◇10月8日(月)午前10時7分

 ◇ ◇ ◇


「やっほー!」


 元気な声とともに、カーテンがしゃっと開けられる。

 祝日なのをいいことにゆっくり眠っていた男が、目を閉じたまま窓に背を向けた。


「ほら、起きなさい」


「やすみだろ……?」


「だから遅めの時間にしたんじゃない」


 ふだん彼らが学校に出かける時間よりは、はるかに遅い。

 幼馴染によって夢の世界から連れ出された少年は、上体だけを起こして目をこすりながら文句を言った。


「……なんで起こしたし」


「朝だから」


「別に朝寝てたっていいじゃんか」


「いやほら、体育の日だし? 体動かすべきだよ」


「体を育てるなら寝るべきだ」


 うまいことを言った、とひとり頷いた少年は、そのまま体を倒し、布団をかぶり直した。


「あー、こら!」


 業を煮やした少女が、布団の上から少年にのしかかる。


「な、一緒に寝よ?」


「あんた人が人だったらセクハラって言われるわよ?」


「お前くらいにしか言わないから問題ない」


「……はあ」


 ため息をつくと、彼女は布団の中の幼馴染をくすぐり始めた。


「おま……ちょ……やめ!」


「なにか?」


「くすぐるの! やめろって!」


 ふだんは、平日、彼の寝起きが悪すぎて遅刻しそうな時にやるのだが。

 わりあい意識がはっきりしている時にくすぐることは珍しかった。


「ほんと! ねえ、無理!」


 少年は身をよじるが、うまく逃げ出せずに幼馴染のなすがままである。


 しばらくくすぐられた後。

 息も絶え絶えになった少年が文句を言う。

 

「お前なあ……」


「ね。あんまりリズム崩すと明日がつらいし」


「どうせ毎日辛いんだからいいじゃん」


「てかこうしてる間に、もう完全に起きてるよね。よかったよかった」


 ほら、と言いながら、少女が体重を緩めると。

 密かに機を伺っていた幼馴染に、くるっとひっくり返されてしまう。今度は少女が下であった。


「え、えっと?」


「仕返しだ」


「ひゃんっ……わた……わたし悪いこと……してっ……ない! やめ!」


 無表情のまま、少年は幼馴染にくすぐりという制裁を加える。

 ふだんなら起こしてくれることに感謝しかないのだが、今日は例外であった。


「ちょ……ほんと、ねえ、むり! やっ……むりむりむり! ぎぶ!」


 ◇ ◇ ◇


 全てが終わった後、少年がぼそりとこぼした。


「お前……」


「なによ」


「そんなかわいい声も出せたんだな」


 枕で目の前の男を殴りつけながら、少女は叫んだ。


「うるさい!」


 * * *


10月8日(月)は、10月の第二土曜日で、「体育の日」です。

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