5% 内定

 現実世界に難なく戻った僕は就職活動をなんの捻りもなく続けた. 仮想現実ですら狐さんに不採用を通知された経験は何かに活かせないだろうか.


 そんな矢先, 大手企業はまず載っていないかなりマイナーな就活サイトを見ていると, ある会社が目に止まった.


「株式会社バグフィクス」


 こんな会社ほかの大手サイトには載っていなかった. その業務内容を見た途端, 僕は周りの風景がまるで硝子ガラスのように割れ崩れるような感覚に陥った.


電脳世界ダンジョン内の治安維持、乃至ないしは最果てへの到着による謎の解明。』


 とあった. 見過ごすことは出来なかった. 先日アンインストールしたあのアプリが鮮明にフラッシュバックされる.


 正直, 興味が出た. 自分でもよくわからないが, あの世界そのものに興味を示さなかった自分が, こんな怪しい会社に面接希望メールを送信しようとしている.


 もしかしたらあの世界と全く関係がないかもしれない. でもそれはそれで, 運命だと思った.


 信楽雪慧24歳, 国立大学院理系博士前期課程2年. ゲーム内の秩序維持を業務とする会社を第一志望とする.


 リスキーどころか, 修士新卒のステータスをこんな会社に使うなんて何を考えているんだろう. でも, 周りになんと思われようと構わない. どんな所かだけでも僕は知りたかった.


 立て続けに大手を意味もなくて受けて落ちていった僕としてはもはや, 新規事業を立ち上げているベンチャー企業の方が性にあっているのかもしれないとも思った. 逃げかもしれないがそれでも構わない.


 選考エントリーメールを送った.


 すると, その数秒後に携帯が鳴った. 見たことない番号だったが, もしかして, と思い電話に出た.


「はい、信楽しがらきです。」


『 お忙しい中申し訳ございません。株式会社バグフィクス人事部のえんじゅ 日南子ひなこと申します。信楽様の御携帯でお間違いなかったでしょうか。』


 電話番号を隅に記載したメールを送ってまだ一寸ちょっとであるのにも拘らず, 即電話が来た. 僕は何故か驚かなかった.


「はい、御社に先程エントリーを申し込みました信楽です。」


かしこまりました。恐れ入りますが、只今お時間よろしいでしょうか。』


「はい!大丈夫です。」


『 誠にありがとうございます。突然ではございますが、厳正なる選考と検討を重ねました結果、弊社は貴殿を採用することに内定致しましたのでお電話にてご連絡差し上げました。』


「はい!ありがとうございました!。。。ん?え?」


『 なにかご不都合がございましたでしょうか?』

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