一人の季節XV

「なんでこの場所を知っているんだよ‼」

「なんでって言われても……。この場所、前から知っていたから……」

 将気の質問にさらりと答える灯真は、また黙りだして食べ始める。

「有馬さん、だ、大丈夫なのでしょうか? うちの子、たまにつっかってくる時があるんですけど……」

 泰子は、口を手で覆いながらひそひそと美咲に話す。

「うちの子なんて人に興味すら持たなければ喧嘩しているところなんて見たことありませんからこのままにしておきましょうよ。私的にはその方がいいんですけどね……」

「灯真君は喧嘩もしたことが無いんですか? 将気とは違いますね。私はいつになったら本当の友達ができるのか心配でたまりませんよ」

「男の子の母親ってそう言う悩み多いですよね」

「ええ、恥ずかしながら……」

 二人は自分たちの息子を見て、溜息をついた。

「‼」

 灯真は、将気の後ろにいる妖に気づいた。

 黒い姿で高校生くらいの体格で茂みの方からこちらを除いている。

「何睨みつけているんだよ‼ 俺の顔に何かついているのか!」

 将気は灯真の胸倉を掴んで前後に体を揺さぶる。

「ああ、だからついて来い!」

 灯真は靴を履いて、将気の腕を引っ張ると広場の方へと走って行った。

 残された二人の母親は、楽しそうに二人の後姿を見つめていたが、美咲は内心、心配になった。

 灯真の後ろを追っている黒い影が気になっていたからだ。自分も同じ能力を持っており、妖の姿を見ることができる。

「浦原さん、私、少しお手洗いに行くのでここ見張っていてくれませんか? 二人が帰ってきたら一緒に食事でも……」

「分かりました。ここで座っておきますね……」

 泰子はシートに座って、一人で楽な体制で美咲を見送った。


 灯真は、将気を連れて広場からまた茂みの中に入り、気の陰に隠れる。

「おい! いきなり何するんだ! こんな所に連れて来やがって……」

「うるさい! 少し黙っていて……」

 灯真は、追ってくる妖の姿を陰から様子を窺う。

 やはり、追っているのは灯真と将気の二人らしい。

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