ハヌマーン開花

12% 新卒の徳

 狐さんがぼそっと言葉を吐く.

『いい華だ。』


「あれは一体.....!」


『ダマッテ、ウケトレヤ。。。』


 狂気に満ちた藤堂くんがこちらへ駆ける. そして, 禍々しい鎌は狐さんに向けて振り下ろされた.


『——護華まもりばな慳貪鎌けんどんれん!!』


『まだ付け焼き刃の状態だが、さしずめ合格だよ藤堂迅。』


 狐さんはゆらりと舞い, 大振りの鎌を避けつつ, 速やかにその尻尾で鎌を振るう本人の腹部に重たげな一撃を入れた.


『うっ。。。くっそ。。合格、だと?』


『あぁ。この研修では護華の開花が及第点。それ以上はサービス残業さ。だから皇さんも実はやらなくていいのだがね。』


 皇さんは横に顔を向ける.


 僕の実力が実らないまま藤堂くんが一歩リードした. たまらず, 無策のまま一歩を踏み出した.


「僕もなにか。。。」


『お前みたいな小僧を儂は最も嫌悪する。』


 瞬く間に狐さんは姿を消し, その瞬間に僕の背中に鈍痛が走る.


『何か、面白くしてくれんのか?あの鎌小僧のような野心は無いのか?』


 野心. 最も僕から遠く高いところにある言葉をいとも容易く口にされた. ただのテンプレート人間にそんなものははっきり言えば無い.


『こんな感じかな!!』


『できたわ。』


 僕が性懲りも無くネガティヴタイムにふけっていると, 同期二人がいるはずの真後ろからただならぬ威圧感をもらった.


 八月一日さんがどこから持ってきたのか解らない巻物を取り出し, 簡単な剣の絵をさっと描く. 画力が皆無なのか, おそらく剣だろう. そして巻物は明るく輝く.


『——護華、カートゥーン!』


 次の瞬間巻物に記された剣は, 実体化した. 八月一日さんはその剣を愛葉くんへ託した. 愛葉くんの顔がほころぶ.


『——護華、瞬間移動テレポート。』


 まさに瞬きをする間も無く剣を持った愛葉くんは狐さんの上空にいた. そしてその剣の切っ先を真下に向けて自由落下を始めた.


『はっはっは!今年は豊作だな。八月一日ほづみ くるる愛葉あいば 颯叶はやと、合格。』


 お約束のように避けられて愛葉くんはこちらへ吹き飛ばれて帰ってきた.


『『やったーー!!!』』


 二人はハイタッチを交わし, 同時にお互いが恥ずかしそうにその手を隠して改める.


『あ、あんたアレぐらい当てなさいよ!』


『わかってるよ!....、次は、当てる。』


『いやもう合格だって。』


『あ、そっか。』


 他愛もない男女の会話がこの混沌とした空間に乾いて響く. 愛葉くんは僕の方を振り向いて確かに言った.


『次は信楽だな!』


 その明朗な笑顔は惨憺さんたんたる僕には眩しかった.

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