2話ー6章 仲間の力







----------------------《6ターン目》----------------------


  〈玉希 望美〉●   〈巻宮 雅美〉

  ドロシー Lv1    大地の魔女 Lv2


   Lp   1000    Lp  500

   魔力  0→4    魔力  2

   手札  1→2    手札  4


-----------------------------------------------------------------


---------------------《フィールド》-----------------------

〈玉希 望美〉 

ドロシー Lv1/100/100

《疾風のシルフィード》Lv1/攻0/防100


〈巻宮 雅美〉

大地の魔女 Lv2/100/200

《不滅のクレイ・ゴーレム》Lv5/攻700/防400

《大地の結界》永続スペル

-------------------------------------------------------------------




望美は決意と共にカードをドローし、1枚の手札を掴む。


「わたしは《緊急召喚門》を詠唱!!デッキの上から3枚を見て、その中のユニットを可能な限り召喚します!!」




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《緊急召喚門》

Lv0 通常スペル

●:自分のデッキを上から3枚確認する。

その中のLv4以下のユニットを可能な限り召喚する。

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カードの輝きと共に、望美の前に3枚のカードが現れる。


ユニット《魔導剣の使い手 ソラ》Lv1、《フォーチュン・フェアリー》Lv2、そしてスペル《アシッド・ストーム》 。


スペルカードはデッキに戻るが、残りの2体がフィールドに召喚されることとなる。


地面にひと際大きな魔方陣が描かれ、それが輝くと同時に2体のユニットがそこから飛び出してきた。


1体目は少年剣士。望美よりさらに背の低いその小さな少年は、刀身が光のオーラでできた剣を構えている。


2体目は妖精。手の平サイズの淡く光る妖精が、その小さな羽根で宙に舞う。


よし、これなら。と望美は思う。


前のターンからフィールドにいる《シルフィード》と合わせてユニットは3体。


相手の《ゴーレム》はいくら強いと言ってもたった1体、突破するのにどうしても時間がかかるはずだった。


望美は逆転の機会をゆっくり待とう、そう思いながらターンの終了を宣言した。


…………だがしかし、巻宮はそんな考えを見透かしたように笑う。


「アナタの考え、甘々でしてよ。次のターンで現実をお見せして差し上げますわ」


そう言い放ち、自らのターンの開始宣言と共にドローを行った。






---------------《7ターン目》---------------


  〈玉希 望美〉    〈巻宮 雅美〉●

  ドロシー Lv1     大地の魔女 Lv2


   Lp   1000     Lp  500

   魔力  1       魔力  2→5→4

   手札  1       手札  4→5


------------------------------------------------


---------------------《フィールド》-----------------------

〈玉希 望美〉 

ドロシー Lv1/100/100

《疾風のシルフィード》Lv1/攻0/防100

《魔導剣の使い手 ソラ》Lv1/攻100/防100

《フォーチュン・フェアリー》Lv2/攻0/防100


〈巻宮 雅美〉

大地の魔女 Lv2/100/200

《不滅のクレイ・ゴーレム》Lv5/攻500/防400

《大地の結界》永続スペル 

-------------------------------------------------------------------






望美は、先程の発言から巻宮が何か仕掛けてくると悟り身構える。


もちろん、今の望美に対抗手段はない。


ただ、どんな展開にも耐えられるように、奥歯をかんで覚悟を決めた。


そんな望美の様子に傍らにいるドロシーだけが気がつき、微笑む。


前回の時とは明らかに違う、その成長に。


離れて対峙する巻宮は、当然そんな望美の微妙な表情の変化には気が付かない。


宣言通り現実を叩きつけるべく、手札から使用するカードを掴み取った。


「ワタクシは装備アイテム《巨人の大鎚》、そしてスペル《パワー・クエイク》を使いますわ」


《ゴーレム》の右腕に巨大な鉄製のハンマーが現れ、そしてその周囲を淡いオーラが覆う。


「《巨人の大鎚》の効果で攻撃力が200アップし、さらに《パワー・クエイク》の効果で《ゴーレム》は全体攻撃が可能になりますのよ!!」




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《不滅のクレイ・ゴーレム》

攻撃力500→700 +全体攻撃能力

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「当然、このターンも《大地の魔女》の効果は使用します。タイプ地の《大鎚》が増えたことで、上昇値はさらにアップですわ!! 」


再び《大地の魔女》が杖を振るい、《ゴーレム》がさらに大きな光に包まれる。


ただでさえ大きく強化されている《ゴーレム》の攻撃力がさらに上昇していく。




-------------------------------------------------------------------

《不滅のクレイ・ゴーレム》攻撃力700→1000

-------------------------------------------------------------------




「…………攻撃力1000!?」


後方の晴香が震える声でつぶやく。


望美も声こそ上げなかったが、その数値に絶望を覚えた。


前回戦ったあの目と爪の化け物、《絶望の化身》をも上回るその攻撃力に。


そして、巻宮の攻撃宣言と共にその大鎚が振り下ろされた。


衝撃!!!


その一撃はフィールドの中央、その地面に振り下ろされ、そこに大穴を穿ち大地を揺らした。


その強すぎるエネルギーに大地が割れ、浮き、波となって周囲を襲う。


まるで津波のように押し寄せる地割れの波に、望美のユニット達は飲み込まれ、消える。


もちろん、全てはニューロビジョン上の映像だ。


だが、あまりにリアルなその地割れの波は、実際の振動を感じたように錯覚させるに十分だった。


望美と晴香はとても立っていられず、地面に座り込んでしまった。


一瞬で空にされてしまったフィールドを晴香は呆然と眺める。


だが、望美はこれで終わりではないことに気が付いた。


自分の体の上に、大きな影が被さっていたのだ。


上を見上げた望美の目に映ったのは、落下してくる大きな地面の欠片。


それは、先ほど抉られ宙に舞った物の1つだった。


「《巨人の大鎚》を使った攻撃で破壊したことにより、1体につき300、合計900のダメージをアナタに与えますわ!!」


巻宮の宣言と共に、その大きな土の塊が望美を上から押しつぶした。



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〈玉希 望美〉Lp 1000→100

--------------------------------------------



「………のぞ…みん……?」


友人が土の塊に押し潰されるのを目撃した晴香は、呆然とそうつぶやいた。


もちろん、これもニューロビジョンの映像だということは分かっていた。


それでも、あまりにショッキングな事態に、恐怖や不安を感じずにはいられなかったのだ。


当然、望美本人の衝撃はそれ以上だったに違いなかった。


やがて、ゆっくりとその土の塊の映像は消え、望美の姿がそこに現れた。


――――――望美は立ち上がっていた。


もちろん、恐怖を感じなかったわけではない、絶望しなかったわけではない。


グッと奥歯をかみしめ、涙をこらえるような表情がそれを物語っていた。


でも、それでも、彼女はそこに立っていた、立ち上がっていたのだ。


そんな望美の姿に晴香は驚いた。


短い付き合いではあるが、晴香は彼女に対してもっと打たれ弱そうな印象を持っていたからだ。


こんなに強い一面を持っていることを初めて知った。


その時ふと………カッコいいなぁ、そう思った。


対峙している巻宮もまた、そんな望美の姿に感心していた。


運良く超レアカードを手に入れてその力でブロンズランク上位になれただけ、分不相応に新地に気に入られた初心者、それが巻宮が望美に対して抱いていた印象だった。


だから、自分が弱いという現実を思い知らせれば心が折れるに違いない、そう思っていた。


でも、目の前で立ち上がるその初心者は、自らを奮い立たせて巨人に立ち向かわんとするその少女は、そんなことはとっくに自覚しているように見えた。


「………その根性だけは認めて差し上げますわ」


巻宮は呟き、続けてターン終了を宣言した。






----------------------《8ターン目》----------------------


  〈玉希 望美〉●   〈巻宮 雅美〉

  ドロシー Lv1    大地の魔女 Lv2


   Lp   100     Lp  500

   魔力  1→5    魔力  0

   手札  1→2    手札  3


-----------------------------------------------------------------


---------------------《フィールド》-----------------------

〈玉希 望美〉 

ドロシー Lv1/100/100


〈巻宮 雅美〉

大地の魔女 Lv2/100/200

《不滅のクレイ・ゴーレム》 Lv5/攻1000/防400

《巨人の大鎚》装備アイテム

《大地の結界》永続スペル  

-------------------------------------------------------------------






「わたしのターン!!」


宣言と共に、望美は気力を振り絞ってカードをドローした。


ドローしたカードは、――――Lv1ユニットの《水面のウンディーネ》。


水を操る精霊の少女で、攻撃力は僅か100。


巻宮の操る《ゴーレム》の防御力400には届かない。


ただこのまま召喚しても次のターンで《巨人の大鎚》の効果でダメージを受けて敗北してしまうだろう。


やっぱり、わたし自身の力なんかじゃ勝てないのかな、そう思った―――その時、


傍らで見守っていてくれた魔法使いの少女が望美の手を握るようにそっと手を重ね、言った。


『………大丈夫だよ、マスター。落ち着いて、できることや知ってることを1つ1つ確認して』


ねっ、とドロシーは優しく微笑んでウィンクする。


(わたしの………できること、知ってること………)


初めてクロユニを知ったあの日に新地さん達から聞いた基本的なルール、前回の戦いで学んだこと、1つ1つを思い出していく。


そして、昨日新地さん達に教わったこと。


―――――――――――――――あ、そうか。


望美は思い出した、昨日教わった"同時攻撃"のことを。


今回の勝負でも、2ターン目にも指摘されたことを思い出す。


もう1度、ドローした《水面のウンディーネ》に視線を移し、その効果を確認する。


そしてこれまでの試合の流れを思い出していく。


やがて、望美は1つの作戦を思いついた。


……これ、いけるのかな?


少し不安になりドロシーの顔を見ると、思いついたことを察してくれたのかそっと頷いてくれる。


よしっ、と心で自分にかつを入れ、その作戦を実行に移すことを決める。


先程ドローしたカードを掴み宣言する。


「わたしは、《水面のウンディーネ》を召喚します!!」


フィールドに魔方陣が現れ、あふれる水と共に白いドレス姿の精霊が姿を現した。


「さらに《ウンディーネ》の効果、【異界からの召喚】!!捨て山からレベル1以下のユニットを召喚します!!」


宣言と共に目の前に捨て山のユニット一覧が現れ、望美はその中から《魔導剣の使い手 ソラ》を選択する。


するとフィールドに水たまりが現れ、その水面にウンディーネが右手を入れて何かを探り当てたかのような動作をする。


次の瞬間、ウンディーネがその右手を引き抜くと、その手に掴まった《ソラ》が水の中から姿を現した。


「加えて《魔導剣の使い手 ソラ》の効果を発動!!魔力を2払って攻撃力を200アップさせます!!」


魔力が補充されたことで《ソラ》が手に持った剣の柄が光を放ち、オーラの刀身がさらに巨大化する。




-------------------------------------------------------------------

《魔導剣の使い手 ソラ》

Lv1/攻撃力100/防御力100

タイプ:光,戦士

●:1ターンに1度、任意の魔力を払う。

このターン、攻撃力は払った魔力×100アップする。

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-------------------------------------------------------------------

〈玉希 望美〉魔力  3→1


《魔導剣の使い手 ソラ》  攻撃力100→300

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「これで、わたしのユニット3体の攻撃力は合計500。《不滅のクレイ・ゴーレム》の防御力400をこえました!!」


その望美の言葉に対し、巻宮は呆れたように言う。


「あらあら、"同時攻撃"は同じタイプのユニットでしか出来ないのをお忘れかしら?《ソラ》は共通するタイプを持ってませんわよ」


巻宮の言う通りだった。


《ドロシー》のタイプは「精霊」と「魔術師」。


《ウンディーネ》 は「水」と「精霊」で精霊が共通している。


しかし、《ソラ》の持つタイプは「光」と「戦士」。


タイプが全く異なっている。これでは《ソラ》は同時攻撃に参加できないのだ。


《ドロシー》と《ウンディーネ》だけでは合計攻撃力は200止まり、 これでは《ゴーレム》は倒せない。


でも、―――。


「ここでわたしは《見習い魔女 ドロシー》の効果を発動!!【力の継承】により、《至高の魔術師 オズ》 の効果を手に入れます!! 」


ドロシーの体が一瞬だけ光に包まれ、同時に彼女の服装は《オズ》のそれに似た意匠のローブに変わり、杖もまた同じ物へ変化する。


これで、《ドロシー》は《オズ》の効果を使うことが可能になった。


『正解だよ、マスター♪』



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《至高の魔術師 オズ》

Lv7/攻撃力700/防御力600

タイプ:光,闇,地,水,炎,風,氷,雷,魔術師

●:1度だけ、任意の魔力を払って発動できる。

払った分と同じLvのスペル1枚をデッキから手札に加える。

●:1ターンに1度、自分のユニット1体を選ぶ。

自身の持つタイプ1種をターン終了時まで与える。

-------------------------------------------------------------------



「え、………あ、しまっ―――」


「え、…えっ?」


少し遅れて巻宮も事態に気づいたのか、焦りを見せる。


一方で晴香は展開が飲み込めず、戸惑うだけだった。


「《オズ》から新たに受け継いだ効果を発動します、【力の伝授】!!自身、つまり《ドロシー》の持つタイプを1つ《ソラ》に与えます!!」


それは《オズ》の持つ第2の効果。


自身が持っているタイプを他のユニットに与えるという、属性伝授の能力。


望美の宣言に合わせてドロシーが杖を振るうとその先からキラキラと光が舞い、それが《ソラ》の全身を包む。


これにより、《ソラ》にタイプ「精霊」が加えられた。


つまり、《ドロシー》《ウンディーネ》《ソラ》での"同時攻撃"が可能となったのだ。


その攻撃力の合計は500。《ゴーレム》の破壊が可能となる数値。


「よし、これで―――」


いける!!、そう望美は思った。しかし、


「………………………フフ。……ホーッホッホッホ」


突然、巻宮は笑い出した。堪え切れない、そう言いたいように。


「なるほどなるほど、確かにそうすればワタクシの《ゴーレム》ちゃんを破壊できますわね。………………で、それがなんですの?」


「………………」


「《オズ》なしでも食い下がってきたことには感心いたしますが、そこまでして破壊した所でワタクシが手札を1枚犠牲にすれば、すぐに再生してしまいますわ」


巻宮の言う通りだった。


装備された《大槌》は破壊されるため、次のターンのダメージはなくなり時間稼ぎにはなる。


……ただ、それだけだった。


そこから続ける逆転の手は、今の望美にはなかった。


手札に残されたのはレベル4のスペルカード1枚だけ。それも今は魔力が足りないため使えない。


状況は望美が圧倒的に不利なまま―――。


『それはどうかしらね』


「えっ?」


『さあ、自分を信じてマスター。覚悟を決めて動き始めたなら立ち止まってちゃだめだよ』


………ドロシーの言う通りだった。ここまで来て、攻撃の手を止める理由は何もないのだ。


「バトルステップ、わたしは―――」


その瞬間、予想していなかったことが起こった。


突然、望美のユニット達から淡い光の玉がいくつも放出されだしたのだ。


それらは少しの間、宙を舞っていたかと思うとゆっくりと望美の下へ集まり、その右腕の魔力の腕輪へと吸収されていった。




--------------------------------------------

〈玉希 望美〉魔力  1→4

--------------------------------------------




「え………えっ?」


望美は何が起こったのか、理解できなかった。


もちろん、晴香も巻宮もこの現象を理解できていなかった。


ただ1人。この場で唯一、ドロシーだけが状況を理解していた。


『これは《フォーチュン・フェアリー》 の効果。それにより、精霊カードの数だけ魔力を得ることが出来たのよ』




-------------------------------------------------------------------

《フォーチュン・フェアリー》

Lv2/攻撃力0/防御力100

タイプ:光,精霊

●:自身が破壊された次の自分のバトルステップに発動する。

自分フィールドのタイプ「精霊」ユニットの数だけ自分の魔力を増やす。

-------------------------------------------------------------------




「今の魔力は4。これなら――――」


『たとえ偶然でも、これはマスター自身で考えて、勇気を出して踏み出した一歩の結果だよ!!さあ、胸を張って宣言して!!』


「うんっ!!《ドロシー》《ウンディーネ》《ソラ》で"同時攻撃"。さあ、みんなで攻撃だよ!!」


予想外の展開に戸惑ったものの、ドロシーに励まされた望美は改めて攻撃を宣言する。


《ドロシー》が魔力の塊を放ち、《ウンディーネ》が操る水がそれを覆う。


その水を纏った魔力の塊は《ソラ》の手元に飛び、その手に持ったオーラの剣へ宿る。




-------------------------------------------------------------------

《見習い魔女 ドロシー》

《水面のウンディーネ》

《魔導剣の使い手 ソラ》  合計攻撃力500 


        VS


《不滅のクレイ・ゴーレム》   防御力400

-------------------------------------------------------------------




巨大化し、水を纏ったオーラの刀身を正眼に構えた《ソラ》が地面をける。


対する《ゴーレム》はそれを迎撃すべく、右腕を振り上げた。


しかし、それが振り下ろされるより早く、オーラの剣が一閃。


次の瞬間、切り裂かれた《ゴーレム》の胴体が横に真っ二つになる。


巻宮はその光景を見もせずに、冷静に手札を確認する。


「先ほど言いました通り、再生しておしまいですわっ」


再生の代償とする手札を選ぼうとするその時、それより早く望美が自らの手札を掴む。


「再生はさせない!!この瞬間、レベル4のスペル《巨塔の崩落》 を詠唱!!」




--------------------------------------------

〈玉希 望美〉魔力  4→0

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-------------------------------------------------------------------

《巨塔の崩落》

Lv4 通常スペル

●:戦闘で相手ユニットを破壊した時、

そのLv×100ダメージを相手に与える。

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『その効果で戦闘で破壊されたユニットのレベルの100倍、つまり500ダメージを相手に与えるよ!!』


「…なっ……そっ…あっ…」


予想外の展開に驚愕する巻宮。しかしすぐに次に起こることを理解した。


視線を自分の上へ向けた彼女は、そこに予想通りの光景を見た。


これは前のターンの再現。


破壊されたゴーレムの破片、落下する巨大な土の塊が、巻宮を頭上から押しつぶした。



--------------------------------------------

〈巻宮 雅美〉Lp 500→0

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―――――――――――〈クロス・ユニバース〉「決着」――――――――――


――――――――――――― 勝者 「玉希 望美」  ――――――――――――





ピー、っと試合終了を告げる電子音が辺りに響き、ユニット達と共に巨大な土の塊も霞のように消えていった。





● ● ● ● ● ●





「ほんとにスゴイよ、ノゾミン!!あの状態から勝っちゃうなんて!!」


興奮した晴香に飛びつかれた望美は、頭をなでられたりと揉みくちゃにされる。


「……最後の方は完全に偶然だったけど」


望美は少しはにかんでそう言った。


実際、フォーチュンフェアリーの効果を見落としていたので最後のスペルカードが使えるとは思っていなかった。


ドロシーが促してくれなければ、勝機を逃していたかもしれない。


『マグレだろうと何だろうと、それも含めてマスターの実力ですよ』


と嬉しそうに言ってくれるドロシーに、望美は小さく「ありがとう」と告げる。


お礼を言われるようなことはしていない、とでも言う様にドロシーはそれには答えなかった。


「運も実力のうちって言うから問題ないない」


と言って晴香が肩を叩いて笑う。


……そうだ、これはわたしの…………本当の初勝利なんだ…。


遅れてきた実感、初めての喜び。


望美はそれを噛みしめる様に、逃さない様に、グッと拳を握った。





● ● ● ● ● ●





そんな勝者たちの喧騒から少し離れた場所、そこに少女はひとり座り込んだまま立てずにいた。


「………………ワタクシが負けた…?……始めたばかりの、初心者に…?」


勝負のさなか、ただの初心者じゃないと感じる場面はあった。あの佐神に勝った実績があることも分かってはいる。


だが、ルールも把握しきれてない初心者がそう何度も強者に勝てるほど、このゲームは甘くない。


つまり、玉希望美が規格外に強いのか、あるいは―――巻宮雅美が、弱いのか…。


それを信じたくはなかった。


ゴールドランクに居座れているのは親のコネのおかげだと噂されているのは知っていた。


自分が同格以上との勝負に全く勝てないことも気づいていた。


ゴールドランク最下位で負け続けてもシルバーランクにならないことに不自然さを感じない日がないわけではなかった。


ランキングの基準は公表されていない。


デッキ構築だとか、プレイセンスだとか、そういうハッキリと見えない何かが評価されてこの地位にいる。


そう信じていた。信じ続けていたかった。


このゲームは自分自身が人に誇れる、数少ない自慢だったから。


でも、もう、ごまかし続けることは限界だった。


「…………ワタクシは、………弱い…。…………やっぱり、そうでしたのね…」


意外なことに、涙は出なかった。


心からあふれ出てきたのは悲しみではなく、諦めだった。


顔を覆うのは、自分へ向けられた嘲笑だった。


ずっと目を背けていただけで、とっくに気づいていたものをただ受け入れた。それだけの事だったのだろう。


生意気、大した実力もないのに調子に乗っている、この戦いの前に玉希望美へ投げかけたそんな自分の言葉が思い出される。


「………………どっちが…?……って話ですわね……」


そう言いながら、巻宮は腰につけていた豪華な意匠のカードホルダーを外す。


これを巻くことはもう無いかもしれないですわね、とふと思う。


数少ない誇りは、ただの偽りだったのだから。


ホルダーから手を放そうとしたその時、正面に誰かが立っていることに巻宮は気が付いた。


「…………あら?………敗者を笑いにでも来ましたの…?」


顔を上げた先にいたのは、玉希望美だった。


「…え!?……い、いえ、そんなんじゃなくって。……え、ええっと。……ほら、……あれの事なんだけど………」


「?」


玉希望美のその言葉は、イマイチ歯切れが悪くて要領を得ない。


もじもじとしながら、言葉を探すように視線をさまよわせるばかりだった。


「ほらほら、さっさと言いたいことは言っちゃいなよ!!」


六井晴香に背中を押された玉希望美は一泊置いた後、意を決した表情で言った。


「………か、賭けの事なんですけど!!」


「…賭け?…………ああ、そうでしたわね」


巻宮はようやく思い出す。


勝った方の言うことを1つ聞く、そんな話になっていたんだった。


(さて、どんなことを頼まれるのかしら?)


ワタクシの家のことは知っているはずだし、そうとう無茶なことでも頼まれるかもと身構える。


これまでワタクシに親しくなろうと近づいてきた多くの人達の様に、巻宮の家の力を使いたい、そういう頼みだろうと思った。


しかし、掛けられた言葉は、そのお願いは、巻宮にとって意外なものだった。


「わ、わたしの………カード友達になってください!!」


「………はっ?」


「い、いえ、ほら。わたし転校したばかりで友達少ないし、しかも女の子でカードやってて強い人ってあんまりいないみたいだし……」


………………。


「………………賭けの賞品にしては、ささやかすぎませんこと?」


「………え、……ダ、ダメ…ですか?」


そうは言っていませんわ、と巻宮はようやく腰を上げて立ち上がる。


「…………その程度の事、お安い御用ですわ」


言葉と共に、巻宮は右手を指し出す。


玉希望美はすぐにその手を握り、嬉しそうに笑った。


巻宮は自分が今どんな表情をしているかは分からなかった。


自分が今抱いてる感情を示すのに適当な言葉も見つからなかった。


ただ、こっちを見ながらニヤニヤする六井晴香の表情が何とはなしにカンに障るので睨んでおく。


玉希望美の手のぬくもりを右手に感じながら、巻宮は左手のカードホルダーを少し握り直す。


まだまだこれにはお世話になりそうですわね、そう思った。










【第2話 転校?ゴーレム?お嬢様?  ―――終―――  】 







次回、【第3話 勝者と敗者】 to be cotinued

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