2話ー2章 転校と再会




「――――、よろしくお願いします。」


そう言って、望美はペコリと頭を下げた。


自己紹介というものは何回やっても難しい。


宙に浮かぶ幽霊みたいな存在が横から口をはさんでくるとなればなおさらだった。


教室中から突き刺さる好奇の視線にさらされながら、望美は指定された席へと座る。


2年A組の窓側の1番うしろ、そこが今日から望美の指定席になった。


転校生である望美の自己紹介の後、いくつかの連絡事項を伝えると先生は教室を出て行った。


ホームルームの終了と共に、何人かのクラスメイトが望美の席に集まりだした。


転校初日の洗礼、質問タイムである。


前住んでいた所、学校、やっていた部活、趣味、今住んでいる場所、等々。


その1つ1つに望美は丁寧に答えていく。


ちなみに、部活はやっておらず帰宅部で、趣味は読書だ。


昨日から趣味にカードゲームも加わっていたが、それは言わなかった。


……にも関わらず、何故かこう聞かれてしまった。


「ノゾミンもクロユニやっているんだよね?いつから?」


その質問は正面の席に座るポニーテールの女の子、"六井むつい 晴香はるか"からのものだった。


ちなみに、"ノゾミン"というのは望美のあだ名だ。


自己紹介で前の学校でのあだ名を言ったので、早速使ってくれたのだろう。


だが、聞きなれたあだ名とは逆に、六井がした質問の内容は予想外だった。


「え、ええ…!?………なんでクロユニのことを…!?」


「ほら、昨日公式戦をしたんでしょ?ランキング登録と同時にブロンズランク上位になった子がいるってネットで話題になってたから」


そう言って、六井はネットの画面を宙に表示させると、望美に見えるようにそれを移動してくれる。


いくつもの名前が並ぶランキングらしきその画面に、望美の名前も載っていた。




――― 玉希 望美  ブロンズランク62位/32056人中 ―――




『62位だなんて、マスター凄い!!』


無邪気に喜ぶドロシーの横で、望美の中では喜びよりも驚愕が勝っていた。


3万人の上に自分がいるという事実が、望美は信じられなかったからだ。


たった1回戦っただけなのに?、と思ってしまう。


「クロユニ歴はどのくらい?公式戦してないだけで結構長いんでしょ?」


「………え、……あ…っと………………………昨日から……かな…?」


六井の畳みかけるようなセリフにタジタジになりながらも、望美は何とか言葉を返す。


すると、――――


「え、昨日???……完全な初心者ってこと!?」


予想外の返答に、六井を含む周りのクラスメイト達は言葉を失った。


"あの"佐神に初心者が勝ったという事実に皆驚いたのだ。


「最もマスターランクに近いと噂の人に勝っちゃうなんて凄い!!これはウチの学校に2人目のマスタークラスが現れちゃうんじゃない!?」


さすがにそれは言い過ぎなのでは?、と望美は思う。


しかし、六井の言葉に1つ気になる点があった。


「2人目?……すでに誰かいるんですか?」


その質問に、フッフッフ、と六井は得意げに答える。


「私の友人に1人いるのさ。ノゾミンもお昼休みに会いに行こう!!」





● ● ● ● ● ●





「まさか玉希さんも同じ学校だったなんて、世界は狭いね」


お昼休みの屋上、ベンチに腰掛けた温和そうな眼鏡の少年は会うなりそう言って笑った。


その横に座っているツンツン頭の少年も、よっ、と手を挙げて挨拶してくれた。


六井に案内されて、望美はこの学校で唯一のマスターランクを持つ少年の元を訪れていた。


そう、マスターランク8位"新地あらち 邦人くにと"と再会したのだ。


「………………………知り合いだったの?」


状況がつかめず困惑する六井に、望美は昨日のことを簡単に説明した。


もちろん、隣で浮かんでいる非常識な存在のことは伏せておいた。


「はは~ん、なるほどなるほど。ノゾミンのカードテクニックはクニッチ直伝ってことかな~」


強いはずですな、とひとり納得する六井。


隣で浮いているドロシーが、『違います、わたしのおかげです』と抗議しているがそれは無視する。


「六井さんは、お二人とは長い付き合いなんですか?」


「まあね。元々私とりょうが幼稚園からの腐れ縁で、中1の時にクニッチと同じクラスでって感じかな」


後…、と六井はさらに言葉を続ける。


「私のことは晴香はるかって呼んで、………ノゾミン♪」


はるるんでも可、と言って彼女は優しく笑う。


望美は少しの間うつむいた後、僅かに赤らめた顔を上げ、言った。


「……う、うん。………………分かったよ…………………………晴香」


うんうん、と晴香は満足そうにうなずいた。





● ● ● ● ● ●





「じゃあ、今日は"同時攻撃"について教えようか」


話もひと段落したところで、昨日の入門講座の続きをやることとなった。


望美と晴香もベンチに並んで座り、新地に言われる通りに取り出した自分のカードを見る。




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《至高の魔術師 オズ》

Lv7/攻撃力700/防御力600

タイプ:光,闇,地,水,炎,風,氷,雷,魔術師

●:1度だけ、任意の魔力を払って発動できる。

払った分と同じLvのスペル1枚をデッキから手札に加える。

●:1ターンに1度、自分のユニット1体を選ぶ。

自身の持つタイプ1種をターン終了時まで与える。

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《見習い魔女 ドロシー》

Lv1/攻撃力100/防御力100

タイプ:精霊,魔術師

●:1ターンに1度、自分・相手ターン中に発動できる。

自分の捨て山にある同じタイプのユニット1体を選ぶ。

その効果とタイプをターン終了時まで得る。

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「タイプに関しては昨日教えたよね」


そう……だった気もする…。イマイチ自信のない望美だった。


「で、パートナーの攻撃時に"同時攻撃"を宣言することで、同じタイプのユニットは一緒に攻撃できるんだ」


「つまり、同じ"魔術師"だからドロシーが攻撃する時にオズも"同時攻撃"してくれるってことなんだぜ、すげーだろ!!」


新地の解説に続けて木場が補足してくれる。


が、イマイチ要領がつかめない。


「"同時攻撃?"すると、どうなるんだっけ?」


当然出てきた晴香の疑問に、新地はすぐに答える。


「その攻撃は参加するユニットの"攻撃力の合計値"で攻撃できるのさ」


『つまり、同時攻撃を使えるようになれば"私でも"この間のLv10の化け物だって倒せるようになる、ってことよ』


それはすごい、と望美は感嘆した。


脳裏に浮かぶのは高みから見下ろす恐ろしき化け物の姿。


それをこの隣にいる華奢な魔法使いの少女が倒せてしまうというのか。


望美は改めて自分のデッキのユニット達を確認する。


タイプに"精霊"を持つカードが多いから大抵ドロシーと同時攻撃が可能なようだ。


「オズの効果も同時攻撃とコンボしやすいんだよ。さらに他にも――――」


そうして新地の早口カード講座の始まった。





● ● ● ● ● ●





楽しそうに談笑する4人を、屋上入口のドアの影からこっそりと覗く少女がいた。


縦ロール髪に黒いドレス、学校という場所にいるとは思えない姿の少女が、悔しそうに歯ぎしりをする。


「ワタクシを差し置いて………絶対に、許さない…」


少女の視線の先には、玉希望美の姿があった。




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