3% ルールと掟

 狐さんは淡々と話を続けた.

 

『お前はここにゲーム感覚で来ただろうが, ダンジョンはそのような人間を厳重に排斥しようとする。』


 僕は息を飲む.


『話が間怠まだるっこくなりそうだから結論を言う。長居すると, 戻れなくなっておっ死ぬぞ。』


「!」


 ゲームの世界ではない?死ぬ?僕はただ最先端のゲームで新しい世界を体感中なのに, まさかそんな物騒なチュートリアルが始まるなんて. 早く帰って就活の続きをしなきゃいけないのにこんなクソゲーの相手をしている場合ではない. 僕は狐さんのいう言葉を鵜呑みにせずに別の問いをした.


「帰れるんです?」


『あぁ、勿論。その-ハイフンで来た時と同じものを写せば早い。』


「思ったより簡単なんですね。」


 僕は早速アプリを起動させてモニタにカメラを向けた.


阿呆あほう!』


 向けようとしたその時, 狐さんの怒号と研究室の扉が開く音が同時に聴こえた. 僕がおもむろに扉の方を振り向こうとしたその瞬間, 経験したことのない鈍痛が僕の頭部を襲い, 体全体を強く壁に叩きつけられた. 急な出来事に反応が遅れる.


「うっ。。。」


 なんとか動けるが, 急には立てない. 僕は体を起こす前に, 目の前を確認した. 僕を殴り飛ばしたやつがいるはずだ。


「。。。誰だ?」


 目の前に堂々と仁王立ちしていたのは, 凶暴な大男などではなく可憐な少女だった. 高校3年生が大学生くらいに見える. まさか僕はこの女の子にぶっ飛ばされたのだろうか。この子への怒りより自分への憐れみのほうが深い.


 キツイ目つきで僕を見下ろす女の子が口を開いた.


『何してんだ!ビギナーか?バカか?バカなビギナーか?』


 今僕は初対面の年下の女の子に罵倒された. 僕に変な性癖はないので単純に傷ついてしまった。


「なんだよお前。。。急に殴って。。」


『あたり前だ。ダンジョンのど真ん中でログアウトしようとしてんじゃねーよハゲ!』


「どういうこと?」


『お前, まさかチュートリアルも終わってないのか?』


 そういえば狐さんとの会話の途中だった. しかし, 僕はもうこのゲームに再びログインするつもりなくアンインストールするつもりだったのでお構いなしだった.


『大うつけものが。話は終わってないと先もいったのに。儂の話を。。。』


『待て狐。私が手短に話す。緊急事態だ。』


 狐さんはため息をつき尻尾をその身に巻いて横になった.


『だるまには見つかるな。わかったか?』


 いやわからん. 何故そんなにも焦っているのか, この時の僕には皆目見当もつかなかった.

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