第6話 雨女とは呼ばせない

 「太陽の国」


 の演奏が終わった後で、俺と美緒は嬉しさと恥ずかしさで一杯だった。


 会場からは、


「おめでとうー!」


 とか、


「ありがとうー!」


 のコールで溢れていたからだ。


 俺は本来裏方で、こう言う状況には慣れていないし、観客にどう反応したら良いのかも分からなかった。だけど美緒は、


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 と、観客達に手を振りながらお辞儀をしていたので、俺もそれにならった。


 ステージの照明が落とされ、俺達が舞台裏に行くと、そこには拍手をしている栄子先輩が待っていた。


「先輩の仕業ッスね、こんな事するのは」

「まあね。でも効いたでしょ?」

「ありがとうございました。ちょっと悔しいですけど」

「あら、なんで?」

「裏技使われたみたいで、微妙な気分です」

「相変わらず素直じゃないなあ」


 人気バンドのメンバー達が楽屋へ戻って行く。


「お疲れ様でした!」


 挨拶する俺に、


「おめでとうございます!」


 と言って、全員が握手をしてくれた。


 俺は思った。MCさんが、このイベントが出来たのはみんな俺のおかげだと言っていたが、そうじゃない。人気バンド、アイドル、MCさん、栄子先輩、イベントプランナーさん、舞台監督さん、その他音響さんから照明さん、スタッフの一人一人が力を合わせた結果に出来上がったものなんだ。


 そう思った瞬間、俺は美緒の手を取り、


「行こう!」


 と言って会場のスタッフルーム中を駆け回り、皆に


「お疲れ様でした」


 と頭を下げに行っていた。皆、後片付けでそれどころじゃなかったろうが、口々に


「おめでとうございます」


 と声をかけてくれた。


「私、茂の事を誇りに思うよ」

「どうして?」

「だって、こんなに大勢の人から信頼されて、大きな仕事を任されて、大勢の人の心を動かせるんだもの。だからパパだって茂の事を認めてくれたんだよ」

「そう言えば、お父様にまだご挨拶してなかった。急がなきゃ!」

「いいんだよ。また明日にでもゆっくり話そう?」

「ああ、そうだな」




 宮崎サン・リゾートは、リニューアル後のお客の入りはにぎわいを見せていて、今や国内でも有数の人気スポットとなっている。その秘訣は、俺の狙った通り、家族連れや若者たちが手軽に一年を通して南国気分を味わえる気安さが受けているからの様だ。その影響で地元の活性化も進み、市内の繁華街も以前より賑わう様になった。


 俺も今回の仕事の手腕が認められて、より大きな案件を任される様になり、栄子先輩と共に日本全国を飛び回っている。


 美緒とは、宮崎サン・リゾートで結婚式を上げる事が出来た。式にはオーナーや涼子嬢まで出席し、俺の親族まで招待してくれた。オーナーに言わせると、俺はサン・リゾート復活の立役者として特別待遇との事らしい。


 今では、美緒の父親が俺の勤務する広告代理店の近くにデザイナーズ・マンションを購入してくれて、二人でそこに住んでいる。なんでもサン・リゾートの株価が約束の額になったので、一部を売却してその資金に充てたそうなので、


「このマンションはあんたが稼いで買った様なもんじゃ」


 と言っていた。美緒は勤めていた会社を辞めた。何故なら近いうちに家族が三人になる予定だからだ。


 思えば、こんな幸運はあの雨の日、美緒との出会い頭の衝突が無ければ訪れなかっただろうとつくづく思う。


 美緒は相変わらず自分のことを


「雨女」


 だと言うが、そんな時

俺は彼女にこう言ってやっている。


 「君はラッキー・レイニー・レディだよ」と。



 おわり



(注:この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、出来事とは一切関係がありません)

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ラッキー・レイニー・レディ 〜雨女とは呼ばせない〜 駿 銘華 @may_2018

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