1話ー4章 運命の出会い!!




そこは、先程のカードショップの近くにある大型公園。


中央に大きな芝生の広場があり、その周囲に遊具が点在している。


その隅にある大きなベンチに、望美たち4人の姿はあった。


あの後、店の客の一部が自分たちのテーブルで起こったことに気づき出し、ざわつきだしたために場所を移動することとしたのだった。


芸能人でも見るかの様な周囲の反応に、カードに疎い望美でも事の重大さを理解した。


世界に9枚しかない"伝説のレアカード"を手に入れてしまったのだという事実を。


「完全なランダム枠だとは知っていたけど、まさかこんなことがあるなんて…」


「これ、現実だよな?いや、実は夢なのか?俺はまだ布団の中にいるのか?」


あまりに予想外の事態に、新地は呆然とし続けているし、木場に至っては現実を疑い始めていた。


そんな2人を横目に、未菜は《至高の魔術師 オズ》をシゲシゲと眺めていた。


そのイラストには、白色のローブに身に包んだ老魔術師が描かれている。


七色の光を放つ杖を前に構え、年齢を感じさせないその鋭い眼差しはこちらを突き刺すようだ。


「凄いカードだってのは分かったけど、今一ピンとこないなぁ。カッコイイカードとは思うけど……」


未菜のこの意見には、望美も同じ気持ちだった。


まさか私なんかにそんなに凄いことが起こるなんて何かの間違いなんじゃ…、それが本音だ。


………でも、これがそんなに凄いカードだとするのなら――――。


望美の脳裏に浮かぶのは、あの駅前広場の戦い。


戦いの中で輝いていた1人の天使と1人の少女。


私でも、私なんかでも、もしかしたら――――。





● ● ● ● ● ●





「…何はともあれ、初めてのカード入手おめでとう、玉希さん」


気を取り直した新地は、新しいカード仲間に祝福の言葉を送った。


望美は嬉しそうに"自分のデッキ"を見つめる。


同時に、まだ何もしていない、そう自虐する内なる声が少し聞こえた。


だから――――、言った。


「あ、あの。私に、戦い方を教えてください!!……このカードを持つに相応しい、そんな自分になりたい、です!!」


その決意の言葉に、新地と木場は笑顔で答える。


「そうだね、まずはルールからかな?1つずつ覚えていこう」


「よっしゃ、オレ達に任しときな!!」


2人の快諾を受けて、望美は決意を胸に拳を握る。




こうして、"クロス・ユニバース"入門講座〈ルール編〉が始まった。




「まずは、パートナーについてかな?このゲームでは初めにパートナーになるカードを1枚選ぶんだけど――――」





● ● ● ● ● ●





「――――――と、いうわけで。このゲームはユニット・スペル・アイテムの枚数、レベルのバランスが重要なんだ」


そうして、十数分ほどで新地達の解説が終わった。


「な、なんとなく雰囲気は分かりました、かな?」


分かりにくかったかな?、と心配そうにこっちを見る新地に望美はそう答えた。


実際は情報量についていけず、頭から煙をふかしていたのだが…。


せっかく丁寧に説明してもらったのに申し訳なくなる望美だった。


「まあまあ、要は実際にプレイして雰囲気で覚えればいいぜ。正直言うと、オレも正確には把握してないしな!!」


「いやいや、お前は把握しとこうよ。クロユニ歴長いんだから…」


フハハハと笑う木場に、新地は呆れた様にそう言った。


とは言ってもらったものの、今のうちに気になることは聞いて置かないと、と望美は思う。


なので早速、解説されたことで気になることを聞くことにした。


「パートナーでしたっけ?好きなカードを選べるって言っても、わたしのデッキだと何を選べばいいのか…」


そう言ってデッキのカードを眺める望美。


その横から、「例の超レアカードじゃダメなの??」と素朴な疑問を未菜が投げた。


「あー、パートナーはレベルが低いカードの方がいいから《オズ》はちょっと、ね」


そういいながら、新地は1枚のカードを取り出した。


そして、それを望美に渡す。


「………えっ!?」


突然のプレゼントに、望美は目を白黒させる。


「玉希さんのデッキならこのカードが相性いいと思うよ。使ってみて」


そのカードには、可愛らしい魔法使いの少女が描かれていた。


《見習い魔女 ドロシー》、それがそのカードの名前だった。


さすがに貰うのは悪いと思って返そうとしたが、新地は受け取とろうとはしなかった。


「それはレアなカードってわけでもないし、気にしない気にしない」


そう言って微笑む新地。


望美は余りの嬉しさで上手く声が出せなかった。


それでも何とか、小さく「ありがとうございます」と感謝の気持ちを言葉にした。


「望美ちゃん、やったな!!初めはカードが多いに越したことねーし、貰っとけ貰っとけ!!」


木場はそう言って笑い、さらに言葉を続ける。


「じゃあ早速、実際にオレと戦ってみようぜ」


「は、はい。よろしくお願いいた――――






「「おやおや?そこにいるのは、ランキング8位様じゃないですかぁ!?」」






不意に外野から投げつけられた言葉に、会話が妨害された。


いつの間にか、3人の少年達が望美達を囲むように立っていた。


「な、何なのアンタ達!?」


「え、8位って???」


急に表れた不審な少年達に、未菜は戸惑いながらもにらみ返す。


しかし、望美はこの状況以上に気になるワードが相手の口から出たことに驚いた。


ランキング8位?、いったい誰が?


その疑問には、すぐに答えが返ってきた。


「そこの眼鏡のことさ。なぁ、マスタークラス第8位の新地邦人!!」


「………」


3人組の中央にいる背の高い少年のその言葉に、新地は無言で答える。


険悪な雰囲気についていけずにオタオタする望美を置いて、状況は進んでいく。


中央の男はなおも険悪な言葉を続ける。


「なんだ、その目は?8人しかいない最上位クラスの1人である新地様は、俺みたいな低ランクとは口も聞きたくないとでも?」


うつむき答えない新地に代わり、木場が間に割り込む。


「おいおい、てめぇだって1個下のゴールドクラスで1位じゃねぇか。僅差で負けて悔しいからって変な因縁つけに来るなよ!!」


「「万年低ランク野郎は黙ってな!!」」


しかし、両脇の二人に木場はすぐにのけられてしまう。


新地は顔を上げ、眼鏡越しに黙って睨み返す。


少しの間を置いて、ようやく新地はその口を開いた。


「…佐神、言いたいことがあるならハッキリ言ってくれ」


少し怒気のこもったその言葉に、佐神と呼ばれた背の高い少年が「怖い怖い」と言いながら肩をすくめる。


「なあに簡単なことだ。たまたまランクが上なだけで、お前は俺より弱いってことを証明したい、それだけさ」


だから、と佐神は言葉を続ける。


「俺と勝負しな、新地邦人!!」



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