3話ー2章 決意




昼休みもあと少しとなった頃、屋上にて望美と木場が対峙していた。


「続いて、オレは《オニオン・ナイト》に2枚目の《灼熱の剣》を装備してその攻撃力を900にアップするぜ!!」


そんな木場の宣言と同時に、彼のパートナーである甲冑を着た玉ネギの左手に燃え盛る剣が現れる。




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《オニオン・ナイト》 攻撃力500→900

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手足の生えた玉ネギが両手に燃え盛る剣を構えた姿は、とんでもなくシュールだ。


だが、冗談のような絵面に似合わずその攻撃力は圧倒的だった。


続く攻撃宣言と共に振り下ろされたその2本の刃に、望美の《魔導剣の使い手 ソラ》を一撃で葬られた。


「どうだ、このオレの大量装備戦術の強さ!!ルールによって破壊されないパートナーを強化しちまえば、最強って寸法よ!!」


そう言って、木場はご満悦そうに高笑いをした。


「張り切ってるなぁ、木場のヤツ…」


観戦していた新地はそんな親友の姿を見て呆れたように、そうつぶやいた。


「パートナーを強化するのって単純ながら強力な戦術ですわよね?木場さんのランクがイマイチなのは何故なのでしょうか?」


その横で同じく観戦していた巻宮が素朴な疑問を新地に投げる。


8人しかいないマスタークラスの1人である新地の親友、木場が万年ブロンズランクなのは有名な話だ。


クロユニを長くやっており、身近に模範となるプレイヤーがいるにも関わらず、彼が弱いままなことは黒須市七不思議の1つに数えられているほどだった。


「まあ、見てれば分かるよ…」


「え?それはどういう――」


深いため息をつきながら新地がこぼしたその言葉の意味を、巻宮が確認しようとしたその時だった。


「わたしは《アシッド・ストーム》を詠唱します!!」


望美が手札のスペルカードを1枚選び、その詠唱を宣言したのだ。




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《アシッド・ストーム》

Lv3 通常スペル

タイプ:風、水、雷

●:フィールドに存在するアイテム、および

タイプ「機械」ユニットを全て破壊する。

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「これで、木場さんの装備カードはすべて破壊ですよね!?」


「そ、そんなばかな~~~」


酸の嵐がフィールドに吹き荒れ、玉ネギの戦士が身に着けていた鎧や剣が見る見る溶けて消えていく。




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《オニオン・ナイト》 

攻撃力900→100

防御力500→100

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装備が消えるにしたがって、強化を重ねて高められていたそのステータスが見る見るうちに元に戻ってしまった。


そして、後に残ったのは頼りなさそうな手足の生えた玉ネギだけだった。


「さあ、《ドロシー》《ウンディーネ》《サラマンドラ》の"同時攻撃"です!!」


「ちょっ、ま!!」



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《見習い魔女 ドロシー》

《水面のウンディーネ》

《炎渦のサラマンドラ》  合計攻撃力300 


        VS


《オニオン・ナイト》      防御力100

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〈木場 亮〉Lp 200→0

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精霊たちの一斉攻撃が決まり、玉ネギの戦士ごと木場は吹き飛ばされた。


それは、見事な逆転負けであった。


「とまあ、いっつも詰めが甘くてすぐ逆転されちゃうんだよね」


「なるほど、装備カードの破壊対策をしてないんですのね…」


装備カードで強化する戦術の最大の弱点、それは装備カードが破壊された時の損害が大きすぎるということだ。


そのため、普通は装備カードを軸にしたデッキを組む場合には、その対策をしておくのが常だ。


「有利な時のことしか考えない、それが木場の悪いところなんだよなぁ」


呆れたように肩をすくめる新地を見ながら、巻宮は七不思議の正体を知った。


「…まあ、それはともかく。新地様は玉希さんのことをどう思われますか?」


「?…どうって?」


巻宮のヤブから棒な質問に、新地は聞き返す。


「も、もちろん、クロユニの実力についてですわ」


何故だが顔を背けつつも、巻宮はハッキリと答えた。


新地は顎に手を当て少し考える。


視線の先には勝利を喜ぶ晴香に抱きつかれ、はにかんだ様な笑顔を浮かべる望美がいた。


その光景から受ける印象は、どこにでもいる大人しそうな女の子というものだ。


だが、新地はそうではない彼女の姿を知っていた。


「そうだなぁ、……実力とは違うけど、どんな逆境にも立ち向かえる強い子…かな」


「…確かに、その意見はわたくしも同意ですわね」


巻宮の脳裏に浮かぶのは絶対的強敵と相対してもなお立ち向かう、決意に満ちた望美の顔。


カッコいい、彼女のもう1つの姿だった。


「そう、……本当に強い」


そうつぶやく新地が思い出すのは、望美が佐神に立ち塞がり自ら勝負を挑む場面。


そして同時に思い出すのは、勝負から逃げてただ固まっていただけの自分の姿だ。


―――何故おれは、あの時自分から動かなかったのか…。


新地は自分の手のひらが痛くなるほどに拳を握りしめる。


心を埋め尽くすのは後悔の感情だ。


「あ、あの…」


考え込んでしまった新地に、巻宮がオズオズと声をかける。


「…?」


何だろうと向き直る新地に、巻宮は意を決して言った。


「わ、ワタクシの、デッキ構築をお手伝いしていただけませんか!!」


それは巻宮が昨日から考えていたことだった。


かつての弱い自分との決別するためにやろうと、やるべきだと思ったのだ。


「うん、いいよ。じゃあどんなデッキにしたいかから聞こうか!!」


クロユニ大好き少年である新地は、にわかに元気になっていい笑顔でそう言った。





● ● ● ● ●





「で、ミヤミヤはクニッチから何を教えてもらってたのですかねぇー?」


放課後の下駄箱で、晴香がニヤニヤしながら巻宮にそう言った。


「ベ、別に、ただデッキ構築の相談をしていただけですわ!!」


巻宮はそれ以上詳細を語るつもりはない、とでもいう様に顔を背けてむくれてしまう。


「あれ?雅美ちゃん、デッキ変えちゃうの?いいデッキだったと思うけど…」


『実際、マスター負ける寸前でしたもんねぇ』


望美の質問にドロシーがチャチャを入れるが、それは当然無視した。


しばしの間をおいて、巻宮は静かに答える。


「…そう言ってもらえるのは嬉しいですが、自分の力不足はワタクシ自身が誰よりも分かっていましてよ。望美さんの友人として恥ずかしくない強さを手に入れたいと思ったまでですわ」


そう言いながら、少し顔を赤くする巻宮であった。


「え?いや、雅美ちゃんは元々弱くなんか―――」


「とか何とかいっちゃてぇ、クニッチに話しかけるチャンス狙ってただけじゃないのぉ?」


望美の言葉を遮るように、晴香がさも面白そうにそう言って巻宮をちゃかす。


「だから、そんなんじゃありませんってば!!しつこいですわよ、晴香さん」


巻宮が頬を膨らませて憤慨するが、晴香は口撃の手を休めず野次馬的に言葉をつづける。


校門までの道すがら、望美はそんな2人のギャーギャーとしたやり取りを眺めていた。


「…!?」


しかし、その微笑ましい光景はすぐに終わることとなった。


なぜなら校門の真ん中に、1人の男が立っていたからだ。


進路をふさがれた望美達3人は足を止め、立ち塞がっていた男"佐神 魁"に相対した。


「ちょっと、邪魔なんですけど?」


不機嫌そうに晴香がそう言葉を投げるが、佐神はそれを無視してその鋭い視線を望美の方へ向ける。


「まさか、お前がヤツと同じ学校とはな…」


ため息の後にそう言うと、有無を言わさぬ口調でこう続けた。


「アイツが、"新地あらち邦人くにと"がどこにいるか知っているか?」


突然の展開についていけない望美は困惑し返答が出来なかった。


代わりに口を開いてくれたのは巻宮だった。


「あらあら、人にものを訪ねる時にはそれなりの態度というものがなくって?」


だが、佐神は巻宮を無視して、ただ望美の方だけを睨み同じ言葉を繰り返す。


「もう1度言う、新地邦人は何処にいる?今日はヤツに用がある」


当然、望美は彼が今何処にいるのかは知らないため、この質問に答えることはできなかった。


ただ、睨み続けられたまま困惑するだけだ。


それにしても、と望美は佐神の様子に少し違和感を覚える。


会ったのはたった1度、だがその時と明らかに佐神から受ける印象が違うように思ったのだ。


今日の彼はそう、なんと言うか……余裕がない、そういう感じだった。


「……もういい。自分で探す」


しばらくして黙ったままの望美に見切りをつけ、佐神は視線を外すとその場を去ろうとする。


と、その時、望美達の後方から1人の少年が姿を現した。


「やあ、佐神。おれに何の用かい?」


件の探し人、"新地 邦人"がそこにいた。


「…!?……くくく、探す手間が省けたぜ!!」


突然の登場に虚を突かれた佐神だったが、次の瞬間には望んでいた展開に歓喜し、そして宣言した。




「勝負だ、"新地 邦人"!!そして、俺の強さをここで証明してやる!!」




「……わかった。その挑戦、受けてやる」


新地のその答えに佐神は待望のおもちゃを手に入れた子供の様に心底嬉しそうに笑った。


「ようやく戦う気になってくれて嬉しいぜ、臆病者のマスタークラス様」


「ああ、この前までのおれとは違う。もう逃げない!!」


意を決した表情で答える新地。


「ええっと、これは一体……」


『カヤの外って奴だね、これは…』


戸惑ったような望美の呟きにドロシーも言葉をつづけた。


展開に置いてかれた望美達は、ただただ困惑することしか出来なかった。



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