「これで、もう手はないでしょう」
『それはこっちのセリフなんだよねぇ、マスター』
不敵に笑う影野の言葉に、ニヤリとしながらドロシーが答える。
そう、ドロシーの言う通りだった。
影野の手札はこれで0枚。
魔力がいくら残っていようが、これから起こることに対応する手がないのだ。
「…わたしは《ファイヤーウォール・ゴーレム》で攻撃!!」
「なっ!?」
望美の攻撃宣言に、理解できないといった表情になる影野。
「《ゴーレム》の攻撃力は0、無意味な攻撃をしていったい何を…!?」
「雅美ちゃんの思いがこもったこの一撃っ!!無意味なんてことはないですよ!!」
《ゴーレム》はその巨大な拳を握り、《シズカ》に対して振り下ろす。
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《ファイヤーウォール・ゴーレム》攻撃力 0
VS
《くノ一女給 シズカ》防御力100
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その攻撃が届かんとするその時、望美は手札から更なるカードを場に出す。
「この瞬間、わたしは《攻防転換》を詠唱!!《ゴーレム》の攻撃力と防御力を入れ替えます!!」
「ゴーレムの防御力は200!?ま、まさかっ!!」
影野がその意味に気づいて驚愕するのと、《ゴーレム》の重い一撃が入るのは同時だった。
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《ファイヤーウォール・ゴーレム》攻撃力0→200
VS
《くノ一女給 シズカ》防御力100
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〈影野 穂村〉Lp 100→0
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――――――――― 〈クロス・ユニバース〉「決着」 ―――――――――
――――――――― 勝者 「玉希 望美&巻宮 雅美」 ―――――――――
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「まさか、私が負けるとは…」
膝をついた影野は少し驚きながら、しかしどこか嬉しそうに言った。
そして、視線を上げて巻宮と望美の姿を見る。
「お二人とも、最後は素晴らしいコンビネーションでしたね。私の完敗です」
素直な賞賛に望美は照れて笑い、巻宮は意外そうな顔をした。
「影野がただ褒めるんなんて!!槍でも降る前触れですの…?」
「さすがにそれは言いすぎですよ、お嬢様」
こめかみに血管をうっすら浮かべながら、影野は少し語気を強める。
「で、でもこれでミヤミヤと帰れるってことだよねっ!!」
話題を変えるべく、横から入った晴香が強引に話を進めた。
そう、賭け勝負に勝ったことで巻宮たちは"門限までの猶予"を手に入れたはずなのだ。
「そ、そうですわ。これでゆっくりと3人で帰宅できるは…ず……」
巻宮は最後までセリフを言いきることはできなった。
影野が笑顔で掲げた懐中時計、それは19時を指し示そうとしていた。
「賭け勝負の内容は覚えていますか、お嬢様?」
影野のその言葉の意味に、望美たちも僅かの間をおいて気づいた。
そう、賭け勝負の内容は"望美たちのとの帰宅"ではない、"門限の1時間延長"それだけだ。
そして本来の門限は18時。
クロユニをしている間に、時間切れの時は迫っていたのだ。
その勝負の成否にかかわりなく…。
「では帰りますよ、お嬢様」
影野は目にも止まらぬ速さで巻宮の胴体に手を回して小脇に抱え込む。
当然、巻宮は抜け出そうともがき暴れるが、びくともしなかった。
「おに、あくま、ひとでなしぃ~!!こんなのペテンですわ~!!」
巻宮の叫びも気にせず、影野は望美たちに頭を下げると次の瞬間にはその視界から消えた。
「……………」
「……………」
予想外の展開についていけない望美と晴香。
「……………帰ろっか…?」
どれだけの時間呆然としていたのかは分からない。
先に我に返った晴香の提案でようやく2人は家路につくことになった。
歩き出して数歩、望美はハッとしてその足を止めた。
「………、どうしたの?」
「雅美ちゃんのカード返し忘れた…」
先程力を貸してくれた《ファイヤーウォール・ゴーレム》のカードをデッキホルダーにあるのを確認する望美。
明日返さないと、そう望美は思った。
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「あれだけ戦ってこの落ちは、いくら何でもひどすぎませんこと?」
ビルの谷間を飛び回る影野の脇に抱えられた巻宮は頬を膨らませてすねる。
「でも、一緒に遊べて楽しかったのではないですか?」
「そういう問題ではありませんわっ!!」
友人との時間を奪われて本気で怒る巻宮の姿を横目に、影野は嬉しそうに笑う。
幼き頃から巻宮家に仕え続けたメイドにして護衛役、"
巻宮家の長である旦那様の意向はすべてに優先される。
"門限が過ぎたらお嬢様を可能な限り早く帰宅させること"も例外ではない。
だがそれでも、出来る範囲でならお嬢様の意に沿いたかった。
彼女にとって、友人がいるお嬢様を見られる日が来たことは本当に嬉しいことだったから…。
【第4話 門限は絶対!? VS忍者メイド ―――終――― 】
次回、【第5話 大会開始 初戦の相手はアイドル!?】 to be cotinued
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