1話ー7章 始まりの終わり
「お姉ちゃんに勝ち目はあるの?」
再起する姉の姿を見ながら、未菜は新地達にそう訊ねる。
その問いに対し、新地は暗い顔で答えた。
「正直難しいね……。あるにはあるけど、次で特定のカードを引くしかないよ」
カードの使い方を間違えないことが前提だけどね、と加える。
たった1枚のカードを引き当てた上で初心者の望美がカードを正しく使う、聞くだけでも厳しい条件だった。
それでも……、たとえそうであっても……。
勝って欲しい、未菜はそう願った。
● ● ● ● ● ●
望美の振り上げた手の中にドローカードが現れた。
「………!?このカードは――――」
『マスター、これで勝利条件は揃ったよ』
え?、と聞く間もなくドロシーはさらに言葉を続ける。
『私自身の効果を発動!!【力の継承】により、捨て山の《疾風のシルフィード》 を選択して効果を得る!!』
取りあえず、今はただ言われるとおりに望美はカードを発動する。
それと同時に、ドロシーの体が一瞬だけ光に包まれる。
光が消えると、白色だった少女の服装は風をイメージさせる緑色のドレスに変わっていた。
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《見習い魔女 ドロシー》
Lv1/攻撃力100/防御力100
タイプ:精霊,魔術師
●:1ターンに1度、自分・相手ターン中に発動できる。
自分の捨て山にある同じタイプのユニット1体を選ぶ。
その効果とタイプをターン終了時まで得る。
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《疾風のシルフィード》
Lv1/攻撃力0/防御力100
タイプ:風,精霊
●:捨て山にあるスペルの数だけ、同じタイプのユニット
の召喚に必要な魔力を1度だけ減らす。
このターン、自身は攻撃できない。
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「シルフィードの効果……だと…、まさか…」
佐神は信じられない、とでも言うように呆然と呟く。
新地も木場も同じように驚愕しているのが見える。
『《シルフィード》効果、【風の導き】!!私達の捨て山に存在するスペルカードの数だけ、風タイプユニットの召喚に必要な魔力を減らす!!』
捨て山:《小人の反撃》 《巨塔の崩落》 《アシッド・ストーム》 《解呪》
それらは、先ほど佐神の手によって捨てられたカード達。
その数は、4つ。
つまり、レベル7のユニットであっても使用する魔力3で召喚が可能となる。
『さあ、マスター。そのカードの召喚を!!』
「う、うん。わたしはこのカードを――――」
「―――《至高の魔術師 オズ》を召喚します。」
望美は伝説の超レアカード、《至高の魔術師 オズ》を召喚した。
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〈玉希 望美〉魔力 5→2
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《至高の魔術師 オズ》
Lv7/攻撃力700/防御力600
タイプ:光,闇,地,水,炎,風,氷,雷,魔術師
●:???
●:???
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地面に描かれた複雑模様の魔法陣から白いローブの老魔術師が現れ、七色の杖を正面に構えた。
その杖が指し示すその先、そこには対峙する禍々しき化け物の姿があった。
その巨体に比べれば遥かに小さいはずのその魔術師の背中に、望美は頼もしさを感じた。
「やっちゃえ、お姉ちゃん!!」
「よし、これなら…。玉希さん、行けるよ!!」
「やるじゃねぇか、望美ちゃん!!」
背後から聞こえるのは、歓喜に震える未菜達の声。
そんな二人とは対照的に、対峙する佐神は青ざめ震えた。
「………ば、ばかな…この状況下で……《オズ》を、伝説のカードを…ドローだと…!?」
彼の後ろの二人組は余りに驚いたのか、口を開けたまま動かない。
そんな周りの様子を無視して、ドロシーは望美への指示をさらに続ける。
『《至高の魔術師 オズ》の効果を発動、【魔法の支配者】!!その効果により魔力を1払ってレベル1のスペルをデッキから手札に加える』
言われるとおりにすると、望美の前には何枚かのスペルカードが現れる。
そして、ドロシーはその1つを指し示す。
『さあ、《ミラーマジック》を手札に加えて詠唱よ』
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《ミラーマジック》
Lv1 通常スペル
タイプ:光
●:フィールド・捨て山の相手ユニット1体を選ぶ。
このターン、そのタイプと効果を自分ユニット1体に与える。
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〈玉希 望美〉魔力 2→1→0
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『この効果の対象に選ぶのは、《煉獄剣士 ボルグ》 !!』
手札に加えたそのカードを即座に使うと、《オズ》の背後に巨大な鏡が出現した。
その鏡面がキラリと光ったかと思うと、そこには甲冑の戦士の姿が映し出される。
『さあ、マスター!!攻撃を!!』
「う、うん。《至高の魔術師 オズ》で、《絶望の化身 ウスタウ》を攻撃します!!」
『【究・極・呪・文】!!』
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《至高の魔術師 オズ》攻撃力700
VS
《絶望の化身 ウスタウ》防御力600
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わたし達の攻撃宣言と同時に《オズ》が飛び出した。
迎え撃つ《ウスタウ》はその爪を振り下ろすが、《オズ》はそれをヒラリとかわす
懐に潜り込むと、《オズ》は杖の先に七色の魔力の塊を生み出し放つ。
放たれた魔力の塊は巨大化しながら目標に着弾し、爆発する。
「ばかな、ばかな、ばかなぁぁあぁ」
眼前の光景を拒絶するように叫ぶ佐神。
その絶叫もむなしく、《ウスタウ》の巨体には大穴が開けられ、ゆっくりと崩れ落ちる。
それに追い打ちを掛けるように、ドロシーが宣言する。
『コピーした《煉獄剣士 ボルグ》の効果発動。レベルの100倍のダメージを相手に与える!!』
鏡に映った甲冑の騎士が大剣を構えると、それを正面に投擲する。
すると鏡の中からその大剣が飛び出し、それを《オズ》が掴む。
勢いをそのままに《オズ》はその大剣を振り下ろし、それは質量の暴力となって佐神の眼前に叩きつけられた。
『《ウスタウ》はレベル10!!つまり、そのダメージは1000!!』
突き刺さった大剣に紫電が走り、大地を伝わって佐神を襲う。
無傷のプレイヤーであっても耐えられないほどの放電が佐神を包み、爆発した。
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〈佐神 魁〉 Lp 950→0
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―――――――――― 〈クロス・ユニバース〉「決着」 ――――――――――
―――――――――― 勝者 「玉希 望美」 ――――――――――
それが試合終了の合図だった。
ピー、っと電子音が辺りに響き、魔術師の姿は倒れた化け物の亡骸と共に霞のように消えていった。
● ● ● ● ● ●
「か、勝てた?……お姉ちゃんが、アイツに勝ったの!?」
「ああ、文句なしに望美ちゃんの勝ちだ!!」
半信半疑の未菜の背中を嬉しそうに叩く木場。
「…………………すごい……ほんとにすごいよ、玉希さん…」
そんな二人のやり取りに、新地の呟きは掻き消され、誰にも気づかれることはなかった。
「……ばかな…。負けた?俺が、初心者に??」
崩れ落ちた佐神は放心したように、いつまでもそう繰り返し呟く。
取り巻きの二人はいつの間にか佐神を見捨て、その姿を消していた。
そんな光景を眺めながら、望美はまだ自分の勝利を実感できずにいた。
その手に持った〈自分のデッキ〉を、1番上にある《至高の魔術師 オズ》を見つめる。
脳裏に浮かぶのは駅前広場の光景。1人の女性と美しい天使の姿。
自分と《オズ》の姿をその記憶に重ねる。
しかし、頭を振るとすぐにその妄想を振り払った。
――――流石にちょっと恥ずかしくなってしまったから。
『いいんじゃないです?ちょっとくらいは。自惚れるのは勝者の特権ですよ!!』
「………」
望美は、試合中に保留していた1つの疑問をもう1度ぶつけることにした。
「ところで、あなたはいったい何者なの??」
そう、《見習い魔女 ドロシー》に質問した。
その魔法使いの少女は、試合終了後も当然のようにそこにいた。
【第1話 私、カードゲーム始めました ―――終――― 】
次回、【第2話 転校?ゴーレム?お嬢様?】 to be cotinued
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