第116話 失敗から学ぶことの価値

昨日、ちょっとしたことで失敗した。しかし、失敗は成功の母、そこから学んだことがある。さて、失敗から学んだこと、というこの言い方なのだが、まあ、これ自体は正しいだろう。失敗することで、それまで分からないことが分かるようになるということは、いくらでもある。しかし、である。失敗したことで分かったことがあるとして、それは、当の失敗を埋め合わせることができるほどのものだろうか。


もしも、失敗しなかったことと、失敗して分かったことを比較したときに、前者が後者を、良さの点で上回っていたら、失敗から何か学んだとしてもマイナスであり、それって意味ないんじゃないかと思う。


そうして、もしかしたらそういうことをする人間がほとんどなのではないか。よく、失敗から成功をつかんだ人の例として、エジソンが挙げられる。確かに、エジソンは失敗を繰り返すことで成功したかもしれない。しかし、そういう人はほんの一握りであって、ほとんどの人は失敗して、失敗したまま終わりとか、あるいは、失敗から何かを学んだとしても、失敗分を埋め合わせることができず終わりとか、そういう一生を送るのではないか。


とすると、「失敗を恐れずに挑戦しよう」というのは、多くの失敗者を作り出すことで、一人の成功者を作り出そうとする言い方ではないだろうか。


もちろん、幼い頃は、失敗が不可避である。お釈迦様のように、生まれたときから、とことこ歩いて、「天上天下唯我独尊!」とは行かない。失敗しながら学ぶということが成長するというまさにそのことだ。しかし、いったん長じたら、「どんどん失敗すべき」とは言えないのではないか。仮に言うとしても、「どんどん失敗してうまくいく人間は、ほんの一握りである」ということを、同時に注意すべきだろう。


時は、永遠には存在しないのである。失敗ばかりしている時間は、そうそうあなたには残されていない。では、どうすればいいのか。そんなことが分かっていたら、わたしは、昨日、失敗していなかったことだろう。しかし、少なくとも、「とにかくやってみてどんどん失敗しよう」というのは違うだろう。失敗を恐れずにというが、どちらかと言えば失敗を恐れ、状況をよく見ることが大切なことではないかと思う。それを、今回の失敗から学んだ。まあ、それほど大した失敗でもなかったので、こういうことが分かったということは、今回のわたしの失敗は、差し引きプラスだったということである。

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