マッドサイエンティストのヤベー奴

「というか訳の分からないってなんだコラ。これは火薬をだな「わかったわかったお前の科学論議を聞いていたら日が暮れるわ」んだとこの変態が」

「誰がロリコンだこの奇人が「言ってねぇよ」


 アランとバルドロスと呼ばれた男は謎の問答をした後、何も言わずキメラの方へと体を向けた。ぼけっと二人の問答を見つめていたキメラは二人に見られた瞬間、全身を震え上がらせて顔を背ける。まるで赤子のように震えているキメラを見たあと、アランは再度バルドロスへと視線を移す。


「こいつを作ったのはお前だな? こんな強力なキメラを作れるのがお前以外に居てたまるか」

「おう。そうだが? いやぁ……研究途中に逃げ出しちゃってね。こいつ、どうにも思考が馬鹿みたいなんで解剖しようとしたら逃げられたんだ。っていうか強いとか言ってもお前相手じゃ震えあがってるじゃねぇか」


 バルドロスの無責任な言葉に深々と溜息をつき、アランは「そうだな」とやるせない様子で頷く。そんなアランにその問題の人物からの質問が来た。


「そういやアラン、君のとこにも招待状が届いたのか?」

「あぁ。しかし、やはり“楽都らくと”の代表はお前だったか……」

「そりゃね。一番発明数多いの俺だし。っていうか、めんどくさいし研究の方がよっぽどしたいから、ほんとに共都“《きょうと》”のやつら死に絶えて欲しい。」

「お前な……」


 どうにも性格に難がありすぎるバルドロスに、頭痛を覚えるアランである。そんなアランのことはつゆ知らず、ガリガリとどこから出したのか羽根ペンを取り出しキメラの様子を一心不乱に紙に書き込み続けるバルドロス。

 すると、二人+一体+一本のという状況のところに、さらに四人が加わった。マーキュリーの『空間転移門ワープゲート』によってアラン達の下へと移動したきたのである。若干一名を除き。

 やってきたのはフェア、メイル、マーキュリーの三人娘とファンファンロ。一足先に来たファンファンロは手足についた火の粉を払って落とすと、バルドロスに向かって執事らしく一礼をした。


「これはこれはバルドロス様。相変わらずご健康のようで何よりです」


 少年らしからぬ棘のある挨拶をすると、バルドロスはメモをする手をやめる。その背後では土いじりをして遊び始めるジグルオンゼム。


「おぉ、ファンか。久しぶり、解剖して良いか?」

「おやめ下さいませ……あまりにしつこいと研究所を焼き払いますよ?」

「やめろ、バルドロス。ファンファンロもだ。辺り一帯を焼け野原にするつもりか」

「黙れクソアラン。邪魔すんな」


 剣呑な雰囲気を出すファンファンロを見てバルトロスの質問を止めさせるアラン。そしてそこに転移してきたのが三人娘。マーキュリーとメイルはバルトロスに礼をしたのち、いつの間にか土の偶像のような物を十数体作って遊んでいた黒い女の方にツカツカと歩いて行き、フェアはゆっくりと三人のもとへと歩いてきた。なお、キメラはいまだに拘束されており、強力な存在であるメイル達の合流を見て更に涙目になっていた。


「あら、こんにちは。私はフェア・ハートレスと申します。どうぞお見知りおきを」

「……女に興味ねぇし、めんどくせえけど一応社交辞令として言っておくわクソが。あらまぁ何ともお美しい御嬢さんだ。結婚してくださいますか、なんてね。……これで良いだろボケが」

「何を言っとるのだお前は……」


 今度はその口から機関銃の如く飛び出してきた言葉に、ただ脱帽するアラン。言われたフェアはそれ以上に愕然としていたが。そして数秒の時を跨ぎ、フェアの口から漏れ出るのは笑い声。


「フフフ、まぁ下僕? なんて面白いご友人なのかしらね?」


 アランはフェアをみて思った。(目が笑って無い)と。

そしてついでに先ほどまでのキメラとの戦いを思い出すと、アランは生気が抜けたように放心した。それを見たアランの部下達が思ったのは全て共通。


(あぁ魔王様、完全にこの人(娘)に毒されてるなぁ……)


 そしてボーっと佇むアランにバルドロスは話かけ続ける。


「おい、アラン。おーい、クソ。こいつ持って帰るぞ! 良いのかコラ!!」

「あぁ、大丈夫ですよバルドロス様。どうぞどうぞさっさと帰ってしまってください」


 ファンファンロがアランの代わりに応対し、毒を含めて回答する。が、当の本人は何も思わないのか、メイルが影の茨を切り裂き、自由になっていたキメラの下へと向かった。


「た救け……イヤダぁ!!」

「うるさい黙れ、さっさと俺を運んで飛べよクソが。帰りの火薬はねぇんだ」

「う、うぅ……」


 回復遅延に邪魔されながらも既に治った翅と翼をはためかせ、両手でバルドロスを抱えながらキメラは飛び立っていった。かなり飛行速度はあるようですぐに大声を出さねば届かない距離まで離れた。


(アイツ、キメラが死んだ場合どうやって帰るつもりだったのだ……)


 アランは今頃正気に戻ると、去りゆくバルドロスをみて大きく溜息をついた。そしてフェアの方を見る。相変わらず目は笑っておらずそれ以外は満面の笑みであった。


「お、お嬢様……?」


 不審な声をあげるアラン。するとフェアは半分以上も体格差のあるアランの胸倉を掴むと、その顔を引き寄せた。周囲から驚く声と感嘆の声が同時に出る。

 フェアは挑戦的なふてぶてしい笑みを浮かべ、その顔をアランの顔の隣へと持ってくる。そして真面目な声音で囁いた。


「四主会議だとか良くわからないけれど、せいぜい死んで私の世話にならないようにすることね。私の断りもなく死ぬなんて許さないから。今よりもっとひどい目に合わせてあげる」


 そういうとフェアは顔を離し、胸倉を掴んでいた手も放した。挑戦的な表情はそこになくただ真面目な表情がそこにはあった。そして背後から聞こえてくるメイルの溜息。


(……部下達の話でも聞いて、命の危険性もあるものなのだと理解したか……聡い娘だ。……やはりリュシアと似ている、何者なのだこの娘。……好意を持たれて大丈夫なのか……うぅむ、やはり。嫌われるべきだろうな……)


 アランは一抹の謎を感じつつも、フェアの言葉にうなずき言葉を綴る。


「えぇ、かしこまりました。ですが……」

「何よ?」

「……我の耳はここではありませんよ?」


 アランの言葉の間に、神妙な面持ちになったフェアは突如放たれたどうでもいい事柄に凍りついた。ファンファンロ以下、ジグルオンゼムを除いた三人も囁きの内容は聞こえなかったものの、アランとフェアを取り巻く空気をまったく読めていない発言に凍りつく。

 ひとり平然と大地にたつアランは我関せずというように平然としている。そんなアランを見つめていたフェアは気を取り戻した瞬間、顔を真っ赤に染め上げ


「この……馬鹿ッ!!」


 “白金のネックレス”の力を解放し、全力で振りぬかれるビンタ。

 バキッという軽快な音をたて三メートルもある巨体が倒れる。殴られて倒れゆくアランは痛みを堪えながら部下達を見ると、そこに浮かんでいたのは冷めた目線。魔族溺愛症の心にグサリとダメージが突き刺さる。


「メイル、マーキュリー。屋敷へ行きましょう。こんな馬鹿は放っておいて」

「そうですね」

「ヒーっ…ヒーっ……は、腹痛い……そ、それでは魔王様。」


 先ほどとは逆にマーキュリーの『空間転移門』を使い屋敷の中へと返っていく四人。最後にゲートをくぐったファンファンロの笑い声が虚しく山の中へ消える。


 アランはゆっくり起き上がると、何してんだろ自分。と、冷静に後悔し、猛烈に泣きそうになるのであった。

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