▽10月6日(土)午後1時32分

 ▽ ▽ ▽


 三連休の初日。土曜日の昼下がり。

 男の私用の携帯に、電話がかかってきた。LINEではなく、電話である。


「もしもし?」


「遊びに行かない?」


「……開口一番がそれですか、先輩」


 彼の携帯を鳴らしたのは、いつもなぜか仲良くしている女性の先輩であった。


「用件は最初に伝えろって習わなかった?」


「最初は『いつもお世話になっております、株式会社なんたらの……』じゃないんですか?」


「三連休まで仕事の話するのやめて」


 電話の向こうの声が本当に嫌そうで、男は素直に謝った。


「あ、はい。すみません」


「じゃあ遊びに行こ?」


「遊びに行くって簡単に言いますけど……」


 そう言いながらも、彼は鏡の前に立って髪を整え始めた。


「どこへ?」


「お、行く気満々だね?」


「嫌だって言っても連れ出されるの知ってるので」


 髪を撫でつけながら、今度は洋服を物色しはじめた。


「それじゃあ、クイズ。今日が何の日か知ってる?」


「いや、そんなのいっぱいあるでしょ」


「正解は『アウトドアスポーツの日』でした」


「あの、明らかに正解出ないこと確信してましたよね?」


 後輩からの抗議の声を切り捨てながら、女性は続ける。


「はい。不正解だったからアウトドアスポーツしに行くぞ」


「どこで、何するんですか。だから」


「ねえ、そっちの近くに公園ってあった?」


「公園でどんなアウトドアスポーツするんですか……」


「あったっけ?」


「そんなにスポーツしたいならスポッチャでも行けばいいじゃないですか」


「あれはインドアでしょう。それよりあったっけ? まあ公園くらいどこでもあるよね」


 よし。と呟いて、女性が言い放つ。


「それじゃ、君の最寄り駅に、グローブ持って集合な」


 ▽ ▽ ▽


「ところで先輩、グローブなんて、持ってたんですね」


「買っちゃった」


 1時間後、改札口に現れた彼女の右手には、スポーツ用品店のショッパーが提げられていた。


「このために?」


「かっこいいだろ」


「……まあ、それなりに」


「もっと褒めろ」


「調子乗るから嫌です」


 三連休初日、土曜日の午後。

 首尾よくほどほどに広い公園を見つけた彼らは、会話のキャッチボールをしながら、野球ボールでのキャッチボールに明け暮れた。


 * * *


10月6日(土)は、10月の第一土曜日で、「アウトドアスポーツの日」です。

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