2% 狐さんと

 狐は問うてきた。


『 ちからがほしい? 』


 僕はコミックやゲームによくあるアレだと瞬時に判断して即答した.


「欲しいです!」


 がしかし,


『 だめだ。ちからあたえるの結構大変なんだからね。』


 却下された. ここでも僕は不採用を通知される. どれだけ就活スキルが無いのか身の程を思い知らされる.


 とりあえず僕は現状把握を第一に考えて, 狐さんに在り来りありきたりの問をした.


「ここはゲームの中の世界ですか?」


『 そんなことより、わし、お寿司食べたい。』


 まさか狐さんの口から"おすしたべたい"が発音されるとは想像もしなかった.


「あの、狐さん。僕今お寿司持ってないんです。恐れ入りますが何か知っていることがあれば教えていただきたいです。」


 僕は若干急いでいる為, "ちから"とやらを与えることが出来るかどうか怪しい狐さんに構う余裕はない.


『 おしゅし。。。』


 こんなに可愛い狐さんの要求に応えられず, 傷心する. 僕は研究室を後にした.


「じゃあまたね、狐さん。」


『 げふぅ。。。 』


 げっぷをされてしまったが, どうしようもない. さて, ここが現実世界と酷似しているのならば, エレベーターがあるはずなので下に降りよう. 僕は狐さんのげっぷを背にエレベーターへ赴いた.


「ん?」


 エレベーターの隣に階段があるのだが, 今一瞬, 大きめの赤い人影が垣間見えた. この世界での初めての人型生命体に心躍る.


「あの!すいま……」


 呼びかけを中断したのは, 足元に只ならぬ違和感を感じた為だった. 左脚を確認すると先程の狐さんが裾に噛みついていた.


『 フシュー!』


「狐さん!どうしたの。」


『 話は終わってない。戻れ。』


 僕は狐さんの言う通り来た道を戻って研究室へ. あの赤い人にここのことを聞きたかったのだが, 目の前の狐さんの頼みを断れる自信が無かった.


『 気が変わった. 儂がチュートリアルをやってあげるよ。』


 チュートリアル?やはりゲームなのか。ゲームなのだとしたら, 甚大なストレスを与えられたので即刻ログアウトして訴えたい.


 研究室に戻ると, 狐さんはまるでさっきとは別人のようにこの世界の要点を説明してくれた.


『 ここは電脳世界ダンジョンさ。ただし、ゲームの世界かと言うとそうではない。


 どんな物質にでもその物質には魂が宿っていると言われる。日本には付喪神つくもがみという考え方があるだろう。あれと同じだよ。


 要するにアプリ-ハイフンはモノに備わる世界に対して、情報科学分野のテクノロジーをフル活用して侵入可能にしている、といったところだ。』

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