1話ー6章 パートナー
「え?…ええ?………カードが?そのキャラが、話しかけてきてる!?」
「何をぶつぶつ独り言を言っている!?俺のターンは終了したぞ」
唯の映像のはずのキャラクターが話しかけてくるという予想外の事態に戸惑う望美に、佐神は怪訝な顔をしながらゲームを進めるように促す。
どうやら、この異常事態に気づいている人は他にはいないようだった。
新地も木場も不思議そうな顔をしているのが見える。
『マスターのターンよ。カードを早くドローして』
「う、うん」
先程まで望美を支配していた恐怖心は、いつの間にか消えていた。
状況はイマイチ飲み込めないが、今は確かにこの勝負に集中するべき時だと望美は気持ちを切り替える。
もろもろの疑問を無視して、自分のターンを開始する。
「ええっと、こうかな?ド、ドロー!!」
先程の佐神の動きを思い出しながら、目の前の何もない空間をつかむ。
すると、その手の中に1枚のカードが現れた。
----------------------《3ターン目》----------------------
〈玉希 望美〉● 〈佐神 魁〉
ドロシー Lv1 闇の召喚者 Lv3
Lp 900 Lp 1000
魔力 3→5 魔力 1
手札 4→5 手札 4
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● ● ● ● ● ●
ターンが往復したことで、望美に魔力が与えられる。
だが、後方で見守る未菜がその量に疑問を感じた。
「あれ?魔力の増え方おかしくない?」
それに対し、新地の解説がすぐに入る。
「ターン開始時に持てる魔力は5が限界だからね。それ以上は消えて無駄になっちゃうんだ」
「さっき相手の魔力が7になったのは一時的にだから可能だったってこと?」
そのとおり、と新地は優秀な生徒に笑顔で答える。
「ところで、さ」
そんな二人の様子を無視して、木場が不安を隠せず言った。
「さっきから望美ちゃん大丈夫か?独りで虚空に話してる気がするんだが…」
「うーん、さっきの一撃がショックすぎたのかなぁ…」
新地も何とも言えないといった顔で答える。
だが、未菜は何かを理解したように姉の様子を見る。
「いや、あれは独り言なんかじゃない。話しかけているんじゃないかな、きっと」
● ● ● ● ● ●
初めてのドローに成功した望美は、すぐにそのカードを確認する。
ドローカード:《小人の反撃》
『よし、まずは手札のサラマンドラちゃんを召喚よ』
「え?こ、このカードを召喚すればいいの??」
話しかけてくるドロシーの言葉に戸惑いながら、望美は言われる通りにする。
「え、えっと。わたしはこの《炎渦のサラマンドラ》を召喚します」
望美の宣言に応え、炎を操る精霊の少女が魔方陣から現れる。
『この瞬間、サラマンドラちゃんの効果発動!!【炎の
「え、え?効果発動???」
展開についていけない望美をよそに、精霊の少女はその手から火球を放つ。
放たれた火球は佐神を包み、そのライフを削った。
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〈佐神 魁〉Lp 1000→950
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---------------------《フィールド》-----------------------
〈玉希 望美〉
ドロシー Lv1/100/100
魔力5→4
《炎渦のサラマンドラ》 Lv1/攻100/防0
〈佐神 魁〉
闇の召喚者 Lv3/0/0
魔力1
《煉獄剣士 ボルグ》 Lv6/攻600/防400
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『サラマンドラちゃんは召喚に成功した時、相手に50ダメージを与えるのよ』
「く、この程度のダメージ。何の影響もない」
そう言って、佐神はイラだたしそうに煙を払う。
「って、言ってるけど?」
諸々の疑問は置いておき、何か考えがありそうなドロシーに望美は話しかける。
『構わないわ、次に使うスペルカードが本番だから』
「スペルカード?」
望美は新地の解説を思い出す。
―――スペルカードは、戦いをサポートする魔法を使うためのカード。そのレベル分の魔力を払うことでいつでも詠唱できる―――
そんな新地の解説が思い出される。
自分の手札に向き合い、ドロシーの言っているスペルカードがどれのことなのかを考えた。
今、手札には4枚のスペルカードがあった。
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《アシッド・ストーム》
Lv3 通常スペル
タイプ:風,水,雷
●:フィールドに存在するアイテム、および
タイプ「機械」ユニットを全て破壊する。
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《巨塔の崩落》
Lv4 通常スペル
●:戦闘で相手ユニットを破壊した時、
そのLv×100ダメージを相手に与える。
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《解呪 -ディスペル- 》
Lv1 通常スペル
●:フィールドの永続・付与スペルを全て破壊する。
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《小人の反撃》
Lv3 通常スペル
●:Lv1以下の攻撃ユニット1体の攻撃力はこのターンの間、
攻撃対象のユニットのLv×100アップする。
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まず、《巨塔の崩落》は違うとすぐに分かった。
どう考えても使うための条件が満たせないからだ。
そもそも、今はその相手のユニットが倒せないから困っているのだ。
《アシッド・ストーム》と《解呪》 、これも違うとすぐに分かった。
破壊できるカードが存在していないため使いようがない。
つまり使うべきは―――――、
「わたしは《炎渦のサラマンドラ》の攻撃に合わせて、《小人の反撃》を詠唱します!! 」
『そう、それで正解よ』
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〈玉希 望美〉魔力 4→1
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《炎渦のサラマンドラ》攻撃力100→700
VS
《煉獄剣士 ボルグ》防御力400
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『《小人の反撃》によって、相手のレベルが高ければ高いだけ、サラマンドラちゃんの攻撃力がアップだよ!!』
炎の精霊の手に巨大な火球が現れる。
青々と燃えるそれは、とてつもない火力だと見るものに感じさせる力強さを持っていた。
おお、っと新地達から声が上がる。
相手の防御力をゆうに超える攻撃力700、これが決まれば甲冑の戦士もひとたまりもなく破壊される。
「と、でも思ったかぁ!!!スペルカード、《闇への恐怖》だ!! 」
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《闇への恐怖》
Lv1 通常スペル
タイプ:闇
●:自分のタイプ「闇」ユニット1体を選ぶ。
このターン、よりLvが低いユニットの攻撃は全て無効になる。
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〈佐神 魁〉魔力 1→0
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「この効果により、《ボルグ》より低レベルな《サラマンドラ》は恐怖にすくみ動けないぜ!!さっきのお前のようになぁ!!」
佐神がスペルを使用すると、それに合わせて甲冑の戦士から暗いオーラが周囲に放たれる。
暗い霧のようなそれに触れた精霊の少女は、途端にその身を震わせ始める。
甲冑の隙間から洩れる鋭い眼光に怯えるように、彼女は肩を抱き身を縮める。
先程まであった巨大な火球は、いつの間にか消えてしまっていた。
「そ、そんな…」
『今できることはもうないわ。ターン終了ね…』
ドロシーが残念そうに言う通り、手札にはもう使えそうなカードはない。
望美は言われた通りにターン終了を宣言した。
---------------------《フィールド》-----------------------
〈玉希 望美〉
ドロシー Lv1/100/100
《炎渦のサラマンドラ》 Lv1/攻100/防0
〈佐神 魁〉
闇の召喚者 Lv3/0/0
《煉獄剣士 ボルグ》 Lv6/攻600/防400
-------------------------------------------------------------------
----------------------《4ターン目》----------------------
〈玉希 望美〉 〈佐神 魁〉●
ドロシー Lv1 闇の召喚者 Lv3
Lp 900 Lp 950
魔力 1 魔力 0→2
手札 3 手札 3→4
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佐神のターンが始まると同時に、望美は身構える。
反撃されれば、1ターン前のように電撃が襲ってくることが容易に予想できた。
しかし、その予想は裏切られることになる。
「俺は《煉獄剣士 ボルグ》を〈リターン〉!!」
佐神の宣言と共に甲冑の剣士は光に包まれ、姿を消す。
後には、赤黒い炎の塊が6つ残っていた。
「〈リターン〉はユニットを放棄する代わりにそのレベル分の魔力を得る方法。5を超える魔力を得る基本的な手段なんだ。」
「さらに、《闇の召喚者》の効果を再び発動!!」
新地の解説に被せるように、佐神は手札を捨てて効果の使用を宣言する。
ガイコツの魔術師の魔導書が輝き、そこから赤黒い炎の塊が新たに5つ現れる。
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〈佐神 魁〉魔力 2→8→13
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「ま、魔力が13も!!」
『来るよ、マスター!!』
とてつもない量の魔力に望美は戦慄し、ドロシーが次の展開に備えて身構える。
そんな相手の様子を嘲笑うかのように、佐神は高笑いと共に手札のカードを1枚選択する。
「さあ現れろ!!腐敗を司る支配者、その爪で全てを塵に還せ!!レベル10!!《絶望の化身 ウスタウ》 」
フィールドに禍々しい魔方陣が描かれ、そこから黒い霧が立ち上る。
それに続いて巨大なカギヅメが姿を現し、地面を掴んでその体を魔方陣の中から引き出す。
見上げるような巨体、複数の目を持つ不気味な容貌、禍々しき姿の化け物がその場に姿を現した。
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〈佐神 魁〉魔力 13→3
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《絶望の化身 ウスタウ》
Lv10/攻撃力900/防御力600
タイプ:闇,炎,悪鬼,神話
●:???
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「な、何なのこいつ!?」
「レベル10《絶望の化身 ウスタウ》。クロユニの中でも10指に入る、超大型モンスターだ…」
「初心者の望美ちゃん相手に出すモンスターじゃねぇぞ!!佐神のヤロー、ほんとに容赦ないな」
後ろの3人は超大型モンスターの登場に戦慄する。
当然、正面で対峙している望美の感じているプレッシャーはその比ではなかった。
「こ、こんな怪物が出てくるなんて…」
それは先程の甲冑の戦士よりもさらに巨体。
上から覗き込まれるような感覚に、望美は恐怖で体がすくんだ。
「さあ、《絶望の化身 ウスタウ》の攻撃だ。くらうがいい、【必殺の接触】!!」
四方を見ていた複数の目が、一斉に望美を見る。
そして、その巨大なカギヅメを天高く上げ、振り下ろす。
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《絶望の化身 ウスタウ》攻撃力900
VS
《炎渦のサラマンドラ》 防御力0
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その能力の差は圧倒的だった。
《炎渦のサラマンドラ》は炎の壁を作って守ろうとするも、そのカギヅメの一撃の前に炎の壁ごとかき消されてしまう。
間髪入れず、もう一方のカギヅメも天に向かって振りかざされる。
「《ウスタウ》の効果発動!!ユニットを破壊した場合、更なる追撃を行う!!」
その宣言と同時に、カギヅメが圧倒的な速度で、ドロシーと望美に向かって振り下ろされた。
鋭い爪が魔法使いの少女の身を打ち、その皮膚を裂く。
同時に望美の身も打ち付けられたような、そんな錯覚を覚えた。
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《絶望の化身 ウスタウ》攻撃力900
VS
《見習い魔女ドロシー》防御力100
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〈玉希 望美〉Lp 900→100
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「パートナーへの直接攻撃ではユニットは破壊されず、防御力分だけプレイヤーへのダメージは軽減される。よかったな、紙一重で耐えれたぞ」
「う、うう」
佐神が愉快そうにそう言うのを聞きながら、望美は縮こまろうとする体を奮い起こし何とか立ち上がる。
だが、立ち上がってはみたものの、もう望美はこの勝負に勝てる気はしなくなっていた。
先程の甲冑の戦士すら倒せなかったのに、どうやったらこんな化け物を倒せるというのだろうか?
………無理だ、そう思った。
勝てるわけなんかなかったのだ、自分なんかが物語の主人公のように成れるわけが…。
勝負に挑もうとする気持ちは、もう燃え尽きようとしていた。
目を伏せ、ただ現状を受け入れようとしていた。
自分の敗北という現実を。
その様子を佐神は嘲笑う。
「無様だな。戦いを挑んだ時の勢いはどこに行ったんだ?」
あの時は思っていた、もしかして私なんかでも、って。
「これで分かっただろ?強力なレアカードを手に入れた所で初心者は初心者でしかない。弱者は強者に負ける、これが当然の結果だ」
そう、なのかな…。わたしはどこまで行っても、わたしでしかないのかな…。
ただ憧れるだけの、そんな
「………」
「……落ち込んでいるところで悪いんだが、更なる絶望のお知らせだ。《ウスタウ》の2つ目の効果によって、お前には俺の魔力の分だけ手札を捨ててもらうぞ」
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《絶望の化身 ウスタウ》
Lv10/攻撃力900/防御力600
タイプ:闇,炎,悪鬼,神話
●:ユニットを戦闘破壊した場合、1度だけ続けて攻撃できる。
●:相手にダメージを与えた時に発動できる。
任意の魔力を払い、相手の手札をその数だけ捨て札にする。
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〈佐神 魁〉魔力 3→0
〈玉希 望美〉手札 3→0
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望美の目の前に浮いていた手札のカード達が、全て黒い霧に飲まれ姿を消す。
だが、その様子すら望美にはもうどうでも良かった。
手札があろうとなかろうと、もうどうしようもないのだから…。
『ここで諦めるの?』
隣からそんな声が聞こえた。
そこには、服や手足の各所に切り傷を付けられて痛々しい姿になりながらも、凛として立つドロシーの姿があった。
その目は、まだ諦めていなかった。
『勝ちたくないの?』
「勝ちたいよ!!でも、もう無理だよ…。今更何をしたって…、っ―――!!」
ドロシーが、望美の正面に立って目を覗き込む。
『無駄なんて誰が決めたの?デッキの分だけ、まだ可能性は眠っているのに?』
望美は自分の腰から下げたデッキホルダーに触れる。
まだ中身を半分も見れていない、自分のデッキ。
今のわたしが持っている「可能性」。
『あきらめるとしても、せめて次のドローをしてからでも遅くないんじゃない?』
…………そう……、なのかもしれない。
望美はゆっくりと顔を上げる。
その目には、光が戻ってきていた。
決意を胸に、最後の希望を掴むために手を振り上げた。
「わたしのターン!!ドロー!!」
----------------------《6ターン目》----------------------
〈玉希 望美〉● 〈佐神 魁〉
ドロシー Lv1 闇の召喚者 Lv3
Lp 100 Lp 950
魔力 1→5 魔力 0
手札 0→1 手札 2
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