18% 新たなる脅威

 バグを一蹴. 植物操作の徳と聞いたときはどんな戦い方をするのかと疑問に思っていたが, とんだ勘違いだった. 栗花落さんの徳は根っからの戦闘気質だった. 圧倒的な防御力を披露し, 相手に有無を言わさぬまま押し潰す. それが彼の闘いだった.


『……信楽、次は頼む……』


 またいつの間にかボソボソモードに突入している. どうやらバグの前だけ強気らしい. そういう設定だと思っておこう. 護華を咲かせた姿を解除して再びパトロールを再開させようしたとき, 事件が起こった.


『二人とも待って。前方から一人……人間が来る。この感じウチの者じゃない。』


 ダンジョンにいる人間. それは株式会社バグフィクスの社員または新たなクライアントを意味する. 新たなクライアントとは, 昔の僕みたいに訳も分からずこの意味不明な空間に侵入してしまった迷子か, 若しくは"脅威"を意味する.


『クラクラかもね……』


 クライムクライアント. 現実でないことをいい気に破茶滅茶なことを成し遂げようとする者のことを言う. 栗花落さんの勘では迷子ではなく脅威の方らしい.


 その勘は, 当たった.


 人影を視認できた瞬間の悪寒. 僕はオーラや威圧というものをハッキリと経験した. 立ち向かえない. その人は, スラっとした真っ白いドレスを身に纏っている. 長い赤髪が僕の緊張感を煽る. 京さんが火蓋を切って落とす.


『株式会社バグフィクスの者です。すみませんがログアウトしてお話をお聞かせ願えますか?』


 ここでは存在すること自体が不審なのだ. 僕らは容赦なく問う. 純粋な目的でここに居るのならば, 僕達の会社が発行する通行証を所持してもらう. そもそも通行証と言ってもうちの社印が刻まれたブレスレッドのようなもので, 現在発行した通行証はおよそ50と聞いた.


 その女が初めて口を開いた.


『え、あぁまぁ。えーと、とりあえず殺すね。』


 その言葉とは無関係に素晴らしい笑顔を差し向けたその女に, 僕らは驚嘆と共に厳重な警戒態勢をとる.


 その笑顔と同じくらいニンマリしている口がその女の腹部に出現した. ここはダンジョンだ. 恐らくこの人の徳だと推測できる. 警戒している僕らの前へ素早く移動してきた女は腹の方の大きな口を開けた.


 僕へ向けて.


『信楽!!』


 目の前が真っ暗になったのは, 栗花落さんが僕の目の前に来たからだった.


『頂きます♡そして、さようなら。』


『信楽、研修で教わったよな?

 行動指針その⑥

 "己に胸を張れるような生き様を"、だ。』

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