3話ー4章 勝利への渇望
● ● ● ● ● ●
初めて得た勝利は、格別の味だった。
流行っていたから、ただそれだけの理由で始めたゲームだった。
だが、クラスで一番強いとのたまっていたやつをボコボコにしてやった時、えも知れない快感を覚えた。
大会で強豪だと言われている連中を叩き潰し、身の程を分からせてやるのも楽しかった。
カードが強いことだけが取り柄のような奴らに勝負を挑み、自慢の戦術を打ち崩してやった時に見せる顔は愉快極まりなかった。
そんな風にただ好きなように暴れていたら、いつの間にか自分自身がランキング上位になっていた。
周りの奴らに天才だとか脅威の新人だとかはやし立てられ、悪くない気分だった。
そんな折、チーム・ペンタグラム加入の誘いを受けた。
強者であることを条件にプレイヤー達を集めている組織だというのだ。
しかも、そのトップはあのマスターランク1位だという。
佐神はその組織に参加することにした。
そんな組織に目を着けられた自分を誇らしく思ったことも一因だ。
しかし最大の理由は、組織の中からそのトップたちを崩していくのも一興だと思ったからだった。
だが彼はやがて知ることになる。
圧倒的な化け物の存在を。
● ● ● ● ● ●
----------------------《4ターン目》----------------------
〈新地 邦人〉 〈佐神 魁〉●
無貌道化 Lv0 闇の召喚者 Lv3
Lp 550 Lp 800
魔力 5 魔力 0→2
手札 1 手札 2→3
-----------------------------------------------------------------
---------------------《フィールド》-----------------------
〈新地 邦人〉
無貌道化 Lv0/0/0
《癒しのキャンドル》Lv0/攻0/防0
〈佐神 魁〉
闇の召喚者 Lv3/攻0/防0
-------------------------------------------------------------------
自分のターンを迎えた佐神は、まず舌打ちをした。
新地と一進一退のこの状況が気に入らなかったからだ。
ザコと言われているカードを何とか活用しようとする新地のスタイルが、佐神は嫌いだった。
ザコは何処まで行ってもザコ、それが佐神の哲学だ。
非現実的なコンボを狙うザコデッキを使っていながら、持ち前の運の良さだけでマスタークラスになった弱者。
それが佐神の新地に対する認識だ。
そんな奴と競り合っている現状は、佐神にとって許しがたかった。
「俺のターンだ、ドロー!!」
宣言と共に、佐神は空中からカードを引き抜く。
ドローしたカードは、レベル10ユニットの《絶望の化身 ウスタウ》。
カードを確認した佐神は、心の中で舌打ちをする。
今の魔力ではこのユニットは召喚しようがない。
手札を睨み、佐神は次の手を考える。
手札にはライフポイントの半分と引き換えにドローを行うスペルカード《命の対価》があった。
だが、今400のライフを失うのはリスクもでかい。
ここは何もせず相手にターンを渡すという選択肢もある。
新地のデッキは低レベルユニットを大量に積んだデッキで火力が低い。
ユニットがほぼ一掃された今、たった1ターンでは大したダメージを受けない公算も高い。
ダメージを受けてライフが減れば、それだけ《命の対価》で支払うコストも少なくなる。
無理に動かず、よりリスクの低い選択をするべきだとも思った。
だが、佐神はその選択はしなかった。
「俺は《命の対価》を発動!!ライフ400を代償に、カードを2枚ドローする!!」
この臆病者のザコカード使いを相手に消極的な選択をすることを佐神のプライドが許さなかったのだ。
2枚のドローカードを目にした佐神はニヤリと笑う。
賭けは、成功だった。
「まず俺は《闇の召喚者》の効果で再び魔力を5増やす!!」
先程引いた《絶望の化身 ウスタウ》を捨て、5つの魔力の球を生み出す。
「さらに《魔力生成術》を発動!!捨て山のスペルをコストに魔力を増やすぜ!!」
-------------------------------------------------------------------
《魔力生成術》
Lv1 通常スペル
●:自分の捨て山からスペルカード3枚を選んで隔離する。
その数だけ自分の魔力を増やす。
-------------------------------------------------------------------
--------------------------------------------
〈佐神 魁〉 魔力2→7→6→9
--------------------------------------------
佐神の上にさらに魔力の弾が出現する。
そして、手札から1枚のカードを掴むとそれを天高く掲げ、宣言した。
「さあ、恐怖しろ!!全てを蹂躙して嘲笑え、レベル9《
上空に浮いていた魔力の弾が全て弾け、代わりに黒く淀んだ球体が宙に現れる。
やがてそれは巨大化し、内部の闇が外に漏れだすように周囲に拡散を始める。
同時に球体の中から無数の暗き触手が伸びて蠢きうねる。
その触手のうねりの中に、パックリと縦に割れた巨大な目が現れ、その赤い瞳をギョロギョロと忙しなく周囲へ向ける。
「なにあれ…」
「なんて気持ちのわるいユニットですの…」
望美達はそのおぞましささえ感じる光景に震える。
当然、それと相対する新地は彼女達以上に圧倒されていた。
「《
新地は汗をぬぐい身構える。
そんな様子を愉快そうに観察していた佐神は、堪え切れなくなったかの様に高笑いをしだした。
「クハハハ!!コイツは攻撃力900にして2回の攻撃が可能なユニット!!その代償として、攻撃するたびに俺は100のライフを失うがなぁ!!」
その佐神の声に反応し、巨大な瞳が新地を捉え、無数の触手が彼のユニットを狙う。
「さあ、我が命を糧とし攻撃!!ザコを
-------------------------------------------------------------------
《悪意を撒く者》攻撃力900
VS
《癒しのキャンドル》防御力0
-------------------------------------------------------------------
--------------------------------------------
〈佐神 魁〉 Lp 400→300
--------------------------------------------
無数の暗き触手によって《キャンドル》の体は貫かれ、その触手の濁流にのまれて消える。
そして同時に、その内の一部が新地の体も貫いた。
--------------------------------------------
〈新地 邦人〉Lp 550→500
--------------------------------------------
「え!?パートナーへの攻撃でもないのに、何でクニッチも攻撃されてるの??」
予想外の展開に、晴香が当然の疑問を口にした。
それに対して膝をついた新地が苦しげな声で答える。
「《悪意を撒く者》の効果さ…。ユニットを破壊した時、相手のライフも100喰らう…」
「その通り。まあ、前のターンに破壊された《モリビト》とかいうザコのせいで、威力は半分になっちまったがな」
-------------------------------------------------------------------
《モリビト》
Lv1/攻撃力100/防御力0
タイプ:植物,精霊
●:自身が破壊された場合に発動する。
次のターンまで、自分が受ける全てのダメージは半分になる。
-------------------------------------------------------------------
「だが、ここで《悪意を撒く者》の更なる効果発動、【悪意の連鎖】!!」
佐神の声に応えるように、《悪意を撒く者》のその黒い体が大きく成長していく。
5~6メートルほどだったそれは、いつの間にか2倍近い大きさになっていた。
「破壊された相手ユニットの憎悪を喰らったことで《悪意を撒く者》のレベルは1上がり、その攻撃力は100ポイントアップするのさ!!」
-------------------------------------------------------------------
《悪意を撒く者》
Lv9→10
攻撃力900→1000
-------------------------------------------------------------------
-------------------------------------------------------------------
《悪意を撒く者》
Lv9/攻撃力900/防御力700
タイプ:闇,悪鬼,神話
●:自身は1ターンに2回まで攻撃できる。
●:攻撃する場合、自分はLpを100払う。
●:自身がユニットを戦闘で破壊した時発動する。
自身のLvを1、攻撃力を100アップする。
その後、相手に100ダメージを与える。
-------------------------------------------------------------------
望美達の間に絶望的な空気が立ち込める中、佐神は愉快だと言わんばかりに高笑いをつづけた。
「さあ、これで終わりだ!!2回目の攻撃、【悪意の蹂躙】!!」
--------------------------------------------
〈佐神 魁〉 Lp 300→200
--------------------------------------------
佐神のライフを糧として、無数の触手が《無貌道化 ラルト》を襲う。
『《無貌道化》の防御力は0、《モリビト》の効果で半分にしてもダメージは500。新地さんのライフも500。対抗策がなければ、彼の負けよ』
「そんな!!新地さんっ!!」
ドロシーの言葉を聞き、望美は叫ぶ。
晴香も巻宮も、そして木場も、新地の敗北を覚悟した。
だが、――――
「おれは《ピンポイントバリア》を詠唱!!」
新地は手札に最後に残っていたスペルカードを詠唱した。
その効果は、ターン限定の防御力100アップ。
《無貌道化》の前に小さな半透明のバリアが現れ、触手の
だが、防ぎ損なった多くの触手が《無貌道化》と新地を襲った。
-------------------------------------------------------------------
《悪意を撒く者》 Lv10 攻撃力1000
VS
《無貌道化 ラルト》 Lv0 防御力0→100
-------------------------------------------------------------------
--------------------------------------------
〈新地 邦人〉Lp 500→50
--------------------------------------------
倒れた新地を見下ろしながら、佐神はターンの終了を宣言した。
生き残ったとはいえ、新地のライフは残りたった50。
しかも、手札やフィールドにカードがない絶望的な状況だ。
「何とか命をつないだか…。だが、お前が次のターンにユニットを召喚しようがしまいが、《悪意を撒く者》の攻撃は防げない!!俺の勝ちで決まりだ、諦めろ!!」
佐神の言う通り、新地にはもう勝ち目がないように見えた。
だが、立ち上がった新地の目は死んではいなかった。
「勝ちは決まったって?……それはどうかな?」
その言葉と共に、新地はデッキからカードをドローした。
----------------------《5ターン目》----------------------
〈新地 邦人〉● 〈佐神 魁〉
無貌道化 Lv0 闇の召喚者 Lv3
Lp 50 Lp 200
魔力 5 魔力 0
手札 0→1 手札 1
-----------------------------------------------------------------
---------------------《フィールド》-----------------------
〈新地 邦人〉
無貌道化 Lv0/0/0
〈佐神 魁〉
闇の召喚者 Lv3/0/0
《悪意を撒く者》Lv10/攻1000/防700
-------------------------------------------------------------------
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます