一人の季節XVII
「なんとなく……。なら、大丈夫。狙われるのはおそらく僕だけになるから……」
「なんで、お前だけなんだよ」
将気は首を傾げながら疑問に思う。
「妖は見える人間には容赦をしない。さっき、僕が逃げ出す前にあの妖と目が合っているから向こうは僕を喰らうためにここに居続けるかもしれない……」
「はぁ……。だったら戦えばいいだけだろ?」
「それが無理だから今まで逃げてきたんだ。僕は妖が嫌いだ。どんな奴でもそれは変われない。そもそもこの体質があるせいなんだ」
「だけど、言い換えれば俺達にとっては羨ましいと思うな」
「羨ましい?」
そう言う将気に灯真は、深々と呆れる。
「ああ、俺にとっては羨ましいね。人間に視えないものが視えるってなんか特別な気がするだろ?」
将気は無邪気に笑う。
だが、それは視えない者にとっての好奇心にしか過ぎない。視える者にとっては、恐怖がそれを上回っている。
「特別ね……。なるほど……。でも、僕の考えは変わらない」
灯真はそう言い残すと一人で飛び出した。
「こっちだ!」
桜の花びら舞う林の中で鬼ごっこをするように走る。小さな体でその足を動かしながら小刻みにステップをしながらかわす。
足はどんどん疲れ始め、スピードも遅くなってくる。だが、ここで捕まるわけにはいかない。出来るだけ、人がいる場所から離れたところに行かなければどうなるか分からない。
「うわっ‼」
草の陰で見えなく、灯真は木の根っこに足元をすくわれる。顔面から転び、体に痛みが走る。
起き上がると、赤い液体がポツン、ポツンと地面に落ちてくる。
鼻血だ。
鼻を摘まんで、血の流れを止めるため上を見上げる。すると、目の前にさっきの妖がいた。
「お前、私が視えるんだろ?」
妖が話しかけてくる。声が低く、手を伸ばしてくる。
「…………」
灯真は、黙ったまま話そうとしない。
声が出ないんじゃない。自分の頭で考えて声を出さないのだ。後退りをしながら距離を取ろうとするが、すぐに縮められてしまう。
しかし、二人の間に丸い球体がいきなり飛んできた。
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