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 それからの出来事は一瞬で, とても何かが出来そうなものではなかった. 無力であることを恥じるとはこういうことなのかと思い知らされる時間すら頂けなかった. 結城さとと名乗った女性はコピーした栗花落さんの植物操作の能力で僕と京さんを一網打尽した. 何処から生えてくるか分からない植物のツルを避けるのはなかなか困難で, 行動不能になりながら拷問のようにいたぶられた.


 京さんが弱々しく言葉を吐いた.


『あなたの目的は……?』


 その問いに応える素振りもせずに, 結城さとはにんまりと笑った. ただこの時間を楽しんでいた.


 死を覚悟することは僕の人生で今まで無かったことだが, この時ばかりは内心諦めていた.


 しかしその時, どこからともなく声が聞こえてきた.


「お前はハヌマーン。大いなる猿神の化身である。ここで器は壊れない。」


 頭の中に直接流れたひとつの音が僕の魂を駆り立てる. 僕の心にもう1人誰かいるのだろうか. 応援してくれているのだろうか. だとしても僕の四肢はもう動ける状態にない.


 ハヌマーンとは一体何なのか.


 謎に包まれたまま終わることが多すぎる人生だった.


『信楽……栗花落を助けて。』


 京さんがまるで最後の言葉のように口にした言葉は, 力の差を見せつけられた相手がいる前でも十分に響いた.


 安らかに死にたいだなんて甘い. 僕は株式会社バグフィクスの一社員なんだ. 入社したての新人に誇りも何も無いが, 一矢だけ報いたい. 栗花落さんをせめて自由にさせてあげたい.


「…………護華。」


 咲け. どうなってもいい. この状況を打破したい一心で僕はハヌマーンになる.


「ウオオオオオオ!!!!!」


 突如吹き荒れる暴風の渦の中に一匹の大猿がいた. それが僕なのは間違いない.


 結城さと. いきなり現れた驚異を目の前にして即ゲームオーバーだなんで嫌だ. 僕の心に初めて殺意が芽ばえる.


 殺意をそのまま武力にしない. 魂を燃やす薪とすることで僕の原動力にする. 容易いことだった. 目の前の仲間と自分を助けたい僕のわがままに僕が付き合えばいいのだから.


 翔ぶ. 結城さとの目の前から姿を一瞬にして消した僕は彼女の真上にいた. 以前狐さんと戦った時と全く同じ戦法なのに, 今度は負ける気が全くしなかった.


『!?』


 反応される頃には僕はもう彼女の顔面ではなく全身を拳一つで吹き飛ばしていた.


 胃袋らしき空間から栗花落さんの腕が飛び出す. 僕は持ち前の脚力で再び攻撃を繰り返すと見せかけて, 彼の腕を取った.

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