3話ー5章 弱さの強さ
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「ほんと、邦人君って変わったカード使うよね」
新地のカードを見ながら、その女性は言った。
長い黒髪、均整の取れた長身の体、確固たる意志を内に秘めた瞳、カッコイイという言葉の良く似合う女性だった。
「例えばこの《モリビト》ってカードなんて、実戦で使ってる人をほとんど見たことないんだけど」
「まあ、いわゆるザコカードってやつですからね」
そう答える新地の顔は、どこか悲しそうに見える。
しかし、―――
「でも、だからこそ、おれはいつも思ってます。そんな奴らにも輝ける場所や瞬間があるんだって、それを見せつけてやるって」
そう続けた新地は、誇らしそうだった。
「そっか…。それが邦人君の"戦う理由"、その1つなんだね」
彼女はそう言って、羨ましそうな顔をした。
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「絶対的な強者に弱者は勝てはしない。これがザコカードにこだわるお前の限界だ、新地邦人!!」
頭上に触手の化け物を従えた佐神が叫ぶ。
対峙する新地は怯まず答える。
「おれの限界を決めるのはお前じゃないよ、佐神」
少し前の自分を思い返し、新地は思う。
限界を決めてしまうのは自分自身。挑戦を止めた時、そこが限界になるのだと。
新地はドローカードを確認し、ニヤリとした。
「それに、おれのカード達はザコじゃない。全員がエースカードさ」
その言葉と共に、新地はそのカードをフィールドに出した。
「おれが引いたのは、レベル0スペル《烏合の再召喚》!!」
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《烏合の再召喚》
Lv0 通常スペル
●:タイプが異なる3体以上を捨て山から選んで詠唱する。
選んだユニット全てを捨て山から召喚する。
召喚したユニットはターン終了時に破壊される。
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「《烏合の再召喚》…だと…、まさか…全てのユニットを!!」
「その通り、この試合中に破壊されたユニット達は異なるタイプを持つものばかり!!よって、その全てを復活させる!!」
狼狽する佐神を前に、新地は捨て山に送られていた全てのユニットカードをその手に出現させる。
次の瞬間、上空に現れた巨大な魔法陣から5体のユニットが現れ、フィールドに降り立つ。
兜を付けたハニワ、刀を持った鳥人、ボンボンを持つ幼い妖精、緑色の小さな精霊、そして顔の付いたロウソク。
新地のフィールドは、一瞬にしてユニットで埋め尽くされた。
「さらに《癒しのキャンドル》の効果が発動!!ライフを50回復」
---------------------《フィールド》-----------------------
〈新地 邦人〉
無貌道化 Lv0/0/0
《はにわ兵》 Lv1/攻100/防100
《侍ツバメ》 Lv2/攻100/防100
《激励の小天使》 Lv1/攻0/防100
《モリビト》 Lv1/攻100/防0
《癒しのキャンドル》Lv0/攻0/防0
〈佐神 魁〉
闇の召喚者 Lv3/0/0
《悪意を撒く者》 Lv10/攻1000/防700
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〈新地 邦人〉 魔力 5→0
Lp 50→100
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「あれは新地様の切り札の1枚!!ここで手札に引き込むなんて流石ですわ!!」
「やっちまえ、新地!!」
巻宮や木場の声援に応えるように、新地は続けて宣言する。
「さあ、《無貌道化 ラルト》と全てのユニットで《悪意を撒く者》に攻撃だ!!《激励の小天使》の効果で他のユニットの攻撃力が全てアップ!!」
「ばかなっ、こんなザコ共に俺の切り札が!?」
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《無貌道化 ラルト》 攻撃力 0→100
《はにわ兵》 攻撃力100→200
《侍ツバメ》 攻撃力100→200
《モリビト》 攻撃力100→200
《癒しのキャンドル》 攻撃力 0→100
《激励の小天使》 攻撃力 0
合計攻撃力800
VS
《悪意を撒く者》防御力700
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小さな天使の声援を受けたユニット達が、触手の化け物に突撃し攻撃を行う。
その1つ1つは脆弱、だがそれらも束ねれば大きな力となる。
押し寄せる攻撃の波に、触手も漆黒の球体も削られ、やがて絶叫と共に消えた。
「さらに侍ツバメの2回目の攻撃だ、【剣技ツバメ返し】!!」
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《侍ツバメ》 攻撃力100
VS
《闇の召喚者》 防御力 0
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〈佐神 魁〉 Lp 200→100
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「ぐぅぅ!?」
鳥人の刀が一閃し、佐神の体に衝撃が走る。
だが、佐神は膝をつかなかった。
彼の手札にはまだユニットがいた。
次のターンで《闇の召喚師》の効果のコストになるカードを引ければ、まだ逆転のチャンスはある。
そう思った。だが、――――
「ターン終了と共に《烏合の再召喚》のデメリットにより、全てのユニットが破壊される!!破壊時の効果を持つ《はにわ兵》も含めてな!!」
「しまっ」
気づくと同時に、新地のユニット達が消え、唯一残った《はにわ兵》が爆発した。
佐神と新地はその爆炎に飲まれ、煙の中に姿を消す。
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《はにわ兵》
Lv1/攻撃力100/防御力100
タイプ:地,岩石,人形
●:自身が破壊された時、お互いに100ダメージを与える。
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「新地さんも、佐神さんもライフポイントは100…。まさか、引き分け?」
望美の疑問に、木場も巻宮も、もちろん晴香も答えられない。
逆転劇に沸いた直後のあっけない幕切れに、皆が呆然としてしまっていた。
いや、1人だけがそうではないことを理解していた。
『いいえ。破壊された中には《モリビト》もいた、つまり…』
ドロシーの言葉と共に煙が晴れる。
そこには――――
倒れ伏した佐神と、立ち続ける新地の姿があった。
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《モリビト》
Lv1/攻撃力100/防御力0
タイプ:植物,精霊
●:自身が破壊された場合に発動する。
次のターンまで、自分が受ける全てのダメージは半分になる。
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〈新地 邦人〉Lp 100→ 50
〈佐神 魁〉 Lp 100→ 0
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――――――――― 〈クロス・ユニバース〉「決着」 ―――――――――
―――――――――――― 勝者 「新地 邦人」 ――――――――――――
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「やはり、佐神は負けましたな…」
ニューロビジョンで映し出された和服の少年が、ため息と共に言った。
チーム・ペンタグラムの幹部会議にて試合の様子はモニターされていた。
もっとも、カードの動きなどのデータのみでその場の会話までは分からない物だったが。
佐神を除いた3人がニューロビジョンで集い、試合の一部始終を観戦していたのだ。
「アイツになら勝てるとか言ってたくせに、佐神兄ちゃんなっさけな~」
同じく横に映し出された小さな少年もニヤニヤと笑う。
そんな2人の前では学生服姿の少年がニューロビジョンで3次元チェスを黙々と打ち続けている。
僅かの間の後、彼は静かに言った。
「…これから忙しくなりそうだね」
「と、いうと?」
和服の少年の疑問に、学生服姿の少年はため息と共に答えた。
「だってさ、新しい幹部を探さないといけないからね」
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「また、俺の負けか………ははっ」
佐神は地面に仰向けに倒れたまま起き上がらず、ただ乾いた笑いを漏らしていた。
この試合が最後のチャンスだったのだ。
チーム・ペンタグラムの幹部でいつづけるための…。
恐らく今頃、他の幹部たちは新しいメンバー候補の相談でもしていることだろう。
だが、それも仕方のないことなのかもしれないと佐神は思った。
自分は初心者やザコカード使いにすら負けるほどの弱者だったのだから。
「……で、何の用だ?」
いつの間にか傍らに立っていた新地に佐神は訊ねた。
「1つだけ、言っておきたいことがあってね…」
新地は少し考えるような様子を見せた後、言葉をつづけた。
「いつも言ってることだけど、この世に使えないザコカードなんてない。皆、それぞれにしかできない長所があるんだ」
「…ちっ、またそれか。まあ、語るのは勝者の特権だ。今は黙ってきいてやる」
そいつはありがたいね、と言って新地は続ける。
「でもそれは、カードだけじゃないとおれは思う。人間だって一緒なんじゃないかな?」
「何が言いたい…」
「いや、別に…。ただの感想さ、気にしないでいいよ」
苦々しそうな表情で睨む佐神から視線をそらし、新地はそう言い残して去って行った。
「…………………………………っ」
佐神は思う。
この世には強者と弱者がいる。
勝つのが強者で、負けるのが弱者だ。
強者だと思っていた自分は、実は弱者だった。
ザコに入れ込み、敗者に情けを掛けようとするエセ強者に負けるほどの、どうしようもない弱者だ。
だからこそ、思った。
強くなりたい、と
佐神は泣いた。
悔しくて悔しくて堪らなかったからだ。
【第3話 勝者と敗者 ―――終――― 】
次回、【第4話 門限は絶対!? VS忍者メイド】 to be cotinued
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