2018.12.29.浜辺の青空レストラン



島。


離島。


日本の、離れ小島。



私はどうしてそこに行ったっけ。


はじめは家族が一緒にいた。

夜だった。


断崖の下の砂浜、

海へせり出すような、

右側の断崖。

そこに沿うように、

桟橋が伸びている。


小さな木の桟橋。



父の思い出話しを聞いた気がする。



砂浜のはじ、断崖側のところに

大きな岩というか、

高く盛り上がった部分がある。


そこに一本、外灯。

海を背に上っていく細い道。

あちらが、

この小さな島の居住地区だろう。


浜の左の方は藪、

私は、

大岩の上、断崖に寄りかかって、

黒っぽい海とか、

向かいの藪の方とか、

ほんやり、眺めていた。


(なにかしらのシーンがもうちょい

あった気がする)


……


朝になった。


家族はいない。


私だけが島に残った。



浜辺は、レストランになっているらしい。


浜辺のレストランなんていうとおしゃれだけど、

ただの青空飯屋。


わりと席がある。


私は、そこで働くことになっていた。


先輩の女の人、

私より上かな、

分からない。

もしかしたら大学四年とか、そんなんかも。


島の人なのかもしれない。

のびのびして、快活で、

ちょっと化粧が上手くない、

くどい感じがあるけど、

とてもいい人そうだ。


時間になると、

(船がついたのかな)

続々とお客さんがやってきた。


好き勝手に席についていく。

この量で勝手につかれるのは、

たぶんかなりきつい。

それも、

スタッフは私と先輩だけ。



「さっ! いくよ!」


先輩とともに、

お冷を運んでいく。


私は喫茶店で培ったお盆スキルで

あたりをうろうろするけれど、

私はホール業務はなんだかんだ昔から苦手。


すぐ、お客さんの順番を忘れる。

こっちでオーダーをとってると、

「こっちが先に来たんですけど」

などと言われてしまう。


とにかくてんやわんやだ。



オーダーの内容も変わっていた。


学生ぽい男の子二人は、

レンコンのなんとか と

緑のししとうのなんとか


(これは目玉なのか、

メニュー表一枚にでかでかと掲載)

(こんな店でどかっと腰を据えて食べるものではない)

(居酒屋で、「焼酎とあと〜」の後に頼むようなツマミぽい)



それから変わっていたのが、


『なんとか虫の 変態途中の なんとか卵』


絵を見ると、

カナブンぽい虫が、

まあるい卵からのっそりと出てきて事切れた……、

そんな感じの料理(?)だった。




どっかのカップル、男の方に、

「すいません、『冷や鶏』ください」

とまるで灰皿でももらうかの感じで言われた。



店はとても忙しかった。

見ると先輩の姿はない。


外国人の客が2名、いや、3名、

となりに別グループの、日本人3名。


お冷を、運ばなくては…………。



とてもさばけない。

まだ料理も出していないのに、

私は逃げ出した。


(なんとか虫、見たかった)



桟橋を渡る。


恐ろしいことに、

水上にせり出すように別の客間があった。


先輩はこっちの方うろついてたのかしらん。


更に奥にいく。

静かな、隠れ家的なテラスがあった。



(しばらくウロウロしていた)

(忘れちゃったけど)



テラスに戻ってかたら、

先輩と鉢合わせした。


「逃げたな〜」


みたいなことを、笑いながら言ってきた。


「先輩、お客さん全部さばけてすごいですね」


と言うと、


「ぜんぜん? あたしテキトーにやってるし。

客の順番とかもちょーテキトー。」


いいのだろうか、

私とは違って彼女はしまんちゅなのに。

今頃お客さんたちは、

スタッフのいない浜辺、

青空の下、ずーーっと待ってるんだなぁ。



……


島の断崖ぐらい、高いとこ、

またまた宙にせり出すようにして、

足場ができていた。


その空中通路の途中、

先輩と歩いていると、

アニマル浜Oの親戚だという、

ランニングに短パンの男と鉢合わせた。

(姿は、ちょっと細めのアニマル浜O)


「ワッハッハ! ワッハッハ!」


めっちゃ笑ってる。


「おれはあのアニマル浜Oの親戚なんだ!

ワッハッハ! ワッハッハ!」


こんな島出身だったんだな、あの人は。


「それからな、おれはきみのお父さんと

同じ大学だったんだ。

いやぁ、きみのお父さんには、

たいへんお世話になったよ

ワッハッハ! ワッハッハ!」


え、うちの親父、

こんな変な人に慕われてんの……?

まぁなんか納得できるとこが

笑っちゃう。

ワッハッハ、ワッハッハ。


……


空中のテラス。

木造のシャワールームになったいた。

作りがズサンで、

流木の壁には隙間だらけ。


穏やかそうなおばさんが出てきて言った。

彼女の後ろの部屋で、

誰かがシャワーを浴びていた。


「ごめんねぇ。

いまうちの子がシャワー浴びてるの。

それでね、うちの子、

誰かに裸を見られるのがすごく嫌で

だから……

しばらく向こうの方に

行っていてもらえないかしら……?」


申し訳なさそうにしている。


先輩が、いいですよもちろん

などと言った。

私も、


「私も裸は見られたくないです」


と言った。

温泉などでも、

人がいないことを願っている。


シャワーを浴びていた子どもは、

小中の間ぐらいの、

なんだか不安定な位置にいる、

子供に見えた。


どこにも属してない、

まとまりたくない、

そういうことができない、


彼女の肌は、

普通の、

白めの黄色い肌だった。


普通だった。

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