第125話 わたしが矛盾していたら、それは世界のせいだ
同じようなことばかり書いているような気がする……という枕詞を以前に使ったことがあったようななかったような、多分あったような気がするが、そのときは、なにやら同じようなことばかり書くことに関して言い訳したかもしれないが、面倒なので、もう言い訳はやめる。同じようなことばかり書いているのは、同じようなことしか考えないのと、あとは、前に書いたことをはっきりと覚えていないからである。
同じようなことならまだいいけれど、もしかしたら、矛盾することを書いているかもしれない。こっちに関しては、言い訳しておこう。矛盾することを書いていても、それはわたしのせいではない。
世界が矛盾しているせいである。
世界は何も矛盾などしていないと考えている人は、よほどシンプルな頭の作りでうらやましいばかりである。世界のどこに矛盾があるか。たとえば、あなたは今生きていますね? 当たり前。生きているということは生きていないということではないということを表わしています。つまり、死んでいない。生きているということは死んでいないということです。死んでいないから、生きている。しかしですよ。あなたは死んだことがないわけだし、死んだ人と語り合ったこともないわけだから、「死んでいないから生きている」などと胸を張ることはできない。死が何か分からないわけですからね。対比するものが無ければ、それ自体が成立しないのにも関わらず、それが現に成立している。これを矛盾と言わずして何と言いましょうか。
何だかだまされたような……という気がする方には、もっと身近な例でいきます。たとえば、あなたに好きな人がいたとします。好きで好きでたまらない人がいたとしますね。好きということは、嫌いではないということです。でも、好きな人が嫌いになることもありますよね。はじめは好きだったけれど、あとから嫌いになる。だとすると、あなたの「初めの好き」というのは、「あとから嫌いになる可能性がある好き」ということになります。好きの中に、嫌いが含まれているということです。好きなのに、嫌い!? 嫌いじゃないから好きなはずなのに、好きであるということは嫌いを含むことになるわけです。
そんなわけで、もしもわたしが矛盾したことを言っていたとしても、それはわたしのせいじゃないのです。そもそも、世界がそのような構造になっておるわけです。あしからず。
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