1話ー3章 クロスユニバース入門




4人はまず、お互いに自己紹介をすることにした。


大人しそうな眼鏡の少年は新地あらち 邦人くにと


少しヤンチャそうなツンツン頭の少年が木場こば りょう


2人は望美と同じ14歳で中学2年生とのことだった。


望美たちは経緯を簡単に説明し、カードを教えてもらえないかと改めてお願いした所、彼らは2つ返事で引き受けてくれた。


「…カードに興味を持ってもらえるのは、それだけで嬉しいからね。…そのくらいは喜んで」


とは、新地のセリフだ。


木場もそれに続いて「おうよ」と親指を立てた。


「お二人とも、よろしくお願いします!!」


こうして、講師2名による"クロス・ユニバース"入門講座が始まった。





● ● ● ● ● ●





「よっしゃ、まずはホルダーだな」


〈ホルダーコーナー〉と書かれた場所に来ると、木場はそう言った。


そこに飾ってある商品はどれもベルトに四角い箱が付いたような形状をしていた。


今日何度か見たカードをやっていた人達は、皆これを腰に巻いていた気がする。


しかし、カードゲームに疎い2人にはイマイチ用途が想像できなかった。


「ホルダーって何なの?」


未菜が当然の疑問を口にする。と、新地が答えてくれた。


「正式名は"デッキセットホルダー"。つまりは自分のデッキを入れる物なんだ」


「「・・・デッキ?」」


未菜と望美は、彼女らが普段聞きなれない単語を口にする。


「ああ・・デッキてぇのは、ゲームに使うカードの束のことさ」


そう言いながら木場は、自分の腰に下げているホルダーを指で示した。


言われてみると、ベルトに付いた四角い箱はカード束が綺麗に入りそうな形状だ。


「自分のポシェットじゃダメなんですか?」


望美も当然の疑問を口にする。


持ち運ぶだけなら、わざわざ専用のものである理由がわからなかった。


「いや、ホルダーは必須だよ。だって、これでカードを読み込んでニューロビジョンにするんだから」


望美は新地の言葉に驚き、そして即座に理解した。


駅前広場の試合ではカードは宙に浮いていた。


余りにファンタジーな光景だらけでマヒしていたが、カードが宙に浮くわけがない。


実際のカードはプレイヤーが腰につけていた"ホルダー"に入っていたのだろう。


そう、試合で使われていたカード達は全て、ニューロビジョンだったのだ。


望美達の目には少しオシャレな箱付きベルトにしか見えないが、最新技術の詰まったハイテク商品なのだろう。


「う~ん。どれにしようかなぁ…」


そうと分かればあとは商品選びなのだが、新地達によると性能はどれも変わりないらしい。


つまり、見た目が全てなのだ。


となれば、女の子としては悩むわけで…。


しっかり20分ほどかけて、望美は白と赤を基調とした可愛らしいデザインの物を選んだ。


ちなみに、選び終わるまでつきあわされた少年2人が疲れ切ってしまったのは言うまでもないことであった。







● ● ● ● ● ●








「さて、じゃあ次はカードを買おう」


そう言って案内されたのはお店のカウンターの隣、店の奥行きの半分近くを占めている一帯だった。


そこには様々な絵柄の書かれた箱や袋が沢山陳列されている。


「色々あるんですね」


「多すぎてメマイがしそうなんだけど……」


望美と未菜はその光景に対し、思い思いの感想を口にした。


「だよなぁ、これは」


木場は2人の様子に同意して、うんうんと頷く。


一方で新地は、


「"クロユニ"販売開始から3年、構築済み20種、ブースターは第10弾まで出てて総種類数は1000を超えて―――」


といった感じで、眼鏡を光らせながら早口で補足情報を話し始める。


が、情報が多すぎて望美は途中までしか頭に入ってこなかった。


ただ、熱のこもった口調や輝かせた瞳から、このゲームが好きという気持ちは伝わってきた。


話が止まらない新地を無視して、木場がいくつかの箱を手に取って2人に見せた。


「こいつは買ってそのまま遊べる構築済みデッキって商品だぜ。初心者なら、この辺が強くておすすめだ」


そういって渡されてた箱には、〈悪鬼襲来〉だとか〈深海の恐怖〉等と書かれ、怖そうな見た目の怪物が描かれていた。


カッコイイ天使や剣士の様なカードを期待していた望美は正直ちょっと気が進まない見た目のラインナップだ。


そんな望美の様子に気が付いたのか、いつの間にか自分の世界から帰ってきた新地が別の箱をいくつか持って話に割り込む。


「玉希さんが微妙な顔してるし、こっちのがいいんじゃないか?」


そう言って見せてくれた数個の箱達には妖精のような少女達や美しい天使達などが描かれて、どれも可愛かったり綺麗だったりなイラストばかりだ。


「この辺りはデッキとしては癖があるけど…、好きじゃないカードを使っても楽しくないからね」


モチベーションは大事だよ、と続ける新地の選んだ箱達に望美は興味をひかれた。


駅前広場での感動を思い出し、美しい天使の描かれた物にしようかとも一瞬思ったが、………やめた。


脳裏に浮かぶのは、美しい天使と共にいた凛とした佇まいの女性の姿。


自分なんかじゃ似合わないな、と感じてしまったのだ。


わずかに悩んだ後、望美は可愛らしい妖精たちの書かれた箱を手に取った。


「お、『精霊の加護』か。面白いデッキを選んだね」


新地の嬉しそうな反応を見ると、どうやら中々いい物を選んだようだ。


2人に促されるまま、その商品を購入した後、先ほどの談笑スペースへ戻った。


「早速、スターターを開けてみようぜ」


待ちきれないといった面持ちで、木場が言う。


しかし、待ちきれないのは望美も同じで、すでに箱を開けだしていた。


「構築済みデッキの中身は基本的に決まっているけど、5枚だけ完全なランダム枠があって、それがまた楽しいんだ。貴重な限定カードが入っていたなんて例も―――」


新地の早口解説を聞きながら、テーブルに広げたカード達を見えていく。


「けっこう、可愛いカードが多いんだね」


そう未菜が呟いた通り、様々な衣装を身にまとった可愛い少女達のカードが何枚も目に付いた。


その内の1枚、箱の表紙にも描かれていた妖精のカードを望美は手に取った。


そのカードには、半透明な羽根を背中から生やした小さな妖精が描かれていた。


その奇麗なイラストに、望美は思わず見とれてしまう。


しかし、その下に書かれた数字や文章は読んでもピンと来ず、何を言いたいのかよく分からなかった。




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《疾風のシルフィード》

Lv1/攻撃力0/防御力100

タイプ:風,精霊

●:捨て山にあるスペルの数だけ、同じタイプのユニット

の召喚に必要な魔力を1度だけ減らす。

このターン、自身は攻撃できない。

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これがどんなカードなのかと聞こうと、望美は新地たちの方に目を向けた。


しかし、彼らは1枚のカードを見て固まっていた。


2人は幽霊でも見たかのように、目を見開いてその手を小刻みに震わしている。


疑問に思いながら彼らの視線の先にあるカードを見ると、そこにはローブに身を包んだ老魔術師の絵が描かれていた。


「…2人とも、なに固まってるの?珍しいカードでも入ってた?」


その様子に気が付いた未菜が不思議そうに声をかけるが、2人はすぐには答えない。


しばしの時間をおいて、木場が口を開く。


「こいつは珍しいなんてもんじゃねぇ…」


続ける様に、新地が声を震わせながら答えた。


「流通が確認されたのはたった8枚、―――伝説のレアカードだ」







《至高の魔術師 オズ》 、それがそのカードの名前だった。




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