一人の季節Ⅺ

「うわぁ……。すごい景色! でも、私たちの家は見つからないか。灯真の目からは何が見えるの?」

「普通にいつものこの街の景色。何もとりえのない田舎の街並みだよ」

「意外と理屈っぽいこと言うのね……」

 美咲は、愛想笑いをする。

 展望台の最上階にたどり着くと、そこには頂上肩の景色を眺めるために人が集まっていた。近くには十五分・百円で街を眺めることができる双眼鏡が八台ほど設置されていた。

 天井には星座が、いくつも描かれており、とても綺麗だった。

 灯真は、空いている双眼鏡の前に立つと、美咲から百円をもらい、硬貨入れに百円玉を入れると、そのまま覗きながら景色を眺めた。

 車や人、鳥などが動いており、今まで見たことが無い街の隠れ道を見ることができた。

「へぇー、あんな場所にこんな道があったのか……」

「灯真、何か見えたの?」

「ママも見てみたら?」

「どれどれ……」

 灯真は、台から飛び降りると、その後に美咲が覗く。

 それは昔と今、変わったところが多くある街の景色だった。無かった場所にビルや家が建ち、あった場所は、平地になり、公園や駐車場になっていた。

「灯真、今はこんな街だったけど、昔は田んぼや民家が多かったのよ。他にも今では考えられないほどに何もなかった時代。それを思い出すと、今の時代の方がずいぶん楽になったわ」

「ママの時代って、そんなに不自由だったの?」

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