一人の季節Ⅹ

 人には興味が無い自分の息子が、誰かを心配することはあまりない。それよりもいつも冷静で何かに怯えているように見えていたからだ。だから、可笑しかった。

「ねぇ、灯真はなんでこの山の公園がお気に入りなの?」

 美咲は、今まで訊くに訊けなかった質問を投げた。

「別にそこまで好きっていうわけではないけど……なんだかあの公園のベンチに座って街全体を見渡しているとなんだか落ち着くんだよ。それもこんな昼間から人が多い時間帯じゃなくて、人の少ない、太陽が丁度西の空に消え始める夕日の時が、美しい時なんだ……ママにも見せてあげたいよ」

「そうか……確かに夕焼けの景色って朝見る太陽が海から顔を出す頃と同じくらいきれいだものね。お母さんもその気持ち分かるわ」

 木の小枝と葉が、入り混じっているところから光が差し込んでいるのを見てそう言った。

 美咲はゆっくりと立ち上がると、お尻の部分についた落ち葉を払い落す。

「じゃあ、先に進もうか」

 手を伸ばして、灯真の体を起こす。

 灯真は、母の手を取り、体を起こすと立ち上がり、再び山を登り始めた。

 坂道を登ると、途中で会談が見えてくる。ここは子供たちが遊ぶ公園だ。だが、今日は頂上まで登ることになっている。そのまま前を歩く。

 体の皮膚から出てくる汗は、服に染みついたり、地面に一滴ずつ落ちていく。


 ついたことには、頂上に家族連れが多くいた。どこかで見たことのある顔がちらほらといる。

 二人は、そのまま展望台に入り、エレベーターに入ると、最上階まで一気に上り始めた。

 ガラス張りのエレベーターは、外の景色を見ることができる。街の中心にはいつも下から眺めている赤白の交互に塗られた煙突が小さく見えた。展望台の下にいる人々が、どんどん遠くなっていき、烏合の衆のように小さく見えた。

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