第53話 「世界は朝から始まったの?」に答えてみる
7月30日に放送されたNHKラジオ第一放送の「夏休み子ども科学電話相談」という番組で、6歳の女の子が、「世界は朝から始まったの?」という質問をしたことが話題になっていたらしい。
どうでしょうね、これ、皆さんがお子さんからこの質問をされたとしたら、どんな風に答えますか?
番組では、専門家が、「世界」というのを「地球」ととらえて、地球上では、一カ所が朝でも、また別なところは昼だったり、夜だったりするから、朝から始まったということは言えないというような趣旨の答えをしていたようです。
まあ、これも一つの答え方かもしれないけれど、あんまり面白くないし、そもそも、本当に6歳の女の子が、世界=地球と考えているのかどうか。わたしには、そうは思えない。
また、Twitterではこの質問に関して、「詩的」であるとか、「純朴」であるとか、そういう評価がされていたが、彼女はそのような評価をされたいがために出した疑問ではないだろうから、そんな評価をされても一文の得にもならないことだろう。
彼女は、ただ疑問に思って、答えを知りたいと思っただけ。
その疑問に、わたしならどう答えるか。普段、哲学、哲学言っているのだから、このような哲学的な疑問に答えられないとしたら、沽券に関わる話である。なので、これから答えてみたいと思う。
しかし、あらかじめ言っておくと、結論は、「分からない」という所に落ち着く。分からない。この頃、しばしば、この「分からない」ということを書いており、分からないことは面白い、とまで書いている。分からない、何も知らない。ただし、ただそう言って終わっているだけでは、ただのバカである。分からないなら考えろという話になる。分からないとしても、分からないなりに、「何が」「どのように」分からないのか、それを述べなければならない。その点を踏まえて、わたしが質問者の女の子に回答するのであれば、以下のようになるだろう。
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世界は朝から始まったのかどうか。まず、このことを考えるときに、世界の始まりを見ることができる人は誰もいないっていうことを確かめておこうね。だって、もしもだよ、この世界が始まるところを見た人がいたとしたら、その人の方が世界の始まりよりも先にいたことになるからね。そんなのおかしいよね。だから、わたしたちには、世界が始まったとき、朝だったのか、それとも他の時間帯だったのかどうか、これは、確かめることはできないんだ。でも、考えてみよう。
どんなことにも始まりというものが必ずある。小学校だって始まるし、あなたは今6歳だけど、そうするとあなたが生まれたのが6年前ということになって、6年前のお誕生日があなたの始まりだね。そうして、その始まりには、始まりの時っていうのがあったはずだね。学校は朝始まるし、あなたが生まれた時間帯はお家の人にきけば教えてもらえるね。
そうやって、朝が来て小学校が始まったり、朝や昼や夜にあなたが生まれたことは確かなことだ。でも、この世界自体が始まるっていうのはいったいどういうことなんだろう。朝が来たり、夜が来たり、っていうのは、この世界の中で起こることだよね。この世界が始まったときが朝だとか夜だとか言うためには、この世界の外側にもっと大きな世界がないといけなくなるね。でも、世界の外側って何だろう。この世界の外側にさらに大きな世界なんてあるんだろうか。もしもあるとしたら、さらにその大きな世界の始まりは、朝なんだろうか、それともお昼? 夜?
さあ、分からなくなってきたね。でも、実は、わたしにはあなたがこの世界が朝から始まったんじゃないかっていう気持ちがすごくよく分かるし、みんなもきっとそうなんじゃないかな。この世界は朝から始まった気がどうしてもする。本当は朝から始まったのか分からないんだけど、朝から始まった気が何となくするんだ。それは、どうしてかって言うとね、わたしたちは、一日の中でいろんなことをするよね。学校に行ったり、遊んだり、おやつを食べたり。それは、それぞれ別の時間に始まるけど、一日が始まるのが朝なんだ。世界が始まったのが朝なんじゃないかって感じられるのは、きっと世界の始まりと一日の始まりを同じように考えているからじゃないかな。
でもね、一日が始まるのは、この世界の中での出来事だけど、世界の始まりは、この世界の中での出来事じゃないんだ。だから、この世界それ自体が始まったときに、朝だったか夜だったかということを言うことはできないんだよ。でも、そんなことってあるんだろうか。何かが始まったときに、それが朝でも夜でも無いなんて。このことについて、あなたは、もっともっと考えてみてください。
わたしならこんな風に答えることだろう。
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