11% パラレルワールド

 皇さんの周りにまばゆい光が散る. そして皇さんはスーツの姿から一変した. いや, 一変したのは左腕だけ. 肩から拳にかけて神々しい真っ白な重装備が異彩を放つ.


『……あんた、信楽だっけ?痛かったんでしょ。あの狐に頭突きされて。 いい加減理解したら?ここは実在する場所よ。』


 はっとなった. この目の前に頼もしく仁王立ちしている皇さんに殴られた時も確かに痛かった. 本当にここはヴァーチャルではなくて, 実在する場所なのだとこの時初めて信じた.


『 若僧。前にも言ったと思うが、その小娘の言う通りここは実際に存在している。本来は来れないはずだが、-ハイフンによってお前らはここに招かれている。』


「招かれている?一体誰に!?」


達磨大師だるまだいしじゃよ。やつの気まぐれじゃ。まぁ詳しいことが知りたいならここで死なないことだ。』


 思考を巡らす前に狐さんの素早い猛攻撃が再開される. と同時に皇さんの左腕が動く.


『 そんなでかい獲物に捕まるものか!片腹痛いわ。まじで。うぷ。』


 狐さんは堂々と皇さんの左腕をジャンプ台にして高く跳ねた. 跳ねた先はもちろん, 僕達だった.


「やばい!どうしよう!」


『 ……ウォォオオ!!!』

 雄叫びを上げながら遠くから走り込んできたのは, 先程相手にされなかった藤堂くんだった.


『 狐にコケにされてたまるかよォオ!』


 藤堂くんは勢い良く狐さんに向かって飛ぶ.


『 威勢がいいのは良いことじゃな。じゃがしかし、若いな。』


 東堂くんの飛び蹴りの足が狐さんの尻尾に巻き付かれて, 容赦なく真横に吹き飛ばされた.


『 ……小童こわっぱども。武器が欲しいと言ったな。一つ教えてやろう。この世界の武器というものは小童ども一人一人の魂にすで備わっているものだ。』


「魂?」


『 左様。この世界では元の世界で製造した銃などは全く作用しない。ここではその身に宿る"とく"を利用せねば戦えぬ。そこにおる女子おなごは魂にそなわる性質を優れさせることでその拳に至っている。自分の魂に宿るものは何なのかを理解せねば、儂には未来永劫勝てんぞ。』


『 ━━━━魂を、灯せ。━━━━』


 魂に火を灯すなんてことあまりに抽象的すぎて僕には何がなんやら, なんて言ってられない状況になった.


「魂に、火を……!!」


 その瞬間真横から眩しいぐらいの光が僕達を照らした.


『 そんなことなら早く言えや……クソ狐ェ……』


「……でっか……!!」


 僕は唖然とした. 藤堂くんは身の丈の3倍はある大鎌を肩に掲げていた.


『 俺の魂に宿るのは, 六波羅蜜ろくはらみつ!!』

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