第3話 勝者と敗者
3話ー1章 グループ
夜遅く、明りもついていない暗い部屋の中にその少年はいた。
鋭い目をしたその少年の名は
カーテンの隙間から僅かにもれる月の光以外に明りのない部屋の中で、佐神は何もない虚空に向かって1人椅子に座っていた。
不意に周りの空間にノイズが走る。
次の瞬間、佐神の前に椅子に座った3人の少年達の姿がニューロビジョンによって現れた。
1人はフードを被った小学生ほどの小さな少年。
1人は長髪を後ろで束ね、木刀を肩にかけた和服姿の少年。
最後の1人は黒の学生服を襟まできっちり止めた無個性な短髪の少年。
彼ら3人は、一見共通点が見当たらなかった。
円を描くように配置された椅子に座る彼らは、参加者が揃ったことを確認するように互いをいちべつする。
僅かな間の後、最初に口を開いたのは佐神だった。
「で、今日の議題は何なんです?急な連絡でしたが」
「あれれ~、とぼけちゃって~。佐神兄ちゃんもホントは分かってるくせに~」
佐神から見て右側に座る小さな少年がニヤニヤとしながらそう言った。
「そうだな、キサマも身に覚えがあるはずだ」
佐神の左側に座る和服姿の少年がそう続けた。
2人の指摘が図星だったのか、佐神は押し黙る。
誰もそれ以上発言せず、その場が静寂に包まれた。
いや、完全な静寂ではなかった。
カチリカチリ、という軽い音がその場に響いている。
佐神の正面に座る学生服の少年が3人の様子に目もくれず、淡々とその手に持ったルービックキューブを回していた。
それは奇妙なルービックキューブだった。
1回動かすごとにその各ブロックの色が変化しているのだ。
"ニューロキュービック"。
ニューロビジョンを使ったそれは、遊ぶたびに変わる変化の規則性も解き明かすことも要求される難易度の高いパズルとして、一部で流行っている物だ。
静寂の中、学生服の少年は暫らくそれを続けていた。
が、ふとその手を止め、
「佐神君、初心者に負けたんだってね」
と、ポツリと言った。
「……っ!!」
みな無言、だが明らかにその場に緊張が走った。
その学生服の少年の言葉はそれだけ重いものだった。
佐神は少しためらった後、口を開く。
「い、いや、あれはたまたま……。というか、あの"オズ"さえ持ってなければ初心者なんかに…」
「強力なレアカード1枚を手に入れた所で、初心者は初心者じゃないかな?」
違うかな?、とでもいう様に学生服の少年は微笑む。
その笑顔に佐神は言いようのない恐怖を感じた。
「そ、それはそうですがカードゲームである以上は、」
「……ねぇ、」
佐神の言い訳じみた言葉を遮るように、学生服の少年は淡々と続ける。
「佐神君ってほんとは弱いのかな?」
「!?」
さらりと放たれたその一言に、佐神は足元が崩れ去るような感覚を覚える。
「佐神兄ちゃんの今のランクはゴールド17位とかだっけ?情けないな~、仮にもチーム・ペンタグラムの幹部がさぁ」
顔色を悪くした佐神に追い打ちを掛ける様に、小さな少年がそう続けた。
「………今は12位だ」
「低ランクを狩って、無理やり上げただけであろう?」
佐神の反論は、和服姿の少年によって一瞬で切って捨てられた。
「やれやれ、我らマスターランクの席を奪うと息巻いていた男とは思えんな」
呆れたように続けられた言葉に、佐神は拳を握る。
……だが、反論の言葉はなかった。
「まあまあ、2人とも言いすぎだよ。例の初心者の子がすごく強かっただけって可能性もあるからね」
だからさ、と学生服の少年は続ける。
「僕は佐神君が強いってことを証明して欲しいなぁ、ってそう思うんだ」
そう言うと、学生服の少年は笑顔を浮かべて1つの画像を表示した。
そこに映っていたのはメガネをかけた少年、"新地 邦人"の姿だった。
● ● ● ● ● ●
「ノゾミン眠そうだねぇ、大丈夫?」
お昼休み、教室でお弁当を食べながら大きなアクビする望美を見て晴香が心配そうに聞いてくれる。
「ん~、昨日は遅くまでカードいじってたんだよね」
口に手を当て続くアクビを押さえながら、望美はそう答える。
昨日の巻宮との戦いの後、自分の力で強くなりたいと思った望美は、家に帰ってからドロシーの特訓を受けていたのだ。
『いやぁ、マスターって思った以上に物覚えが悪くて…。気が付いたらすごい時間になってたもんね』
ドロシーの言う通り、夢中でやっている内に気が付いたら夜更かししてしまっていたというわけだった。
ちなみに、今日の朝ご飯当番を寝坊してしまい、妹の未菜にこってりとしぼられたのは内緒だ。
「あらあら、夜更かしは美容の大敵でしてよ。わたくしはいつも9時過ぎには寝ていますわ」
ホホホ、と笑いながら巻宮はそう言った。
手を口に添えて胸をそらし、縦ロールの髪を揺らしながら心底楽しそうに彼女は笑う。
「いやいや、それはミヤミヤが早すぎでしょ、小学生?」
「あ、アナタたちが不健康すぎるだけですわ!!」
晴香のツッコミに頬を膨らませて反論する巻宮。
面白がって意地悪そうな顔で笑う晴香。
寝ぼけ眼でそんな光景を見ながら、望美は少しうれしくなった。
争っていた相手と昨日の今日でこんなに仲良くなれるなんて、そう思った。
望美は昨日まで巻宮に少し近づきがたい雰囲気を感じていたが、今日はそんな印象は全くなくなっていた。
お弁当の最中のそんな微笑ましい1コマを望美はしばらくボーっと眺めていた。
が、ふと今の光景に少し違和感を感じた。
しばらくして、望美はその理由に思い至った。
「あれ…?巻宮さん、今日は制服なんだね?」
そうなのだ、昨日まではあんなに目立つひらひらの黒ドレスだった彼女の服が、自分達と同じ制服に変っていたのだ。
「ええっ!!今更っ!!」
晴香が驚くのも無理はなかった。
彼女の変化はすでに学校中の噂になっていたのだ。
生徒達のSNSのタイムラインでも、今日はその話でもちきりになっていた。
気づかなかったのは、今日1日夢うつつだった望美ぐらいなものである。
「ま、まあ、何となくですわよなんとなく…。と、特に意味はありませんわっ!!」
早口にそう答える巻宮の顔は、何故か少し赤くなっていた。
「というか、その巻宮さんってのはちょっと他人行儀でなくって…?ほ、ほら、その友達ならそれなりの呼び方があるというかなんと言うか…」
巻宮のその言葉は、最後の方はゴニョゴニョと聞き取れなかったが望美はその言わんとすることは理解した。
「あっ、そ…そうだよね…。ごめんね、雅美ちゃん」
「……っ!!」
望美の言葉を聞いた雅美はうつむき黙ってしまった。
「?」
予想外のリアクションの薄さに望美が戸惑っていると、晴香が手を叩きながら2人に声をかける。
「さてさてお2人さん、そろそろ屋上行こうよ」
「っ!?屋上!!…つまり、新地様たちの所へ行くのですね!!」
呆れた様な晴香の提案に、顔を上げた雅美は満面の笑みを浮かべて喰いついた。
コロコロと表情の変わる忙しい子だなぁ、っと望美は微笑ましく感じる。
彼女のペースにあてられたのか、いつの間にか望美の眠気は少し飛んでいた。
「うん!!じゃあ、みんなで行こう!!」
望美はそう言って、晴香に笑顔で同意した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます