第4話 門限は絶対!? VS忍者メイド

4話ー1章 提案




「ん~、この問題難しすぎるよ~」


自宅の居間で画面と睨めっこしていた望美が、降参とばかりに両手を上げてそう叫んだ。


夕食後、望美はいつものようにドロシーの出したクロユニの問題を解こうと奮闘していた。


「お姉ちゃん、毎日ホント熱心だねぇ」


台所にいる未菜が当番の洗い物をしながら笑ってそう言った。


実力をつけたいと思ったあの日から、この作業は望美の日課となっている。


だが、日に日にレベルが上がっていく問題に望美は頭を悩ましていた。


「多人数戦ルールにおける各カードの処理っていう問題が難しすぎるよ~。味方も相手扱いとか全然ピンと来ないし~」


そう言ってむくれながら、望美はゴロンとソファーに寝転がった。


『特殊なルールでの試合を今後しないとも限らないし、マスターも覚えておいた方がいいと思うよ』


ドロシーはふて寝する望美を見ながら、呆れたようにそう言った。


そして、ドロシーはさらに言葉を続ける。


『それにこういった応用問題が解けるかどうかで、基本がちゃんと押さえられているかどうかが分かるんだよっ』


望美は耳を押さえて、聞こえないフリをした。


「ところで、さっきからドロシーさんは何を見てるんです?」


台所から顔を出した未菜がふと気づいたようにドロシーの視線の先、そこにあるテレビ画面に目を向ける。


そこには華やかな衣装を身にまとった女の子達が歌って踊っている番組が写っている。


『えっ!?超人気アイドルユニット、"シャイニードロー"をご存じない!?』


ドロシーが信じられないという様な表情をして言った。


「いや、それは知ってるけど…。むしろ、ドロシーさんがアイドルユニットを知ってる事にビックリだよ」


未菜のその当然の疑問に、ドロシーは答える。


『"シャイニードロー"のセンター、星見ココロちゃんがクロユニ好きって知って、それで気になって見てみたら可愛くて可愛くてっ!!』


ドロシーはテレビ画面から視線を外すことなくそう言った。


そしてそのまま、アイドル達をドロシーは夢中になって見続ける。


そんなドロシーを横目に、未菜は興味なさそうに台所へ戻った。




● ● ● ● ● ●




「へぇ、クロユニって3人以上で遊べるルールあったんだ」


お昼休みの時間の教室、お弁当を食べ終わった後、昨日の問題の続きを解く望美を見て晴香は言った。


「まあ、普段のルールと勝手が違いすぎますからそうそう使われることのないルールですけれどね」


巻宮もまた物珍しそうに問題文を覗き込みながら言う。


「このタッグルールの問題が難しいよぉ。相手プレイヤーを指定したカードの効果がなんで仲間にも使えるのかとか意味が分からないよ」


そう言って、今日も頭を抱え込む望美だった。


「そうですわねぇ。タッグバトルのルールは全プレイヤーが敵となるバトルロイヤルルールを元に作られたルールですから、感覚としてピンとこないのも仕方ないことかもしれませんわね」


顎に手を当てた巻宮が考えるようにそう言った。


「まあ、この手のルールはそういうもんだと覚えるのが1番早いですわね」


『そうそう。頑張って覚えていきましょうよ、マスター』


巻宮の意見に同意するドロシーを望美は恨めしそうにいちべつした。


そしてため息をつき、ここは観念して頑張るしかないなと思った。


「まあまあ、根を詰めてばかりじゃしょうがないよ!!今日は学校も早く終わるし、帰りにでもパーッと遊びに行かないかい?」


そう言った晴香の手の上には、スイーツ店のネット記事が表示されていた。




● ● ● ● ● ●




「ワ、ワタクシ、学校帰りに寄り道するのは初めてのことですわっ…」


その日の放課後。


学校の帰りにいつもと違う方向へ歩き出すと、巻宮は少し興奮したようにそう言った。


「そういえばお家の門眼が厳しいって前言ってたもんね…」


望美は思い出すようにそう言った。


「まあ、スイーツ食べてちゃちゃっと帰れば時間は問題ないでしょ」


先頭に立って案内する晴香は、そう言うと少しだけ早足になった。


「それで、そのお店はどのあたりにあるんですの?」


ワクワクといった面持ちで巻宮は晴香に聞く。


「ふっふっふー、もうその場所は見えてるんだなこれが」


そういう晴香が得意げに指さしたその先は、この町一番のショッピングモール"エオン"だった。




そんな3人の遥か後ろ、電信柱の影に1人の女性の姿があった。


白と黒のエプロンドレスを身にまとい白いカチューシャを付けたその姿は、ひとめでメイドだと分かるものだった。


そんな恰好で街中にいるのだから当然目立つ、はずだ。


だが、不思議なことに誰もがそこに彼女がいることに気づかず通り過ぎていく。


気が付けば、その女性の姿はそこから消えていた。


まるで、電信柱の影の中に溶けたかのように………。



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