2話ー3章 謎のお嬢様





翌日の朝、昨日と同じように望美は校門の前で立ちすくんでいた。


しかし、今日は不安や緊張のせいというわけではない。


"とても不審な人物"が門の影からこちらを見つめていたからだ。


ジー、っという擬音が現実に聞こえてきそうなほど、その人物は自分を睨んできていた。


体隠して頭隠さず。


髪を縦ロールにした少女が、柱の影からこちらを睨む様子は目立つ事この上なかった。


望美は一目で、彼女が昨日見かけたお嬢様だということが分かった。


なぜなら同じような格好の人物が、この学校にいるとも思えなかったからだ。


『………マスター。あれ、何かの遊び?』


同じくらい不審な格好をしているドロシーが、そう言って不思議そうにお嬢様を見つめている。


当然、望美には答える事は出来なかった。


話しかけてくるわけでもなさそうなため、おそるおそる門を抜け校舎へ向かう。


背中に刺さる視線、そして周囲の生徒達のささやき声に居心地の悪さを感じながら先を急いだ。





● ● ● ● ● ●





「巻宮のお嬢様に目を付けられるなんて、ノゾミンも大変だねぇ」


ホームルームの後、先程のことを晴香に説明すると、彼女はそう言って面白そうに笑った。


その視線は廊下側の窓、その隙間から覗き見ている例のお嬢様に向いている。


気づかれていないつもりなのだろうが、格好が恰好なだけにバレバレである。


「…………巻宮さんって、どういう子なの?」


後をつけてまで睨まれるようなことをした覚えもなく、困惑する望美である。


「名前は巻宮まきみや 雅美みやび、わたし達と同じ2年生で…B組だったかな?ただ、―――」


私も詳しい訳じゃないんだけど、と前置きして晴香は続ける。


「……まあ、見てわかる通り変わった子なんだよねぇ。制服も着てないし、高級車で校門前に乗り付けるし。1年生の時の"純金の彫刻"事件はすごかったなぁ…」


最後のワードが凄く気になるが、望美はずっと聞きたかった部分をまず質問した。


「あの子、制服着てないけど大丈夫なのかな?」


当然の疑問に、肩をすくめて晴香は答える。


「親御さんが黒須グループの超大物だし、特別免除でもされてるんじゃない?」


超巨大コングロマリット"黒須グループ"。


この黒須市はその本拠地にして城下町とまで呼ばれているのは望美でも知っていた。


しかし、まさかVIPの子供ってだけで市立中学校の校則を捻じ曲げられるレベルだなんて……。


「まあ、それはただの噂だけど。実際、先生方は誰も何も言わないんだよねぇ…」


そう言って頬杖をついて呆れたよう晴香は言う。


しかし、話を聞いて余計に望美は睨まれる理由が分からなくなった。


正直、彼女が自分なんかとは遥か遠い場所にいる存在のように思えたからだ。


「ああ、多分それは簡単な話なんじゃないかな?」


晴香は事も無げに言った。


「あの子もクロユニの"上位ランカー"だからね」





● ● ● ● ● ●








――― 巻宮 雅美  ゴールドランク407位/407人中 ―――





「ゴールドかぁ、スゴイ子なんだ…」


お昼休み、机をくっつけてお弁当を食べながら、晴香と望美は例のランキングサイトを見ていた。


望美の素直な反応に、晴香は微妙な表情で答える。


「それはどうかなぁ。あの子ずっーとゴールドランクから下がらないんだよねぇ。結構負けてるはずなんだけど…」


「……えっと…それって……」


ズルってこと?、という言葉を望美は続けることは出来なかった。


ただの憶測で言っていいことだと思わなかったから。


「ランキングの算出方法は公表されてないし、噂の域は出ないけどね」


ただ、と晴香は続ける。


「制服の件とか考えると、ね。本人が望んだかはともかく、黒須グループそのものから優遇されてるんじゃないかって噂が―――」


なんだか嫌だな、と望美は思った。


本人が望んでもいない(?)のに、まるでズルをしているよう。


………………………………。


………それは自分も同じことか、と望美は気づく。


視界に映るのは、隣で浮かぶ魔法少女の姿。


この間だって、彼女の助言のおかげで勝ったようなものだ。


人のことは言えない、そう思った。思ってしまった。


「――――ミン?……ノゾミン?………今日は屋上行くのやめとく?」


望美はようやく晴香が呼ぶ声に気づいた。


考え込んでいたため気づかなかったが、昨日と同じように新地達に会いに行こうと提案してくれたようだった。


「ううん、行くよ」


先程のモヤモヤは取りあえず保留して、望美は笑顔で応えた。






● ● ● ● ● ●






「……………………何か用?」


屋上へ続く階段、その中ほどで望美たちは足を止めた。


その先に例のお嬢様、巻宮が立ち塞がっていたのだ。


明らかに2人の邪魔をするように立つ彼女に、晴香が少しキツめに言ったのも無理からぬことだろう。


そして、少しの間を置いて巻宮は口を開く。


「玉希望美さん……でしたかしら?」


「は、はい」


鋭い視線と共に投げられた言葉に、望美は少したじろぎながら答える。


巻宮は目を細め、きぜんとした表情で、言った。


「あなた、私と勝負しなさい!!」


それは、宣戦布告だった。




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